クラシック音楽の祭典『ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024』を最大限に楽しむ方法
縁日に行くみたいにクラシック音楽を楽しんでもいいじゃないか 『ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024』に行ってきました
クラシック音楽の“祭”なのです
ゴールデンウィークということで、クラシック音楽、楽しんできました。
東京国際フォーラムを中心に、東京・丸の内エリアで開催されるクラシック音楽の祭典「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024」。5月3日(金・祝)から5日(日・祝)までの3日間、無料公演まで含めると90以上の公演が楽しめる音楽祭なんです。
筆者はクラシック音楽が好きです。なので、「取材したいです、取材したい。クラシックが好きだから、取材したい」ときわめてシンプルに伝えてみたところ、OKが出たので(提案が通る理解のある職場です)、5月3日に行ってきました。
ラ・フォル・ジュルネは、「熱狂の日」を意味し、もともと1995年にフランス西部の港町ナントで誕生したクラシック音楽祭。その名の通り、ヨーロッパの数ある音楽祭の中でも大いに盛り上がりを見せるイベントです。
そう、ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024は、何よりも「音楽祭」であることを忘れてはならないと思います。
クラシック音楽が好きになると、たとえば指揮者がどうだとか、オーケストラがこうだとか、そういう視点になりがちです。「あの曲を振ってくれるなら聴きに行かなきゃ」とか、「あの会場は音響が良い/悪いからこの席を取りたい」とか……。
もちろん、それらが悪いということではありません。音楽をより深く味わうための大切な観点です。すぐれた演奏家の、すばらしい演奏を、良い席で堪能したいという考えは否定されるものではないはず。
一方で、クラシック音楽の愉しみは、それだけではありません。
ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024は、およそ45分の公演を並べることで、朝から晩までいくつものプログラムをハシゴできるようになっています。他にも多彩な無料イベントも用意しているため、会期中は会場一帯がお祭りムードになるのです。
単なる音楽イベントではなく、みんなが“祭り”のムードで盛り上がる。気軽に、そして多様な楽しみ方でクラシック音楽に触れ合える。それが、ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024の特徴といえるでしょう。
ラ・フォル・ジュルネと普通のコンサート、ここが違う
それでは、ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024は、普通のコンサートと何が違うのか。
先ほど、ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024について「およそ45分の公演を並べ……」と書きました。そう、45分というのは、普通のクラシック音楽のコンサートと比べればかなり短い。
だからこそ、多くのプログラムを楽しめますし、合間に食事などにも行けるわけですね。オーケストラを聴いて、軽く一杯飲んで、そのあとにピアノの演奏を聴きに行く……なんてことも可能。
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違いという点では、チケットの価格にも触れておきたいところ。大人が1公演2000円台からと、クラシック音楽のコンサートとは思えない価格で楽しめる公演がほとんどです。
また、無料のコンサートとして、東京国際フォーラム周辺のさまざまな場所で開催される「丸の内エリアコンサート」や「LFJエリアコンサート」などが揃っています。クラシック通のみならず、幅広い層が楽しめるイベントなのですね。
幅広い層が楽しめるという点では、親子揃って盛り上がれるという点にも触れたい。幼いうちに音楽に触れてほしい……そんな想いで、3歳以上の未就学児の子供でも入場できるコンサートが用意されています。
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それでも「子どもが騒いだらどうしよう」と思うならば、丸の内エリアのさまざまな場所で開催されている無料コンサートのうち、屋外で実施されているものから聴きに行ってみてはどうでしょう。
屋外でのコンサートなら、周囲の環境音などもありますから、「静かにしなくてはいけない」というプレッシャーもあまり感じずに済むかもしれません。子供たちが飽きてしまったときなども、すぐにその場を離れられるのは利点ではないでしょうか。
他にも、夜のキオスクをダンスフロアに変えるような参加型プログラム「フォル・ニュイ!!」は、「歌って踊れるフェス型クラシック」「ノルウェー民族音楽の調べ」などをテーマに、思いきり盛り上がることを主眼にした意欲的な内容。これも、通常のクラシック音楽のコンサートではなかなかお目にかかれないコンセプトでしょう。
積極的に学びが欲しい人のために、講演会もあります。音楽のオリジンについて多様な角度から解き明かす講演を聞けば、コンサートの音楽もより深く味わえるはず。
多彩なゲストによる講演は、音楽祭期間中の「有料コンサート」か「マスタークラス」のチケット(半券も可)があれば無料で参加できます。
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このように、多くの層が気軽にクラシック音楽を味わえる内容になっているのが、ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024とよくあるコンサートとの違いといえるでしょう。
もっとも、これは普通のクラシック音楽のコンサートが「ハードルが高い」と言いたいわけではありません。ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024が音楽祭である以上、「多くの世代、多くの層が楽しめる」性質を持っているということです。
抽象的なテーマ「ORIGINES(オリジン)」は是か否か
さて、「クラシック音楽好きから見た今年のラ・フォル・ジュルネ」ということを考えてみましょう。
気になったのは、ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024のテーマである「ORIGINES(オリジン) ──すべてはここからはじまった」です。是か否か……というと言い過ぎかもしれませんが、万人にピンとくるようなテーマなのかと、最初はすこし疑問に感じました。
どんな大作曲家も、ゼロから音楽を生み出したわけではありません。どの国の作曲家であれ、過去の遺産、自国の文化からインスピレーションを受けているはずです。
クラシック音楽における代表例を挙げるとすれば、19世紀半ばの「国民楽派」でしょう。ヨーロッパの音楽の主流ではなかった地域を中心に起こった、民族主義的な音楽を作った作曲家たちを指します。ざっくり言えば、自国の民謡や民族音楽の音楽語法、形式などを重視した人たちです。
そういう意味では、クラシック音楽の歴史にとって「オリジン(起源、ルーツ)」は重要な概念です。ただ、特定の作曲家やジャンルに強く結びついている言葉ではないので、クラシック音楽に明るくない人にはやや抽象的に思えるテーマかもしれません。
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個人的には、来場者が「このプログラムにはどういう考えがあるのかな」と探ったり、プログラムを組む側の「こういう発想で曲目を並べよう」という意図を読み取ったりすることで成立するような、なかなか挑戦的なテーマを掲げたな……と思いました。
繰り返しになりますが、多くの作曲家が憧れたJ.S.バッハにしても、ベートーヴェンにしても、さまざまな“オリジン”を持つわけです。
この楽曲のルーツはどこにあるのだろう。この演奏家の作風の起源は何に由来するのだろう。そういったことを演奏家側が考えて演奏する・曲目を選ぶことで、聴衆もよりクラシック音楽に親しんでいける。
そんな発想から、「ORIGINES(オリジン)──すべてはここからはじまった」というテーマになったのではないでしょうか。
多くのプログラムから、テーマを読み取る。そして新しい考えに出会い、自分の知識に違う側面から光が当たる……。これもまた、ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024の醍醐味ではないかと思います。
公演を聴いて、“オリジン”に思いを馳せる
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筆者が会場を訪れた5月3日もさまざまなコンサートが開催されましたが、たとえば自分が有料コンサートの中で見てきたのは以下のようなプログラムです。
公演番号:113「スマートな天才の静かなる革新」
(曲目)
ワーグナー:ジークフリート牧歌
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64
公演番号:114「精密な音は愛と共に自らのルーツへ」
(曲目)
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
ラヴェル:ボレロ
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は、「ヴァイオリン協奏曲といえば?」という問いに対する模範解答のような楽曲。ワーグナーの「ジークフリート牧歌」も、後の新ウィーン楽派が“交響曲”を書くときの参考になったような小編成が特徴です。そう考えると、2曲とも、後の時代のさまざまな“起源(オリジン)”になったともいえる。
ラヴェルのプログラムも、ラヴェル本人のスペイン(母方の血筋)の関心やジャズへの興味など、「管弦楽の魔術師」と呼ばれた作曲家の“ルーツ(オリジン)”がどこにあるかを浮き彫りにした……と考えることもできます。
さらに言えば、(クラシック音楽から話題がだいぶ離れますが)テクノ・ミュージックの巨匠であるカール・クレイグとモーリッツ・フォン・オズワルドがラヴェルの「ボレロ」などを再構築したアルバムを発表していることを考えれば、現在のダンス・ミュージックの“オリジン”のひとつをラヴェルの楽曲に見出すことも可能かもしれません。
両プログラムの開催会場であるホールAは5000人以上が収容できる大ホールのため、楽曲によっては「ちょっとオーケストラが鳴りきっていないかなあ」と感じるところもありました。ただ、ラヴェルの「ボレロ」などではかなりの盛り上がりを見せていたように思います。
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そうそう、講演会にも足を運びました。筆者が聴講したのは、鍵盤楽器技術者の梅岡俊彦さんによる「日本におけるチェンバロの歴史 〜百年前からチェンバロに魅了されていた日本人」。
チェンバロという楽器はルネサンス〜バロック時代に隆盛となり、そのあと一旦は廃れるのですが、20世紀頃からまたコンサートなどで使われるようになります。名前は聞いたことがないという人でも、YouTubeなどで検索して音を聴けば「ああ、この楽器か!」となるはず。
そんなチェンバロですが、実は日本でもおよそ100年前から、ある国の駐日大使が所有して使われていたそうで……。ほかにも、日本で初めてチェンバロを購入したのは誰なのか、名演奏家であるワンダ・ランドフスカが日本でいかに人気があったかなど、知らないことばかりの歴史を興味深く聞けました。
このように、さまざまなプログラムから、来場者が作曲家や楽器の“オリジン”を考える……というのがラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024のテーマになっているような気がします。
抽象的なテーマであるからこそ、音楽を聴いた聴衆側が思いを巡らせる余地があるのではないでしょうか。
「深読みしすぎでは」と感じる人もいるかもしれませんが……。まあ、クラシック音楽好きが行間を読むような娯楽もラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024にはあるよ、ということで。
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