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業界人の《ことば》から 第590回

生成AIに3000億円投資の日立、成長機会なのか?

2024年05月14日 13時10分更新

文● 大河原克行 編集●ASCII

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生成AIに限らず、1年で1兆円規模の成長投資を

 日立製作所では、生成AIに向けた3000億円の成長投資のほかに、「DXおよびGXで拡大する成長する製造分野」で2000億円、「社会インフラ事業のサービス化の加速」で2000億円、「案件に恵まれた際の機動的M&A」に3000億円の投資を計画している。生成AIを含めて合計で1兆円の成長投資を1年間で行うことになる。

 過去2年間での成長投資の規模は8000億円。それを上回る投資を1年で行うことになる。また、これまでの成長投資が、日立エナジーの完全子会社化に2000億円、GlobalLogicのボルトオンM&Aに1000億円など、個別事業強化に向けた中規模M&Aが中心となっていたが、この1年間は、個別事業の強化に加えて、新たな成長機会の獲得を目的にしている点がこれまでとは異なる。

日立エナジーの変圧器試験設備

 そして、2024中期経営計画では、3年間の成長投資として1兆4000億円を計上していたものを、1兆8000億円に上方修正したものであるという点も特筆できるものだ。

 小島社長兼CEOは、年間1兆円の戦略投資について、「成長の速度を緩めずに、さらなるキャッシュ創出を目指すものとなる」と位置づける。

 2024中期経営計画の最終年度となる2024年度の業績見通しは、売上収益は前年比7.5%減の9兆円とマイナス成長となるが、2023年10月に連結対象から外れている日立Astemoを除く、デジタルシステム&サービス、グリーンエナジー&モビリティ、コネクティブインダストリーズの3セクターの売上収益でみれば前年比8%増となり、増収増益の見通しとなる。そして、2024中期経営計画で掲げた売上収益8兆円を大きく上回る結果となる。また、Adjusted EBITは12.7%増の1兆350億円となり、同中計の9600億円の目標も、同様に上回る。コアFCFも3年累計で目標値を3000億円上回り、1兆5000億円になる見込みだ。ROICでは、10%を目標に対して、9.5%の見通しに留まっているものの、CO2排出削減貢献量や外国人役員比率、デジタル人財の強化などの非財務目標も達成する見込みだ。

 日立製作所の小島社長兼CEOは、「目標としていた財務目標はおおむね達成する見通しである」と胸を張る。

 日立エナジーの受注残高は4兆7000億円と、その規模は、売上収益の約2.5年分に達している。また、Lumadaの中核となるデジタルシステム&サービスの受注残高も1兆5000億円、受注高は2兆7652億円に達している。これらの数値からも、強気の意味が裏づけられる。

 2024年度の通期見通しや受注残高の数字だけを見ると、中期経営計画は、確実な目標達成が視野に入っており、この1年は、もはや「ウイニングラン」にさえなりかねない状況に見てとれる。だが、そうした緩みは、なんとしてでも避けたいというのが小島社長兼CEOの本音だろう。

 今回の新たな成長投資の発表によって、小島社長兼CEOは、手綱を緩めない姿勢を見せるとともに、次の成長につながる投資を積極化する姿勢を示したものといえる。

 小島社長兼CEOは、「この投資の成果が、2025年度からスタートする次期中期経営計画において、オーガニックな成長の柱になる。新たな成長機会をものにしていくことで、サステナブルな成長につながる」と語り、「日立は新たな成長機会をしっかりと獲得できる企業であることを証明して、2024中期経営計画を終えたい」と語る。

 成長投資に対する積極的な姿勢と実行が、より高い頂を目指す次期中期経営計画の立案につながる。

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