3つの成長領域のひとつBlue Yonder
Blue Yonderは、パナソニックグループ全体で掲げている3つの成長領域のひとつであるサプライチェーンマネジメント(SCM)ソフトウェアの中核的存在だ。2022年5月には、SCM 事業の株式上場の検討を開始すると発表しているが、ここでもBlue Yonderが中心となる。
「モノを作って、運んで、消費者に届けるサプライチェーンは、ミッションクリティカルなプロセスである。このなかには数多くのステイクホルダーがあり、変動因子が存在している。たとえば、コロナ禍での半導体不足、昨今の地政学的リスクなどにより、サプライチェーン上のボトルネックが発生すると消費者には多大な影響が生まれる。いかに効率よく、レジリエントなサプライチェーンを構築するかが、経営者にとってのトップアジェンダのひとつになっている」とし、様々な企業において、サプライチェーンの継続性がますます重要な意味を持ちはじめていることを強調する。
その上で、「パナソニックコネクトは、Blue Yonderを軸に、エンドトゥエンドサプライチェーンマネジメントを重点戦略事業として推進している。いまは投資の段階であり、クラウドビジネスはそのフェーズが大切である。1~2年後にはグッと伸びる」と自信をみせる。
Blue Yonderは、2023年度(2023年4月~2024年3月)通期業績において、連結調整後営業利益はマイナス199億円の赤字を見込んでいる。だが、これは樋口プレジデント CEOが指摘するように、いまは投資フェーズにあり、2025年度までの今後3年間で2億ドルの戦略投資を実施していることが背景にある。2023年度の赤字は当初から織り込み済みで、2023年11月には、BlueYonderによって、返品管理事業に強みを持つ英Doddleの買収を完了したところだ。
投資が先行するため赤字決算ではあるが、BlueYonderの主要経営指標は改善している。2023年度第3四半期の売上高は前年同期比4%増の3億2100万ドル、そのうちSaaSビジネスの売上高は12%増の1億5300万ドルとなり、48%にまで拡大。。SaaS ARR(Annual Recurring Revenue)は15%増の6億6100万ドル、リカーリング売上比率は3ポイント増の73%となっている。いずれの指標も右肩上がりの様相だ。
とくに、2022年7月に、Infor出身のDuncan Angove(ダンカン・アンゴーヴ)氏がCEOに就任して以降、強固な組織体制の確立に着手。ネイティブSaaS へのシフト、カスタマーエクスペリエンスの向上などのトランスフォーメーションを推進している。
「すばらしいチームを作り、優秀な人材の獲得も進んでいる」と、樋口プレジデント CEOも、BlueYonderの体制強化を自己評価する。
倉庫業務などの効率化
そうしたなか、パナソニックコネクトでは、倉庫業務などの効率化を行う「タスク最適化エンジン(仮称)」と、「ロボット制御プラットフォーム」を新たに開発したと発表した。
パナソニック コネクの樋口泰行プレジデント CEOは、「新たなエンジンとプラットフォームは、サイプライチェーンのなかでも、モノが動く実行レイヤーを対象にした倉庫オペレーションに関わるものである。パナソニックとBlue Yonderのシナジーが出せる領域である」と語る。
「タスク最適化エンジン」は、パナソニックグループが培ってきたインダストリアルエンジニアリング(IE)の知見を活かし、標準化されたタスク情報をもとに、各タスクの振り分けを行うことができる技術だ。ここでは、Blue Yonderの倉庫管理システム(WMS)の入出荷情報をもとに、人やロボットの配置、作業の順番を、倉庫からトラックが出発する予定時刻にあわせて設定。自動倉庫のAGV(無人搬送車)の動きと連動し、ピッキング作業を実行させるものになる。
また、「ロボット制御プラットフォーム」は、物流倉庫でピッキングタスクを行う際に必要な多様なロボットシステムを一元制御できるオープンなプラットフォームで、「タスク最適化エンジン」を通じて、Blue Yonder のWMSと連携。入出荷情報を活用したロボットの制御、倉庫内のAMR(自律走行搬送ロボット)やAGVとの連携によって、倉庫業務プロセスを改善できる。
パナソニック コネクトが開発しているロボットハンドやロボットアームなどのロボットを制御する技術と、センサーやカメラなどで収集したデータをもとにして、学習不要でピッキング位置を推定できるセンシング技術を組み合わせており、パナソニックコネクトが開発したグリッパーや吸着ハンドを取り付ければ、コンビニなどで扱う約8割の商品をロボットでピッキングできるという。
ピッキング作業を行っている様子。必要な品物が入ったコンテナが自動的に運ばれ、照明でハイライトされたところから取り出して配送用コンテナに入れる
ロボットによるピッキング。形が変わってもハンドを変えることなく対応できる
さらに、チューリッヒ工科大学発のスタートアップ企業であるラピュタロボティクスとの提携を発表。自動倉庫をブロック構造で組み上げたり、可搬型ロボットを容易に導入したりといったことが可能になるため、既存倉庫のオペレーションを止めずに自動倉庫を設置したり、ロボットの専門スキルを持たない現場作業者でも、容易にタスク設定を変更し、柔軟性の高い運用を可能にできる。
樋口プレジデント CEOは、「モノを動かす実行レイヤーは、パナソニックコネクトとBlue Yonderが協力してチャレンジしている領域のひとつである。パナソニックの技術やノウハウを活用し、倉庫オペレーションをデジタル化および自動化できる。それをBlue Yonderのソリューションとつなげることで、広い範囲での最適化ができるようになる。倉庫の川上から川下までつながるソリューションがBlue Yonderにはあり、倉庫のステータスがリアルタイムでわかると、複数の倉庫の管理ができ、最適な倉庫への指示が可能になる。どの倉庫に在庫を配置すべきか、トラックが、どの倉庫を、どの順番で回って、商品をデリバリーすべきかといった全体最適化も行える。実行レイヤーとつながったエンドトゥエンドをカバーするメリットがここにある」とする。
倉庫オペレーション全体の管理、制御、可視化を行うのは、Blue Yonder が得意とするWMSであり、その情報をもとにして、荷物を取る、運ぶ、乗せるといった倉庫内のタスクを標準化するとともに、タスクが連携や最適化するベースを作る「タスク標準化」、人とロボットが最適に動作し、それをオーケストレーションするソフトウェアによる「タスク最適化」、ピッキングの作業の生産性を高め、倉庫内の空間ロスを大幅に改善するロボットによる「タスク実行」の3つの重要な要素をカバーできるという。
「タスク標準化は、パナソニックのモノづくりを通じて培ったノウハウであるIEが力を発揮する。タスクの最適化は、パナソニックコネクトが開発したものであり、そこに、ラピュタロボティクスの自動倉庫との連動が行われる。そして、最適化された倉庫のデータが倉庫同士で連携され、どの倉庫がどのような状況か、データでつながり、見えるようになる。倉庫に対する指示はBlue Yonderから行う」という仕組みだ。
日本では、「物流2024年問題」が大きな課題となっているが、今回の新たな発表は、Blue Yonderを日本で活用するための具体的な提案のひとつとしても注目される。やや遅れた感があった日本でのBlue Yonderの実績づくりが加速することになりそうだ。
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