通信インフラとデジタルサービスの提供を通じてアフリカ農村部の暮らしの変革に挑む Dots for
株式会社Dots forは、情報格差の是正による生活水準の向上を目指し、アフリカの農村集落内に無線ネットワークを構築しデジタル化を図るサービスを展開するスタートアップだ。現在は西アフリカのベナン共和国とセネガル共和国の農村部にサービスを提供しており、登録数は4万人、有料ユーザー数1500人と順調に拡大。また、ソフトバンクや松竹と提携して実証事業も進めている。ベナンで活動している株式会社Dots for創業者 兼CEOの大場 カルロス 博哉氏に、事業の状況と今後の展開について伺った。
アフリカの地方農村部には、水道や電気などのインフラが整っていない500人~1000人規模の集落が点在しているという。通信インフラも整っておらず、住民は周辺の村や都市との交流に乏しく、デジタル経済圏からも取り残されてしまっている。その結果、収入を増やすことができず、インフラ整備も進まない、という悪循環に陥っている。
株式会社Dots for が提供する「d.CONNECT」は、集落内に複数の無線ルーターを配置してWi-Fiのメッシュネットーワークを構築し、デジタルプラットフォームと各種オンラインサービスを住民に提供するサービスだ。無線ルーターはサーバー機能を持ち、インターネット回線には直接つながらない場所でもサーバーを通じて動画コンテンツやマーケットプレイスを利用できる。サーバー内のコンテンツやサービスは最新のデータをUSBメモリーに入れて街からバイク便で運び、定期的に更新する。
住民には、スマートフォンを割賦販売し、プラットフォーム利用料を含めて週300円で提供。また、村のエージェントにカスタマーサポートを委託し、コミッション報酬とすることで認知拡大を図っている。ちなみに、割賦販売の回収率は90%前後と高く、都市部での回収率と同程度だそう。
サービスは農村ビジネスに特化した内容で、職業訓練動画でスキルを身に付け、マーケットプレイスで資材を購入、商品の販売をすることで収入アップにつなげるのが目的だ。実際に、ある村で塗装業を営む住民が動画コンテンツで新しい塗装技術を学び、ネットで宣伝することで商圏が広がり、収入が80%アップしたという。今は個人での収入増が目標だが、次の段階では先進国からの仕事獲得、最終的には都市と同等の生活水準への向上を目指している。
パートナーとの連携でアフリカ全土へ事業を拡大
アフリカでは人口の7割近くが農村部に住んでいるといわれており、潜在的なマーケットは大きい。しかし、ひとつひとつの村は数百人と小規模で、大手通信企業が参入するには採算がとれずリスクが高いという。同社の強みは、1村当たりの初期導入コストを10万円以下に抑えていること。これは大手通信企業のインフラ整備費用の1000分の1レベルだという。ひとつの村あたり15人が有料ユーザーになれば、村のエージェントへの支払いなどを含めても十分に採算がとれる。
「d.CONNECT」は、これまでアフリカ農村へのタッチポイントがなかった企業にとっても新たな市場獲得の入り口となる。マーケットプレイスで商品を販売したい商社やメーカーの協業パートナーが続々と増え、ホンダのバイクや中国の格安スマホの販売も始まっている。また、ソフトバンクとアフリカ郊外での通信事業の実証実験をするほか、松竹のコンテンツを現地語に吹き替えての配信も行った。
ネットの普及はあくまで手段。ネットを活用して収入を上げるには意識改革がカギ
大場氏は自らを「旅人」と称する。バックパッカーとして世界中を旅してきた中で、先進国と途上国の違い、同じ国の中でも都市部と農村部の違いを見て、農村部だけがずっと取り残されているように感じていたそうだ。
「自分自身がインターネットができる以前に地方で生まれ育ち、 日本の中ですら田舎は取り残されて不利益を被っていると感じていました。子ども時代に今のような通信環境があれば、もっと人生の選択肢が増えたのに、という思いがあります。同じことが起きているのがアフリカの地域の特性です。都市部と地方の農村部とで情報格差が広がっている。自分が20代でインターネットを使ってあらゆる情報を手に入れたときに気づいた悔しさが、今の『アフリカの農村部の人たちの生活を変えたい』という大きなモチベーションになっています」
現在は家族とともにベナンに移住し、ほとんどの社員はベナンとセネガルの現地採用だそう。誰も手を付けていなかったアフリカの農村部で新しいマーケットを開拓していく事業は壮大で魅力的だ。しかし、閉鎖的な村によそ者は受け入れられにくい。現地のエージェントからお金を要求されたり、嫌がらせを受けたりしたこともあったという。割賦販売など、現地の文化になかった仕組みを理解してもらうのにも苦労したそうだ。
事業開始から1年ほどでユーザー数は急速に増えているという。ただ、通信の普及はあくまで手段であり、住民たちが通信を使ってビジネスをし、収入を上げることが目的だ。
「彼らがスマートフォンを手に入れる目的はSNSで人と連絡を取るため。まだネットでお金が稼げるとは思っていません。ようやく職業訓練動画を見てビジネスを始める例が出てきたので、それをロールモデルにして意識を変えていくことがこれからの課題です」と大場氏。
職業訓練動画コンテンツは農業や畜産、美容師、大工、塗装業など、もともと農村にある職業を中心に集めているそうだ。まずは自身の仕事の情報をアップデートして、単価や顧客を広げ、少しずつ副業や新しいビジネスへと広げていくのが目標だ。既存のコンテンツは英語とフランス語が中心で現地語が少ないことから、オフラインでの講座の実施や、その様子を撮影したコンテンツ制作も企画しているという。
個人の収入が上がり、マーケットの購買力が上がれば、広告ビジネスが成り立ち、サービスを無料化して利用者のさらなる拡大が狙える。2023年9月には総額1億円の資金調達を実施し、日本の企業を中心とした強力なパートナーも得たことで、今後はベナン・セネガルから周辺国へとサービスを拡大していく計画だ。