NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、2024年4月9日、同社の独自技術である「アプレット領域分割技術」を活用したSIMが、アイティアクセスの自動販売機を中心に導入されている「クラウド型決済端末」に採用されたことを発表した。
アプレット領域分割技術は、IoT向けコネクティビティサービスのコモディティ化が進み、競争が熾烈となっている中で、付加価値のあるSIMサービスを提供するために開発されたという。
アプレット領域活用で、SIM起点の新たな付加価値創出へ
アプレット領域分割技術は、SIM内において、通信に必要な情報を書き込む「通信プロファイル領域」とアプリケーションなどの通信以外の情報を書き込む「アプレット領域」を分離して管理できる技術だ。
一般的なSIMでは、アプレット領域は通信プロファイル領域と共に守られているが、同技術を活用することでアプレット領域が開放され、IoT事業者が通信以外の機能を独自に実装できるようになる。
NTTコミュニケーションズのプラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 IoTサービス部門 主査である村田一成氏は、「アプレット領域を活用して、SIM自体に新たな付加価値を持たせることで、課題解決やビジネスモデルの創出につながる」と説明する。
同技術はすでに、NTT Comが2024年1月より商用提供を開始した「Active Multi-access SIM」で活用されている。同サービスは、IoT端末側での通信の監視や切り替え機能を必要とせずに、SIM側で故障の検知から接続先回線の切り替えを自律的に行い“キャリア冗長化”を実現する。
そして今回発表されたのが、IoTデバイスのセキュリティ対策をSIM側で実施し、決済情報・個人情報などの機微情報を安全に扱うというユースケースだ。これまで自動販売機を中心に12万台展開されているアイティアクセスのクラウド型決済端末において、同社技術を搭載したSIMが採用された。
現在、キャッシュレス決済の需要が増大している中で、機微情報を扱う決済端末には、厳しいセキュリティ要件が規定されている。そして、端末にセキュリティ対策を実装するためのコストが、スケーラブルなビジネス展開を阻んでいるという。
今回、同技術を用いて、決済端末内の保存領域で処理していた機微情報を、元々堅牢性の高いSIM内のアプレット領域で処理する仕組みを開発。これにより端末内に特別な構造やハードウェアを追加することなくセキュリティを高められ、端末製造コストも削減できる。
NTT Comは、同技術を用いた“運用保守性の向上”や“機器設定作業の自動化・省力化”といったユースケースも模索している。
運用保守性の向上は、回線の品質情報の収集や、簡易的な位置情報の取得、死活監視や悪意のある接続を検知する“SIMスワップ”といったアプレット領域の活用方法となる。
機器設定作業の自動化・省力化では、アプレット領域に、ルーターなどのAPNを自動設定する機能を持たせ、大量機器の設定作業を省力化する仕組みを検討している。
村田氏は、「これらのユースケースは、端末側ですべて実行可能ではあるが、ポイントはIoTデバイスのリソースを使用しないこと。IoTデバイスにはハードウェアやソフトウェア、コストなどさまざまな制約がある。アプレット領域は、SIMが搭載できる機器であれば活用できる」と強調する。
アプレット領域分割技術を搭載したSIMを展開、運用支援サービスも
今後NTT Comは、アプレット領域分割技術を搭載した新たなSIMを、コネクティビティサービスである「IoT Connect Mobile Type S」のオプション機能として展開、あわせてパートナー企業との連携・共創に注力する。価格は個別見積りとなる予定だが、15分から30分ごとに通信する利用方法で、ひとつのSIMあたり月額100円ほどを想定しているという。
加えて、大規模なIoTサービスを運用する事業者向けに機能拡充も図る。具体的には「アプレットの管理コンソール機能」と「アプレットOTA機能」を展開予定だ。
アプレットの管理コンソール機能は、アプレット領域から送信されるSIMや端末に関するデータを一元的に参照・管理できる機能だ。利用したいデータは事業者のシステムとAPI連携でき、「データを課題に結び付けられる手段のひとつとして提供したい」と村田氏。
アプレットOTA機能は、アプレット領域におけるアプリケーションのインストールや更新に必要な煩雑な工程を改善できる。前述の管理コンソールにアプリケーションをアップロードするだけで、該当するSIMにアプリケーションをインストールできる。アプリケーションの更新時にも、SIMを回収して再インストールする必要なく、初期導入から維持管理で生じるコストを削減できる。