AIによって人は「より複雑なことをたずねる」ようになる
検索技術と生成AIの連動は、ハルシネーション(生成AIが産んでしまう誤情報)や広告収益モデルの変化などの危うさもはらんでいる。
昨年のGoogle I/Oで発表された「SGE(生成AIによる検索体験)」は、いまもその課題を抱えたままだ。しかしグーグルは、SGEを「AI Overview」と名称変更し、英語版からではあるが一般公開をスタートした。
SGEとAI Overviewは技術的にも大きくは変わっていない。しかし、グーグルでの位置付けは少し変わっている。SGEは検索結果をまとめ直す機能に近かったが、AI Overviewは「より複雑な質問に対応する検索機能」という押し出しになっているのだ。
これはグーグル側での利用状況分析に基づくものでもある。
5月15日、グーグル本社では、ピチャイCEOを中心とした同社エクゼクティブによるQ&Aセッションが実施された。そこでグーグルの検索担当バイスプレジデントであるエリザベス・リード氏は、AI Overviewを中心とした「検索と生成AI」の関係について、次のように答えている。
「利用者は他の人から詳細な話を直接聞きたいという欲求を持っている。AIを使えば、より深くウェブにアクセスし、より個人的な質問をするようになるでしょう」
検索というと「質問を単語で区切って行うもの」というイメージが強いが、実際には以前より「文章で書く」こともできた。だがGeminiの上などでは、より複雑な文章で質問ができるようになってきた。そういう使い方が定着していくことは、良くも悪くもネット検索の使い方を変えていくのは間違いない。
特にGeminiの新バージョンである「Gemini 1.5 Pro 改良版」では、より長い情報(コンテクスト)を活用して返答できるようになっている。複雑な質問によるしっかりとした回答を得るには重要なことだ。もちろん、まだ間違いなども含まれては来るだろうが。
当然ながら、そういう変化はグーグルの変化だけでもたらされるものではなく、マイクロソフトやOpenAIの影響も大きいのは間違いない。
OpenAIはGoogle I/O開催の前日に発表会を開催し、マルチモーダル性と即応性を強化した「GPT-4o」を発表している。
それらライバルの動きをどう思うか? という質問に対して、同社のスンダー・ピチャイCEOは「この種の変化はゼロサムではない」と答えた。
ゼロサムとは「勝者が1人しかいないゲーム」のこと。すなわち、ネットのエコシステム変化での利益は1社が独占するわけではない、と言いたいわけだ。優等生的な回答にも、「負けていない」という自信の表れにも聞こえる。