京都大学の研究チームは、ヒトiPS細胞から、「始原生殖細胞(Primordial Germ Cells:PGCs、ヒト胚では受精後2週目に形成される最も未分化な生殖細胞)」を経て、精子及び卵子のもととなる前精原細胞及び卵原細胞を大量に分化誘導する方法論の開発に成功した。
京都大学の研究チームは、ヒトiPS細胞から、「始原生殖細胞(Primordial Germ Cells:PGCs、ヒト胚では受精後2週目に形成される最も未分化な生殖細胞)」を経て、精子及び卵子のもととなる前精原細胞及び卵原細胞を大量に分化誘導する方法論の開発に成功した。 研究チームは以前、ヒトiPS細胞からヒトPGC様細胞(PGC-like cells:PGCLCs)を誘導し、「異種間再構成卵巣法」で卵原細胞に分化させる方法を開発した。しかし、同方法では、卵原細胞の分化過程が不明瞭で得られる卵原細胞の数が著しく少ない、分化がマウス胎児卵巣体細胞に依存するなど、多くの改善を要する点があった。 今回の研究では、同チームが開発したヒトPGC様細胞(ヒトPGCLCs)の「維持培養法」をもとに、特定のシグナル分子を用いることで、同細胞を前精原細胞及び卵原細胞に分化させた。同培養法では、ヒトPGCLCsは2カ月程度で前精原細胞及び卵原細胞に分化し、染色体数を安定に維持したまま細胞数を100億倍以上に増幅。培養過程で見られる遺伝子発現や、DNAの化学修飾の⼀種であるゲノムDNAメチル化レベルの変化は生体内の過程を再現していたという。 研究成果は、ヒト生殖細胞の発生機構を解明し、同細胞の試験管内造成研究を推進する重要なマイルストーンであり、不妊症等の疾患機序解明および治療戦略開発への応用が期待される。研究論文はネイチャー(Nature)に2024年5月20日に掲載された。(中條)