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年次イベント「Think 2024」での発表を解説、生成AIアシスタントの強化も

IBM、OSSの成功手法をAI基盤モデル「Granite」開発に生かす

2024年06月04日 16時30分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 日本IBMは、2024年6月3日、5月20日から米国で開催された年次イベント「Think 2024」を振り返る説明会を開催。同イベントは、91か国から5500名以上が集い、日本からも150名以上が参加したという。

Think 2024は米国ボストンにて開催、昨年の倍近くの参加者が集った

 日本IBMの執行役員IBMフェロー IBMコンサルティング事業本部 CTOである二上哲也氏は、「watsonxを発表した昨年のThinkから1年が経ち、生成AIをいかに顧客サービスや業務の中に適用していくかが話題の中心となった。特に、大規模にビジネス価値を拡げていくために、いかにAIをスケールさせるか、浸透させていくかにフォーカスしている」と説明。

 説明会では、AIをスケールさせていくための、オープン化を進めた基盤モデル開発や、IBM製品への生成AIの統合について解説された。

説明会の登壇者:(左から)日本IBM 執行役員IBMフェロー IBMコンサルティング事業本部 CTO 二上哲也氏、テクノロジー事業本部 Data and AI エバンジェリスト 田中孝氏、理事 テクノロジー事業本部 IBM Automation事業部長 上野亜紀子氏、テクノロジー事業本部 Data and AI 製品統括部長 四元菜つみ氏

基盤モデル「Granite」のオープン化、OSSプロジェクトの手法をAI基盤モデル開発に

 Think 2024で最も大きなポイントだったのが、同社の基盤モデルである「Granite(グラナイト)」ファミリーのオープンソース(OSS)化だという。

 顧客企業が自社専用モデルを作れる“オープンなモデル”は他のLLM開発元も公開しているが、「モデル本体を拡張できるのは開発元のみ」だと二上氏。一方でGraniteは、モデル本体を拡張できるコミュニティに参加できるのが特徴となる。

 オープンな基盤モデルの開発は、一般的には単一組織によるモノリシックな開発となっているため、リリース間隔は不定期であり、将来のロードマップも見えず、プロンプトエンジニアリングは推測と試行の繰り返しで進める必要があった。

 Graniteでは、モデルだけではなく開発サイクルやコミュニティの協働までをオープン化していく。定められたロードマップに基づいて活発にアップデートがなされ、コミュティの参加者と共に基盤モデルを育てていくという、成功しているOSSの開発プロジェクトと同様の手法をとる。

Graniteを“真にオープンな”基盤モデルとうたう

 このオープンなコミュニティには、IBM Researchが開発し、Red Hatと共にオープンソース化した「InstructLab」が採用され、watsonx.aiやRed Hat Enterprise Linux AI(RHEL AI)と統合された上で展開される。InstructLabは、基盤モデルの開発における、事後学習の質問・回答を効率的に学習させるための仕組みを備えている。

 モデルに学習させたい知識やスキルを、タクソノミー(分類学)で定義し、追加学習の要件を定める。さらに追加学習では、サンプルとなる一部の学習データを用いて大量の教師モデルを作成し、合成データを生成するアプローチをとる。合成データは、別の評価モデルを用いて品質を高めた上で、生徒モデルの学習に適用する。

タクソノミー(分類学)ベースの知識やスキルの定義、合成データによるモデル学習

 日本IBMのData and AI エバンジェリストである田中孝氏は、「InstructLabの仕組みを使うことで、多くの企業で追加学習のハードルとなっているデータの収集や管理という課題を解消できる」と説明。

 加えて、Pull Requestという形でコミュニティ参加者が拡張したい知識やスキルにコミットし、コミュニティの評価を経てリポジトリに登録するという、オープンな基盤モデル開発を推進できる。

Pull Requestを起点としたモデル学習とモデルリリース

 コアとなるGraniteのオープンソース化自体は、自然言語処理系のGraniteに加え、コード生成系のGranite Code、時系列分析のためのTime series、そしてNASAと共同研究を進める地理空間分析のGeospatialといった計18モデルが対応する(Geospatialは2024年6月予定)。

オープンソース化されたGraniteファミリー

 また、Graniteのオープンソース化を通じて他ベンダーとの連携も進んでおり、例えばAmazon SageMakerとwatsonx.governanceのやり取りがAWS上で可能になったり、watsonxがAzure上で実行可能になったりしている。

watsonxのエコシステムの拡大

自動化領域の生成AI適用と生成AIアシスタントの強化

 続いては、IBM製品自体に生成AIを組み込むアップデートが紹介された。

 まずは自動化(IT Automation)の領域だ。同社はここ数年、IT運用のポートフォリオの拡充に注力しており、エンタープライズ・オブザーバビリティでは「Instana」、「Cloud Pak for AIOps」を、リソース最適化管理では「Turbonomic」、ネットワーク管理では「SevOne」、「NS1」、「Hybrid Cloud Mesh」、FinOpsでは「Cloudability」、IT投資最適化では「Apptio」といった製品を、買収・開発してきた。まだ買収は完了していないが、インフラ管理自動化のHashiCorpの製品もここに加わる。

 Think 2024では、これらのIT運用の製品にAIを組み込んでいくこと、そして、新たに開発された「IBM Concert」が発表された。

IBMのIT運用自動化のポートフォリオ

 IBM Concertは、現場で乱立するIT運用ツールのサイロ化を解消する製品だ。アプリケーション開発から、運用保守に至る各製品が取得するデータ、開発環境や実行環境のデータを集約。アプリケーションごとのデータの関連性を可視化して、多様な視点でデータの洞察が得られるプラットフォームとなる。

 日本IBMのIBM Automation事業部長である上野亜紀子氏は、「アプリケーションの運用ライフサイクルにおいて、開発担当者や運用担当者が知りたいビューで洞察を得られ、それに対するアクションを実行できる」と説明。

 IBM Concertは、6月18日に提供開始され、提供方法はSaaS(IBM Cloud/AWS)とオンプレミスを用意。初期リリースは、アプリケーションのリスク管理にフォーカスされているが、データソースとなる対象製品を拡張しつつ、ユースケースと機能を強化していく予定だ。

IBM Concertの概要

「Lens(レンズ)」を通してアプリケーションの状態を特定の観点で把握、緊急度の高いリスクも深掘りできる

 もう一つのアップデートは、生成AIアシスタントである「watsonx assistants」の強化だ。

 日本IBMのData and AI 製品統括部長である四元菜つみ氏は、「AIを“相棒”や“仕事仲間”として、業務の生産性向上に特化した製品群。同様のソリューションが各ベンダーにあるが、特に異なる点は、専門ナレッジに基づき、特定の目的に役立つよう設計されているところ」と説明。

 その他の特徴として、徹底的な自動化を進めることで、業務のセルフサービス化を実現できること、複雑化・サイロ化している業務も、AIが一気通貫で統合することが挙げられた。

 Think 2024では、チャットベースで業務フローを自動化する「watsonx Orchestrate」への生成AIの統合が発表された。企業に蓄積されたドキュメントに基づく問い合わせも可能となり、業務効率化をさらに促進するという。

watsonx Orchestrate

 また、モダナイゼーションを加速させる生成AIアシスタントとして、「watsonx Code Assistant for Enterprise Java Applications」を発表、2024年10月にGA予定だ。Javaのアップグレードを生成AIが支援するサービスで、コードを生成するだけではなく、単体テストの生成や、古いアプリや変換されたアプリのコードを解説してくれる。

 経営指標やKPIの管理においても、生成AIアシスタントを展開する。同じく2024年10月にGA予定の「watsonx BI Assistant」は、データに基づく意思決定やアクションにフォーカスした支援を提供する。

 例えば、ロールやアクセス権のあるデータに応じたKPIが表示され、注視すべきKPIが変化した際にはアラートを上げてくれる。何が起きているのか、将来何が起こるのかといった質問に対して、根拠となるデータとあわせて回答を提示してくれ、素早いアクションにつなげていくことも可能だ。

watsonx Code Assistant for Enterprise Java Applications

watsonx BI Assistant

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