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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第295回

ソニーエリクソンでかつて培われた、パーソナルサウンドの技術を搭載

NUARLのMEMS搭載完全ワイヤレス「Inovatör」(旧X878)の秘密とは?

2024年07月14日 11時45分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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 昨年の「ポタフェス2023冬 秋葉原」の記事で、NUARLが完全ワイヤレスイヤホン「X878(仮称)」を開発中であると紹介した。MEMSスピーカーを搭載したハイブリット構成で、クアルコムの新世代SoCが内蔵する2つのDAC ICとアンプを活用する新機軸を採用した点に特徴がある。その設計の秘密と言ってもいい情報が明らかになった。

 7月10日に開催されたNuarlとaudiodoのイベントでは、X878のもう一つの特徴であるパーソナライズ機能が紹介され、スウェーデンのaudiodoの技術を導入することが発表されている。

audiodoの技術はオーディオロジストの力を借りるのに近い

 まずaudiodoの技術だが、元はソニーエリクソンのパーソナルサウンド分野のチームが独立したもので、DSP技術とサイコ・アコースティック(心理音響学)分野に長けているということだ。

 audiodo技術の特徴はクラウドを経由せず、ほぼイヤホン内で完結していることだ。聴覚テストの際にはスマホアプリを使用するが、実のところほとんどの処理がイヤホン内で実行され、テストトーンの音源もイヤホン内に持っている。結果、Bluetoothの伝送ロスがない正確なトーンを出せる。

 テスト結果はイヤホン内に記録し、内蔵のDSPで処理する。この処理は左右が完全に独立した正確なものになっているのが特徴で、人間の聴覚が左右差に敏感である点を考慮していると考えられる。つまり、audiodoの技術は正確性とDSP内処理が特徴だ。これはオーディオロジスト(Noble Audioのジョン・モールトン氏のような聴覚専門家)が担当するような仕事を精密に素早く実行できるということであり、一度プロファイルを作成すれば、上流の音源(接続するスマホや再生プレーヤー)が変わっても、聴覚補正の効果が続くことを意味する。加えて、audiodoの技術はイヤホンが持つサウンドキャラクターを阻害しない。パーソナライズしても、その音質を保てる点に特徴があり、それは後の試聴でも実感できた。

 なお、現行の第4世代より先の世代では、パーソナライズの技術を反映して外音の聞こえも改善できる新しいヒアスルー技術(パーソナル・ヒアスルー)を搭載する予定。現在開発中で、今年後半のリリースを目指しているということも明かされた。

Nuarlが2x2 Soundを採用した秘密は?

 イベントでは、X878についても詳細に解説された。NUARLでは自らの理想とする音を実現するために、炭素系素材を使用する独自のダイナミックドライバーの採用にこだわってきた。これをより良い音で鳴らすために、MEMSスピーカーをハイブリッド構成で搭載することにしたという。

 理由は炭素系素材の振動板には素材固有の問題があるためだ。高域の一部(特定の周波数)にディップなどの問題が生じやすいので、それをMEMSスピーカーの搭載で解決しようと考えたという。ただし、自社の音作りはあくまでも「ダイナミックドライバーを中心にしたい」と考えているので、MEMSスピーカーは9kHz以上とかなり高い周波数帯だけを担当するようクロスオーバーを設定している。つまり、X878の再生で主役になるのはダイナミック型ドライバーであり、MEMSスピーカーはその弱点を改善するための補助的なドライバーと考えているという。

 ただし、MEMSスピーカーとダイナミック型ドライバーを単純に組み合わせただけでは、音は決して良くならない。それぞれの周波数特性が大きく異なるため、相互のバランスを取りにくく、クロスオーバー周波数付近に音質上の問題が生じやすいためだ。また、MEMSスピーカーには昇圧用のアンプも必要だ。フィルターで帯域を分割した後に昇圧すると、クロスオーバーに起因したひずみなどの問題が具現化しやすいという。

 こうしたMEMSスピーカーを追加するがゆえに発生するクロスオーバーの問題を解決するため、X878はデュアルDAC、バイアンプ駆動(2x2)方式を採用し、異なる性質を持つダイナミックドライバーとMEMSスピーカーの性能を引き出せるようになるとしている。これがNUARLの2x2 Soundの秘密というわけだ。

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