京都大学・理化学研究所 奥野泰史氏のAI・データサイエンスを用いて健診データから食の改善を提案する研究が食創会「第28回 安藤百福賞」の大賞を受賞
注目の高まるフードテック業界、スタートアップや学生起業家も受賞
公益財団法人 安藤スポーツ・食文化振興財団が主催する食創会は、「第28回 安藤百福賞」の受賞者9名を選定し、2024年3月12日に表彰式をホテルニューオータニ東京にて開催した。大賞は、医療・創薬分野におけるデータサイエンス研究の第一人者である京都大学 大学院医学研究科・教授、理化学研究所 計算科学研究センター・部門長の奥野 恭史氏が受賞。受賞者に大学の研究者が名を連ねるなか、高校3年生(受賞時)で株式会社RelieFood 代表取締役CEOの加納 颯人氏、蒟蒻を用いた超咀嚼ナッツバーを開発するスタートアップの株式会社Sydecas 代表取締役 寄玉 昌宏氏が発明発見奨励賞に選ばれた。
安藤スポーツ・食文化振興財団が主宰する「食創会~新しい食品の創造・開発を奨める会~」は、食に関する基礎研究や開発に取り組む独創的な研究者や開発者およびベンチャー起業家を支援する「安藤百福賞」表彰事業を1996年から毎年実施している。
安藤百福賞では応募者のなかから優秀賞を選出し、とくに優秀と認められた研究や取り組みに大賞が贈られる。また、将来性の高い優秀な研究や食品開発に取り組む若い研究者や中小企業の技術者への支援として発明発見奨励賞が贈呈される。今年度は、大賞1件、優秀賞3件、発明発見奨励賞5件が選出された。
授賞式では、同財団理事長の安藤 宏基氏が財団の設立経緯と食創会の取り組みを説明した。
公益財団法人 安藤スポーツ・食文化振興財団は、1980年代に青少年の非行が社会問題になっていたことから、子どもたちの健全な心身の育成を目的に、日清食品株式会社の創業者である安藤百福氏が私財を投じて1983年に設立。「食とスポーツは健康を支える両輪である」を理念とし、スポーツ振興、自然体験活動、食文化振興、発明記念館運営の4分野で活動しており、「安藤百福賞」は、食文化振興の中心的事業として毎年実施されている。
健康診断データをもとに生活習慣病の発症率、および発症予防や改善プランを提案するAIシステムを開発
大賞を受賞した京都大学 大学院医学研究科・教授、理化学研究所 計算科学研究センター・部門長 奥野 恭史氏の研究テーマは、「AI・データサイエンスによるウェルビーイングの創造」。
奥野氏は、医療や健康に関わるビッグデータや人工知能 (AI)およびスーパーコンピュータ「富岳」を用いたシミュレーションにより、個人に最適な医療を提案する「精密医療」、新薬を効率的に創製する「革新的創薬」、予測医療・疾病対策により医療費を削減する「健康長寿促進進」の研究に取り組んでいる。健康長寿促進研究では、健康診断データから3年以内の生活習慣病の発症率を予測するAIシステムを開発。さらに、発症予防や改善プランを作成するAIシステムも開発している。このシステムを用いることで、患者の負担が少なく、継続しやすいおいしい食による健康長寿促進を目指している。ウェルビーイングの向上は世界的に重要な課題と位置付けられており、時代の要請に応える研究が高く評価されたことが大賞受賞の決め手となった。
奥野氏には、小泉 純一郎氏(食創会会長・元内閣総理大臣)より表彰状と副賞1000万円が贈呈された。
奥野氏は、受賞のコメントとして、「栄えある賞を賜り、心から御礼を申し上げます。日清食品さんの商品は非常に面白く、社風にも現われている。我々の研究も面白さがないと成り立たたない。私の研究は健康診断データをもとに食の改善プランを提案するもの。今までの医療では、漠然と運動や食事改善を推奨していたのを、データサイエンスを用いて客観的に行えるようになる。私自身は創薬・AIの専門家として、食や健康へのAIデータサイエンスの技術が認められたことで研究の幅が広がりありがたく思っている。ただ、重要なのは実際にAIやデータサイエンスを一般の方に使っていただき、予防につなげること。今回の受賞を励みにがんばっていきたい」と語った。
また、食品メーカーへの期待として、「制限のあるなかでもおいしいものを食べられることは必須。しっかりとデータに基づいた健康の尺度を明らかにして、おいしくて健康に役立つ食品開発に役立てていだきたい」と述べた
発明発見奨励賞には、アレルゲンフリーのお菓子ブランドを立ち上げた高校生起業家も受賞
優秀賞は、育種分野において「テーラーメイド変異誘発法」を開発した阿部 知子氏 (理化学研究所 仁科加速器科学研究センター・副センター長)、生物の食行動を支配するペプチドホルモンを研究する児島 将康氏 (久留米大学 分子生命科学研究所・教授)、栄養学教育の発展と栄養政策推進に貢献し、栄養学に関する実践と国際的発信に尽力する武見 ゆかり氏 (女子栄養大学・教授、副学長) が受賞。3名には、副賞として賞金200万円が贈られた。
若手研究者や中小企業の開発者を対象とした「発明発見奨励賞」は、食物アレルギー問題の解決に寄与するベンチャー企業を起業した加納 颯人氏 (株式会社RelieFood 代表取締役CEO)、食品メタボロミクスと栄養疫学の組み合わせで大豆発酵食品の健康効果を検証したSastia Prama Putri (サスティア プラマ プトリ)氏 (大阪大学 大学院工学研究科・准教授)、油脂を多く含む食品の過食を制御する神経回路と遺伝因子を発見した松村 成暢氏 (大阪公立大学 大学院生活科学研究科・准教授)、「食」に関する感性処理を学際的研究で明らかにした元木 康介氏 (東京大学 大学院経済学研究科・講師)、蒟蒻を原料にした新規食品結着素材「NinjaPaste」を開発し「超咀嚼ナッツバー」を商品化した寄玉 昌宏氏 (株式会社Sydecas 代表取締役)が受賞。5名には、副賞として賞金100万円が贈呈された。
発明発見奨励賞には、実際に開発した商品を販売する起業家も選ばれている。株式会社RelieFoodの加納氏は、高校1年生のときに食物アレルギー問題の解決を目指して起業。アレルギーがある人もない人も一緒に楽しめる世界の実現を目指し、28品目のアレルゲンフリーとプラントベースを実現したお菓子ブランド「ISSA KITCHEN TOKYO」を立ち上げ、都内でイベント出展するほか、オンラインで販売している。
また、株式会社Sydecasの寄玉氏は、介護向けの衣料雑貨の企画販売から事業をスタートし、介護や医療現場における「食」の課題から、次世代蒟蒻素材「NinjaPaste」を開発。「NinjaFoods」ブランドを立ち上げて、一般的なスナックバーの3倍程度の咀嚼回数を生む超咀嚼ナッツバーを商品化している。
近年はフードテック系スタートアップへの注目度が高まっている。今回受賞した研究成果から健康とおいしさを両立した新しい食品が生まれ、日本の食文化がさらに盛り上がることに期待したい。