知財を活用し、ニッチトップへ 鮫島正洋弁護士が語るスタートアップの事業戦略
事例で学ぶスタートアップにおける知財の役割by IP BASE in浜松 開催レポート
提供: 特許庁
トークセッション「事例で学ぶスタートアップにおける知財の役割」
後半のトークセッションでは、鮫島氏と清野氏が登壇。IP BASEで公開している事例集「知財戦略支援から見えた スタートアップがつまずく14の課題とその対応策」の中から、事前アンケートで要望の高かった事例をいくつか取り上げ、解説し、さらに深堀りする形で対応のポイントをアドバイスした。
課題6:大学や共同研究の成果に関する権利の帰属が問題になる
大学や他社等との共同研究においては、権利の帰属やライセンスの設定等が、 その後争いになりうる。事例集では、IPASでの対応した内容を紹介するとともに、「大学や共同研究で生まれた成果に関する権利の帰属に注意する」、「共同研究の際に、押さえるべき権利範囲のポイントを理解する」と対策のポイントを挙げている。
鮫島氏は交渉前のポイントとして、「共同研究では何もしなければ通常、共同特許になる。共同特許では横展開やM&Aの際に共有者の同意が必要になり、スタートアップのスピードが発揮できない。あらかじめお互いの権利を明確化して、基本技術に関わる汎用的な知見は単独帰属するのが望ましい」とアドバイスした。
課題4:資⾦調達に有効な知財の活⽤法がわからない
IPASのメンタリングでは、自社技術の価値から市場を設定し、その市場の占有率を高める戦略を投資家にアピールするように助言している。鮫島氏からは「投資家は、後発企業が参入することを最も危惧する。簡単なのは、自社サービスが特許で守られていることを明示すること。ただし、特許を持っていてもピボットしてサービスをカバーできていないケースが意外とあるので注意してほしい」と補足した。
課題5:秘匿⼜は権利化の⾒極めがうまくできない
外部に製造などを委託する場合、ノウハウとして秘匿するのか権利化するのかの判断は難しい。自社の技術の内容や、自社の製品の製造工程を踏まえて検討することが必要になる。秘匿する場合でも、技術流出の可能性はあるので専門家に対応策を相談するのが賢明だ。
鮫島氏は、「侵害検出性(特許侵害を外部から判断できること)があるかないかで判断するのが原則。海外に製造委託する場合は、コア技術のノウハウが流出しないように国内製造にするなどの工夫が必要」とコメントした。
課題9:既存の特許では自社のコア技術を十分に守り切れていない
過去に出願した特許の権利範囲が、現在の事業にマッチしていないことはままあるケースだ。特許の出願時に想定した事業と現在の事業がずれてきたら、追加で特許を取得するなどしてコア技術の保護を補強することが大事だ。
鮫島氏は、「スタートアップが基本特許を取る初期の段階で、将来の事業範囲をすべてカバーする特許を出願するのは非常に難しい。我々コンサルがいれば、お客さんがどのような特許を持っているかを理解しているので、ピボットする際にカバーしきれていなければ追加出願を提案する。コンサルがいない場合は、特許を持っているからと安心せずに、常に権利範囲を意識して早期に対応することが大切」とアドバイスした。
課題11 契約や利用規約の文言の検討が不十分
他企業との共同開発で相手先から提示された契約書案が自社に不利な場合の対応に悩むスタートアップは少なくない。交渉相手が作成した契約書案は相手側に有利な契約内容なのがセオリーなので、「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書」を参考に、自社の譲歩範囲を決めて、自社に有利な利用規約に修正していくことが基本。また、契約書の作成には専門的な知見が必要なので専門家に相談するのが大事だ。
鮫島氏は、オープンイノベーションの心構えとして「今交渉している大企業に固執しないこと。今はスタートアップが大企業を選ぶ時代。不利な条件を提案されたら交渉に時間をかけるよりも相手を変えたほうがいい」と持論を述べた。
課題12 専門家に何を相談して良いのかわからない
専門家への相談を迷っているうちに出願が遅れたら、自力で出願しようとして権利範囲が狭くなるケースがある。鮫島氏は、「知財や法務の専門家ではないのだから、何を相談していいのかわからないのは当たり前のこと。法律相談や知財相談と意識せずに、自分がどんなビジネスを使用としているのか、どのフェーズにいるのかを我々に教えてくれれば、こちらから提案すします。気楽にビジネスの話をしにきてください」とアドバイスした。