美術古陶磁復元師の磨き抜かれた技と仕事に向き合う姿勢に感服
6月10日に「第14回衛星放送協会オリジナル番組アワード」の最優秀賞が発表され、番組部門 文化・教養では「ゴッドハンド 復元師と天翔る白馬」(NHK BSプレミアム)が受賞した。
同番組は、戦後から人知れず日本の美術界を陰で支えてきた復元師一家の磨き抜かれた技と人類の宝を後世へつなごうとする生きざまを追ったドキュメンタリー。美術古陶磁復元師の繭山浩司・悠親子が修復を手がけた宝物は、茶の湯・千家に伝わる450年前の黒楽茶碗、ウィーンの古城で破壊された古伊万里の大皿など5000点以上にのぼり、全国の美術関係者から預かった数々の破損品をどんなに目を凝らしても傷跡がわからないまで復元し、“ゴッドハンド”の異名をとる。そんな繭山親子による、古美術界の重鎮から持ち込まれた、時価1億円という、江戸時代に有田で焼かれた磁器の色絵馬“伊万里色絵馬置物(柿右衛門様式)”と、陶芸の人間国宝・十四代 今泉今右衛門から持ち込まれた江戸の大名や将軍家に愛された絵皿“鍋島焼 青磁色絵桃宝尽し文皿”の修復復元作業に迫る。
ブラックライトなどを駆使して過去の修復跡を見極める眼力と、可能な限りオリジナルのクオリティを保つため、どんなところにまでも足を運んで調査し、情報がない中で模索しながら正解を探し、飽くなき向上心と確かな技術で美術品を修復・復元していく姿は圧巻。息をするのも忘れるほどに引き込まれてしまう仕事ぶりはまさに職人芸で、ビフォー・アフターで傷が見えなくなった“結果”ではなく、作業中に傷が見えなくなっていく“経過”を捉えた映像に、磨き抜かれた技の凄さと共に映像作品ならではのアイデンティティーを感じさせてくれる。
一流の職人芸だけでも見応えがあり十分に楽しめるのだが、番組を通して感じる“彼らの仕事に向き合う姿勢”が心に刺さる。及第点ではなく自分が納得できるところまで突き詰め、見えないところにまで手を入れ、試行錯誤を繰り返しながら“修復・復元道”を邁進していく。「正直、行き過ぎたこだわりだなと思う部分もあります」「自己満足の世界ですよ。自己満足できなくなったら“仕事した感”がない」と笑いながらさらりと言ってのける姿に、「自分はちゃんと仕事に向き合えているだろうか?」と思わず自問自答させられてしまう。
美しさすら感じる職人芸もさることながら、彼らの仕事に向き合う姿勢から学ぶところが多い良作だ。