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主張:エネルギー転換の本質、産業界の地殻変動に備えを

2024年05月23日 06時59分更新

文● Deb Chachra

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Chip Somodevilla/Getty Images

画像クレジット:Chip Somodevilla/Getty Images

かつて貴重な金属でだったアルミニウムがありふれた金属になったように、豊富で再生可能な資源から得られる電気を動力源とする世界は、今や手の届くところまで来ている。

1856年、ナポレオン3世は生まれたばかりの息子のためにガラガラを注文した。そのガラガラは、当時知られていた金属の中でも最も貴重なものの1つを使って作られていた。軽くて銀色に輝き、腐食に強いアルミニウムである。豊富に存在し、地球の地殻で3番目に多く見られる元素であるにもかかわらず、アルミニウムは1824年まで鉱石から分離されることがなかった。その工程の複雑さとコストの高さが、このガラガラを王子にふさわしい贈り物にした。大西洋の両側の国で2人の若い研究者(米国のC.M.ホールとフランスのP.L.T.エルー)が、アルミニウムの分離方法を開発したのは1886年だ。この方法は今でもアルミニウムの商業的な精錬に利用されている。このホール・エルー法の工程は、並外れてエネルギーを消費する。化学的に改質した鉱石を高温の溶融鉱物槽の中に溶かし入れ、そこに電流を流して金属のアルミニウムを分離する。アルミニウム自体もまた、本質的にエネルギーの集約である。

この金属が比較的最近になるまで分離されなかった理由の1つは、アルミニウム原子が酸素と非常に強く結合しているためである。どんなに巧みなエンジニアリングを施しても、この物理的な現実を変えることはできないだろう。前世紀に世界のアルミニウム生産量が天文学的に増加したのは、商業精錬所への電力供給に必要なエネルギー・インフラが構築され、大量の電力供給が商業的に実行可能になったおかげである。米国におけるエネルギー・インフラの構築は、フランクリン・D・ルーズベルトのニューディール政策の一環として連邦政府が建設した大規模な水力発電プロジェクトと、そのすぐ後に起こった第二次世界大戦、およびそれに伴う膨大な量の資源動員によって促進された。アルミニウムは、戦時中の航空機生産に最適な材料だった。当時は航空機を、撃墜されるのと同じスピードで何千機も次々と生産する必要があった。1世紀も経たないうちに、アルミニウムは貴重で希少な金属から、どこにでもある文字通り使い捨ての金属へと変わった。

私たちの物質世界の形成に技術のブレークスルーと同じくらい貢献してきたのが、エネルギーの利用可能性の向上だ。過去1世紀半の間に化石燃料の使用量が飛躍的に増加したことが原動力となり、前例のない規模で物質を採取・加工・消費するための、斬新でエネルギー集約的な方法が生み出されてきた。しかし、現在はこの手法が環境、健康、社会に与える累積的な影響(経済学で言うところの「負の外部性」)は、無視できないものになっている。高速道路や石油精製所の近くで暮らすことによる健康への影響から、増え続けるプラスチック、繊維、電気電子機器廃棄物の問題に至るまで、私たちはほとんどあらゆる場所でそのような影響を目にする。

私たちの物質世界の形成に技術のブレークスルーと同じくらい貢献してきたのが、エネルギーの利用可能性の向上だ。

私たちは、気候変動という環境問題を解決する方法として、エネルギー転換について考えることが常習化している。自然の力からの保護(暖房や冷房)、調理用の燃料、人工の明かり、移動や通信などの社会的ニーズなど、人間の欲求を満たすためにはエネルギーが必要である。エネルギー・システムの脱炭素化とは、化石燃料を燃焼させたり、大気中に温室効果ガスを放出したりすることなく、それらの欲求を満たすことを意味する。主にクリーンエネルギー研究開発への公共投資の結果として、再生可能で汚染のない豊富な資源から供給される電気を動力源とする世界は、今や手の届くところまで来ている。

あまり正しく評価されていないが、このエネルギー転換は、物質や材料と私たちとの関係性に変革をもたらす原動力となる可能性を秘めている。そのような変革によって私たちは、汚染や廃棄物といった環境問題に対処できるようになる。エネルギー転換は、20世紀におけるこれらの産業の成長が偶然ではなかったのと同様に、偶然には起こらない。その未来に到達するためには、私たちがそれを理解し、研究し、それに投資して、構築する必要がある。化石燃料に由来する電気の1ジュールごとに、その電気を生産するために燃やされるものの代価を支払うことを意味する。実際、火力発電は非効率であるため、多くのジュールに熱という代価をより支払う必要がある。

再生可能な資源からのエネルギー生成も、もちろん資本コストや運転コストがかかるが、それは最小限の追加コストである。なぜなら、投入エネルギーは大量の石炭ではなく、風や太陽光だからだ。大局的に見た場合、完全に脱炭素化された世界ではすべてのエネルギーが、水力発電に近い経済性を持つことを意味する。「計測できないほど安い」ということはないかもしれないが、オープンなエネルギー市場で確実に利益を上げるには安すぎるかもしれない。投資家が所有するエネルギー・インフラにとっては問題だが、地域社会が所有するシステム(公益事業、非営利の電力協同組合、地域の小規模発電網など)には変革をもたらす可能性がある。より安価で豊富なエネルギーが、正しい移行と新しい経済の原動力となり得るのだ。

ニューディール政策による1936年の農村電化法(Rural Electrification Act)や、世界各地の同様の法律など、20世紀のエネルギー・インフラ投資は、グローバルな産業経済の基盤を形成した。もし私たちが、再生可能エネルギーへのコミットメント、つまり利益よりも豊かさとアクセスを優先することを同じような規模で達成できれば、物質世界でできることのさらなる飛躍につながり、以前は考えられないほど高価だったものが、日常的な現実となるだろう。例えば、海水の淡水化は、アルミニウムの精製と同じく、本質的に大量のエネルギー集約である。しかし、安価でクリーンな電力がある世界では、沿岸部の都市の住民は争いの絶えない淡水源の代わりに、海辺の水処理施設から信頼性の高い飲料水の供給を受けられるかもしれない。

海水の淡水化だけが、実行可能なエネルギー集約型のプロセスではない。アルミニウム、ガラス、鉄鋼は最もリサイクルされている材料の一部だが、その理由の1つは、原料となる物質からそれらを作るのに非常に多くのエネルギーを必要とするため、回収することに経済的な価値があるからだ。それとは対照的にプラスチックは、無限に近い種類があるため、ごく一部の場合を除き、機械的なリサイクルには適さない。プラスチックの効果的なリサイクルとは、つまり、プラスチックを化学的な成分に分解し、新しい形に組み立て直すことを意味する。また、ほとんどのプラスチックは燃えると熱を発生するため、その逆(炭素原子を新しいプラスチックに組み立て直す)をするには多大なエネルギーの投入が必要となる。そのため、プラスチック廃棄物は埋立地に捨て、採掘したばかりの石油やガスから新しいプラスチックを作る方が、常に簡単で安上がりであり、収益性が高い。しかし、もしそのエネルギーを安価な再生可能資源から得られれば、プラスチック製造の経済方程式は一変する可能性がある。二酸化炭素を空気中から取り出し、太陽のエネルギーを使って有用なポリマーに変換できるかもしれない。また、廃プラスチックを分解して原料に変え、製造工程を最初からやり直せるかもしれない。

利益よりも豊かさとアクセスを優先することが、できることのさらなる飛躍につながるだろう。

もしこの話に聞き覚えがあるとしたら、それは植物と同じ仕組みだからだ。しかし、アルミニウムにおけるホールとエルーのブレークスルーと同様に、新しいプロセスにはエネルギーと技術イノベーションの両方が必要となる。化石燃料から新しい種類のプラスチックを作り出す研究には何十年もの年月が費やされてきたが、それと比較して、そのプラスチックが寿命を迎えるときにどうなるかということについては、ごくわずかな研究しか実施されていない。しかし、現在、トゥエルブ(Twelve)など数多くの企業が、まさにそのようなエネルギー転換をするための新たな研究を積み上げている。再生可能な資源から調達したエネルギーを使って水と大気中の二酸化炭素を炭化水素に戻し、燃料や材料に変える研究である。

最後に、それはプラスチックだけの問題ではない。もし私たちが、より安価で豊富なエネルギーの世界を築くことに成功しても、再びそのエネルギーを使って採取、消費、廃棄を加速させれば、エネルギーに関する差し迫った危機を「解決」する一方で、汚染がもたらす複数の環境危機を悪化させることにもなりかねない。そうではなく、私たちは新たな産業システムの構築として、地域社会主導のエネルギー・インフラ投資について考えることができる。そのような産業システムでは、クリーンで安価な再生可能エネルギーによって、さまざまな材料の回収が可能になる。そうすれば、一次的な採取や廃棄にかかる、環境破壊や地政学的対立などの膨大なコストを削減することができるだろう。

この動きにできるだけ早く弾みをつけることで、内燃機関動力車が電気自動車に置き換わるといった、脱炭素化に伴う大きな変化のための材料費の負担を抑えられるだろう。そのような動きは、すでにアセンド・エレメンツ(Ascend Elements)などの企業で起こっている。アセンド・エレメンツは現在、ケンタッキー州ホプキンズビルに、再生リチウム電池から新しい電池材料を製造するための施設を建設中だ。この施設は、米国エネルギー省の助成金4億8000万ドルを基盤とする5億ドル以上を最近、民間投資から資金供給を受けている。また、その事業は、米国立科学財団(NSF)が後援する基礎研究に基づくものでもある。ますます多くのクリーンで再生可能なエネルギーが登場している中で、私たちは、あらゆる種類の材料を回収するために必要な新技術の研究開発を支援する政策と、採取および廃棄にかかる真のコストを考慮に入れた規制を続けていく必要がある。それによって、エネルギー転換だけでなく、物質転換も促進され、工業部門と地球の健康との協調が確保される。

デブ・チャクラはマサチューセッツ州ニーダムにあるオーリン工科大学教授。『How Infrastructure Works:Inside the Systems That Shape Our World(インフラが機能する仕組み:私たちの世界を形作るシステムの内幕)』(2023年刊、未邦訳)の著者。

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