バランスシートに表れない力をどう評価するか
講演のなかでは、人的資本投資に対して、投資家が注目している理由についても触れた。
「投資家は、企業の中長期的な成長力を知りたいと考えている。そのために、バランスシートには現れない無形資産の構築や活用力、社会課題解決力に注目している。具体的には人的資本の育成と活用、DX構想力と活用力、過去からの積み上げではなく、将来の姿からバックキャスティングしたイノベーション創出力が、大切な視点になる。DXをいかにデザインし、それを経営にいかに実装するかといった点を、投資家との対話に反映させ、統合報告書のなかで、いかに価値創造ストーリーとして、説得的に語れるかが重要である」とした。
調査によると、人材投資やデジタル投資に関して、投資家と企業の間には、認識に大きなギャップがあり、企業は投資に踏み切れていないという結果があるという。
また、DXへの取り組み状況を投資判断に活用している投資家は48%に達しているが、企業から提供されているDXに関する情報が不足していると感じている投資家が多く、なかでも、「DXの取り組み状況」や「成果を把握するための客観的評価指標」、「DXを推進する専門人材の獲得・育成に関しての情報提供」に対する満足度が低いという。
伊藤委員長は、「2023年が人的資本情報開示元年であったのに対して、2024年はレベルアップした情報開示がみられることになる」と前置きし、「投資家が人的資本情報に関心が高い理由は、企業が打ち出した中期経営戦略やビジネスモデルが実現できるのかどうかを推し量るためである。絵に描いた餅になっていないことを確認するためである。これまでは、中期経営戦略の実行を担う人たちの情報が開示されていなかった。それがやっと開示されるようになった」と述べた。
日本のDX化は確実に進んでいるが、米国はさらにその先
DX銘柄2024の選定企業のスコアが高まっていることや、日本においてもDXの成功事例が紹介される機会が増えるなど、日本のDXは着実に進展しているのは間違いない。こうした状況は、IPAがDX銘柄2024の発表にあわせて発行されたレポートのなかでも触れられており、DX推進に関する経営ビジョンやビジネスモデル、戦略をはじめとしたDX成功のポイントが示されている。
だが、伊藤委員長が指摘するように、米国企業の経営スタイルは、すでに一歩先に進み、日本企業はPoCの繰り返しのまま、実装に踏み出せていない企業がまだまだ多いのも事実だ。日本のDXをより加速するためには、まだまだ経営の意識改革が必要だといえそうだ。
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