人生の達人はBARにいる 第4回

東京ステーションホテル バー&カフェ カメリア

人生における大きな決断をどうするべきか… 営業マンからの転職を経て今の道にたどり着いたバーテンダーが背中を押す!

文●オシミリン(LOVEWalker編集部)

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谷川浩之さん

 たくさんの人が訪れ、さまざまな悩み相談に答えてきたであろう丸の内のバーテンダーの方に、あなたに代わって相談を投げかける本連載「人生の達人はBARにいる」。今回は、東京駅・丸の内駅舎内のホテル、東京ステーションホテルの「バー&カフェ カメリア」を訪れました。バーテンダーが提供するカクテルはもちろん、お料理やアフタヌーンティーなども楽しめます。「バー&カフェ カメリア」でバーテンダーとして働く谷川浩之さんにお話を伺っていきます。

すべての経験が自分の成長につながると信じ、自分の決断を自分で肯定!

 今回のお悩みはこちら。

転職するか否か… 人生の大きな決断ってどうやって決めればいいの?
今、転職をするかどうか悩んでいます。今の会社には給料面などの不満やもっとステップアップしたい気持ちがあるのですが、仕事自体はそれなりに楽しんでいて、一緒に働いている人たちのことも好きなので、転職したら今の会社を離れたことを後悔するのではないかと不安です。人生における大きな決断って、どうやって決めたらいいのでしょうか? バーテンダーさんはどうやって今の仕事を選びましたか?


──転職をするかどうか、悩んでいる人のお悩みです。転職をする時ってやはり勇気がいりますし、悩みますよね。

谷川さん「そうですね。私自身もこれまで結構転職をしてきた方なんです」

──そうなんですね! これまでの遍歴を教えていただいてもいいですか?

谷川さん「大学卒業後、最初は大阪にある専門商社で海外営業職として働いていました。ですが、その仕事が自分ではあまり面白いと思えず…。大学時代に居酒屋などで接客業をしていたこともあり、また接客業にチャレンジしてみたいと思い、バーテンダーを目指しました。

 最初に大阪のバーで4年間働き、その後縁があって東京のバーで6年店長を務めました。そこから今の東京ステーションホテルで働き始めて2年になります。バーテンダーになってからも何度か転職していますね」

──営業職からバーテンダーへの転職というのはかなりチャレンジのようにも感じます。当時はどんな思いだったんでしょうか?

谷川さん「このときは意外と楽観的だったかもしれません。自分のやってみたい、という気持ちに素直に従ってチャレンジしたというかんじです。

 バーテンダーとして働き始めるまで、実はバーへ行った経験もなかったのですが、お酒が好きという気持ちと、接客業の中でもあらゆる要素が詰まっているのでは、と考えたことから志しました。単純にカッコイイという憧れもありましたね(笑)」

──バーへ行ったことがなかったというところから、会社員をやめてバーテンダーへ転身したというのは驚きです。1番最近の転職になる、東京ステーションホテルへの転職はどうでしょうか?

谷川さん「今の職場である東京ステーションホテルへの転職は38歳の時になります。それまでは町場でのバーでしか経験がなかったので、この年齢で新しい環境に身を置いてホテルのバーテンダーとして働けるのか、という不安はありました。

 ですが、以前からホテルバーで働いてみたいという気持ちはあったんです。そんな頃、コロナの影響もあり町場でのバーの営業というのはかなり大変になりまして…。この機会にホテルバーにチャレンジしてみようと決意して今に至ります」

──これまでの転職をする際、大事にしてきた考えなどはありますか?

谷川さん「大学卒業後に最初に働いた商社の社長が“人生は判断の連続だ、時には思い切った決断をしなくてはいけない”ということをよく言っていたのですが、本当にその通りだと思っています。私自身その考えを大切にして、悩むときもありましたが決断を下してきました。

 転職したら後悔するかもしれない、と不安になることはもちろんあると思います。ですが、転職後に『前の職場の方が良かった』と後ろ向きに考えない方が良いんじゃないでしょうか。自分の選択を自分で肯定することが大切だと考えていますね」

──自分で決断した選択を否定してしまうのはつらいかもしれませんね。

谷川さん「はい、時には自分の決断に後悔することもあるかとは思います。ですが、それもまた良い経験だと前向きに捉えることが人生を楽しむためには必要なんじゃないかと思いますね。必ず自分の経験値は上がるはずですし、視野も広くなると思います。視野が広がればまた新たな選択肢も見えてくると思いますし、転職してそこで終わりではなく、また新たなものを見つけられるかもしれません。

 私自身、特に現在の職場に転職する際にはとても不安な思いもありましたが、自分自身の成長のためだと言い聞かせてチャレンジし、今ではその決断が間違いではなかったと思えています。 “やってみたい”という気持ちがあるのなら、チャレンジする姿勢を大事にして転職をすることも、自分の成長につながる良い経験になるのではないでしょうか」

 これまでに何度かの転職を通じてチャレンジを続けてきた谷川さんだからこその、転職を迷う人の背中をそっと押してくれるような回答を聞くことができました。

お客様の反応をダイレクトに感じられるバーテンダーという仕事

 これまでの経験から転職を迷う人に寄り添う回答をしてくれた谷川さん。そんな谷川さんご自身のことや、谷川さんの働く東京ステーションホテル バー&カフェ カメリアの魅力に迫ります。

谷川浩之さん

カクテルを作る谷川さん

 バーへ行った経験のないところからバーテンダーの道を志した谷川さん。谷川さんが最初に勤めたのは、大阪にある缶詰バーでした。お酒はハイボールがメインで、おつまみとしてさまざまな缶詰を提供しているバーだったと言います。「初めの頃は緊張の連続で、カウンターに1人で立つことになった日は『頼むからお客様来ないで!』と思うほどでした(笑)」と当時のことを話してくれた谷川さん。

 そんなカウンターを1人で任されるようになった初めの頃、年配の男性の方がやって来て「おい、ここはタンカレーあるんか」と聞かれたそう。当時まだお酒の銘柄などを十分に理解していなかったという谷川さん、「タンカレー」を「牛タンのカレー」だと思い、「すみません、タンカレーはご用意がないのですが、イナバのタイカレーでしたらございます」と答えます。

 するとそのお客様は「バーテンダーのくせに酒の種類も知らんのか!」とお怒りに。「タンカレー」とはジンの銘柄のことだったのです。お客さまには呆れられてしまいましたが、お店にあったジン「ビーフィーター」でカクテルを作ると気に入ってもらえたそう。「バーテンダーの仕事を始めたころの強烈な思い出ですね。まだまだ知らないことばかりの時代でした。その後、そのお客様は常連になってくださり、今では良い思い出になっています」と話してくれました。

 お客様との思い出を話してくれた谷川さん、やはりバーテンダーという仕事の1番の魅力は良くも悪くもお客様の反応をダイレクトに感じられるところだそう。「提供したお酒を飲んでいただいて、喜ぶ顔が見られたときはほんとうに嬉しいですね。自分の接客がお客様のリピートに繋がった時もこの上ない喜びです」とのこと。

 しかし、初心者にとっては敷居の高さを感じる場所でもあるバー。谷川さんも「私自身バーテンダーとして働きだすまで、バーには格式の高さを感じて入れずにいました」と話します。「ですが、勇気を振り絞ってバーへ一歩足を踏み入れていただければ、バーでしか得られない経験にきっと感動してもらえるんじゃないでしょうか。注文にお困りの際も、お客様とのコミュニケーションのきっかけになるので、ぜひお気軽にリクエストしていただきたいですね」と教えてくれました。

東京駅丸の内駅舎内で歴史を紡いできた東京ステーションホテル

 東京駅丸の内駅舎に位置する東京ステーションホテルは、東京駅開業の1年後である1915年に開業。その後、1945年の空襲によって丸の内駅舎は屋根などが焼失し、3階建ての姿から2階建てへと形を変えて復旧しました。2003年には丸の内駅舎が国の重要文化財に指定され、2007年より元の姿へと復原・保存するための大規模な工事が行われます。それに伴い東京ステーションホテルは一時休館。2012年に再開業します。このように100年を超える歴史を持つ東京ステーションホテル。丸の内駅舎内の約3分の2がホテルで占められているというのも驚きです。

東京駅丸の内駅舎

東京駅丸の内駅舎

 そんな東京ステーションホテル内にある「バー&カフェ カメリア」も歴史を体感できる場所。1951年から使用されている切文字が今も店内に飾られています。

切文字

書体がおしゃれな切文字

 また、店内のこちらの時計にも注目。

時計

長年「バー&カフェ カメリア」で時を刻んできた時計

 この時計の面白いところは、実際の時間よりも5分早く設定されているところ! 5分早めて設定してあることで、お客様が終電を逃してしまわないように工夫してあるのです。東京駅の改札まですぐの東京ステーションホテルならではの心遣いです。現在は22時までの営業ということで終電を気にされるお客さまはほとんどいませんし、今はほとんどの方がスマホで時間を確認するそうですが、この時計からは当時の雰囲気を感じ取ることができます。

時計

実際は16時28分ですが、店内の時計が差すのは16時33分!

 また、ソファの色は、「カメリア」という店名が意味する花・椿の色のようなダークピンク。落ち着いた重厚感のある雰囲気を作り出しています。

ソファ

ダークピンクのソファは重厚感があり、落ち着いた雰囲気

 谷川さんはバー&カフェ カメリアの魅力について、「“バー&カフェ”なので、お酒はもちろんですが、ボリュームのあるお食事からアラカルト、デザートなど幅広くご用意があり、用途に応じて楽しんでいただけることが1番の魅力です。カクテルも月替わりのものや、ノンアルコールのモクテルなどのご用意もあり、お酒を飲む日も飲まない日もいつでも楽しんでいただけると思います」と話します。歴史を感じるラグジュアリーな空間の中で、お酒に限らずいろいろなタイミングで楽しむことができそうです。

バーカウンター

バーカウンターもあり、もちろん本格的なバーとしても利用できます

人生という旅を後押ししてくれるカクテル

 今回も、相談者にオススメのカクテルをお作りいただきます。転職に悩む相談者へオススメいただいたのは、「アヴィエイション」。

カクテル「アヴィエイション」

今回いただくのはこちら

 「アヴィエイション」は英語で“航空機”を意味します。「このカクテルはカクテル言葉が“そよ風に吹かれて”です。心の赴くままに、自信を持って飛び立ってください、という気持ちでこのカクテルを選びました」と話す谷川さん。谷川さんご自身も好きなカクテルの1つなのだとか。

 早速いただいてみるとすっきりとした味わいで、後味もさっぱり。気持ちもすっきりさせて、転職にも前向きになれそうです。

 また、1番人気のカクテルも教えてもらっちゃいました! それが「東京駅」。東京ステーションホテルならではのカクテルです。

カクテル「東京駅」

1番人気のカクテル「東京駅」

 長年東京ステーションホテルでバーテンダーとして勤めている伝説のバーテンダーが考案した、東京駅丸の内駅舎のレンガ色をイメージした色合いが特徴のこのカクテル。ベースとなるジンやハーブリキュールなどで爽やかな味わいでありつつ、この色合いのもとともなっているグレナデンシロップで甘さも感じられるカクテルです。カクテルを半分ほど飲んだところでライムを絞ると味が変化し、列車の上りと下りのように2度楽しめるというのも粋!

 航空機を意味する「アヴィエイション」、新幹線の発着駅でもある「東京駅」、旅に関連する2つのカクテルどちらも人生という旅をきっと後押ししてくれるはずです!

谷川浩之さん

ご自身の経験をもとに納得の回答をしてくれた谷川さん。ありがとうございました!

 次回もバーテンダーさんの名回答と、美味しいカクテルが楽しみです!

東京ステーションホテル バー&カフェ カメリア
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1 2F
営業時間: ランチ11:30~14:00(最終入店)、土日祝 11:30~15:00(最終入店)、ディナー 17:00~22:00(L.O.21:30)
定休日:なし
電話番号:03-5220-1951(11:00~20:00)


文 / オシミリン(LoveWalker編集部)

大阪生まれ。
趣味は読書と写真を撮ること、おいしいものを食べておいしいお酒を飲むこと。