開発者に優しくなろうとしているWindows
現状、Windows以外の多くのプラットフォームが、開発環境としてWindowsを使っている。異なるプラットフォーム向けのソフトウェア開発を「クロス開発」と呼ぶが、Windowsは最も使われているクロス開発プラットフォームだろう。
ただ、これまで、Microsoftは開発ツールを提供するなどはしてきたが、Windows自体を開発プラットフォームとして環境整備することがなかった。
その風向きが変わったのがWindows 10である。設定に「開発者向け設定」が入り、Linux環境を動かすWSL(Windows Subsystem for Linux)が導入された。Windows 10より前、Windowsはパソコン初心者にとって使いやすくすることが至上命令で、開発者のような“玄人”のことは何も考えていなかった。
もっとも、勝手にレジストリを書き換えるようなこともできたので、「放置」していてもよかったわけだ。しかし、スマートフォンの台頭やWebサイト構築などで、開発者の数が増え、必ずしもすべての開発者がWindowsに精通しているわけでもない時代になった。
そうなると、クロス開発の開発者が他のプラットフォームに逃げていく可能性もある。Microsoftも開発者に「優しく」なる必要が出てきた。
Dev Homeは、こうした動きの一環といえる。現状、Windowsに開発環境を頼らないプラットフォームは、LinuxとmacOSくらいだろう。そのLinuxはすでにWindowsに取り込んだのであるから、ほぼすべてのプラットフォームの開発に利用できるようになった。Windowsは、x86/x64だけでなく、ARM版Windowsもあり、ARM64のバイナリも実行が可能だ。
Microsoftの主力開発ツールであるVisual Studioも、PythonやNode.js(JavaScript)といった開発が可能になっている。また、Win32側で開発したLinux向けコードをWSLで実行することもできる。
また、Docker Desktopを使うことで、Linux向けに作られたコンテナの実行も可能になり、WSLgでLinux GUIアプリケーションも動かせるようになっている。Linuxの開発ツールはコマンドラインのものも多く、Dockerコンテナイメージで配布されるものも少なくない。これにより、コンテナを動かすだけで開発がすぐにできるようになる。
Windows 10以来、実行環境としては充実してきたわけだが、さまざまな環境整備をするための最後のピースがDev Homeというわけだ。ただ、まだプレビュー版でもあり、かなり荒削りな状態だ。今後は、ローカル推論に使われるAIモデル(学習済みニューラルネットワーク)なども開発の対象となる。開発プラットフォームとしてのWindowsの環境整備はようやく入口に到達した段階と言えるだろう。
Dev Homeは、いまのところ、すべての開発者に便利というわけでもないが、役に立ちそうな機能もある。筆者は、今のところ個人でしか開発していないので、チーム開発向け機能の使い勝手がいいのかどうかは判断しかねる。しかし、WingetやDev Homeの機能でインストールしたアプリや、言語パッケージの更新通知やプロセスの情報を得られるProject Ironsideあたりは、個人開発者でも使えそうである。
Dev Homeの「マシン構成」にある「アプリケーションのインストール」を使えば、構成ファイルを出力できる。単独でWingetコマンドを使ってインストールするより、再現性が高く、何かのときに開発マシンを別に用意する、ハードウェアを乗り換えるときなどに便利だ。しかも、Wingetでインストールできるなら、対象は開発ツールでなくてもよい。

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