中国においてもデジタル蘇生は倫理的にどうかと賛否両論
本人が生きているうちに自分のデジタル人格を作る可能性も
デジタル蘇生は一時的であれ寂しい気持ちを和らげて心理的に快適になることができ、人間関係の問題解決に一助になる心の治癒だと張氏は語る。ただ中国においても倫理的な問題が問われるし、犯罪にも使われかねないと賛否両論だ。死者を復活させることは生命に対して失礼だという意見もあるし、生と死についての混乱や誤解を招く可能性があると考える人もいる。さらに、この技術が悪用されたり、不適切な目的に使用されるという懸念もある。
そこで起こり得る問題を回避するために、張氏のチームは顧客がデジタル蘇生をしたい動機を聞いて判断し、また法律などに違反する行為はしないという同意を求める注文受付ルールを作った。実績を積み上げる張氏には話題になるや、1000件を超える依頼があった。しかし結局張氏が受注したのは600件余りだった。
たとえば親に会いたいのに会えない子供をなだめたいといった依頼や、在宅の高齢者が過度の精神的ショックを受けないよう慰めたいといった依頼は注文を受け入れた。一方で問題があったり、古い写真しかないなど資料が少なすぎた案件は受けなかった。依頼によってはあまりに重い内容ので権威ある心理学の学者にデジタル蘇生したほうがいいかを相談し、しないほうがいいという判断から断ったケースもあるという。
デジタル蘇生は亡くなった人を近親の依頼により依頼されるだけではない。生前に自伝のように本人がデジタル蘇生という形で自身を記録として残そうとすることも現時点で既に可能だ。中国は少子高齢化を迎える上に日本の10倍以上の人口を抱える大きなマーケットだ。
デジタル蘇生が普及すれば、三国志に出てくる蜀の軍師の諸葛亮の死後、生前に作っておいた木像を見て魏の軍師の司馬懿率いる軍が退くという、「死せる孔明生ける仲達を走らす」というのも古い話に聞こえてしまうかもしれない。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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