参加者1000人超 地域の盛り上がるスタートアップイベントでユニコーン、テンバガーを発掘せよ
いま、全国各地のスタートアップイベントが熱い。例えば2023年3月、北九州市で開催した「WORK AND ROLE 2023」は累計1000人規模の来場者を集め、地方としては最大級のイベントになった(イベントレポートはここから)。2023年11月に岡山で開催された「BLAST SETOUCHI 2023」は、岡山という立地にもかかわらず500人の来場者を集め、中国四国最大級のオープンイノベーションイベントとなった(イベントレポートはここから)。「KITAKYUSHU WORK AND ROLE 2024」は2024年3月27日に北九州で開催し、こちらも大成功となった。なぜ地方でそんなことが可能なのか。ASCII STARTUPが2024年3月1日に開催した「JAPAN INNOVATION DAY 2024」で、地方のスタートアップイベントにかかわる2人のプロフェッショナルがその裏側を明かした。
北九州に1000人、岡山に500人が集まった
「WORK AND ROLE」を手がけたのは、有限責任監査法人トーマツ 地域未来創造室 中小・スタートアップ支援全国リーダーの香月稔氏。トーマツでは全国の中小企業・スタートアップの成長を軸としたローカルイノベーションエコシステムの構築に向けた活動を推進しており、WORK AND ROLEもその一環だ。
「北九州市はアクセラレーションプログラムや実証事業など様々な事業家支援事業があり、成果発表会をそれぞれやっていたんですが、『地域でバラバラやっても仕方がない』ということで、5つの事業をひとつにまとめて、『最後の成果発表会』という形にさせていただきました」(香月氏)
「BLAST SETOUCHI」を手がけたのは、瀬戸内エリアにゆかりのあるシード期のスタートアップに投資をしているSetouchiStartups 共同代表パートナーの藤田 圭一郎氏だ。
「2022年に松山で始めたイベント。当時は200人くらいが集まったんですが、閉会式で『このイベントを毎年どこか瀬戸内エリアで開催して、持ち回りでバトンリレー形式に繋いでいこう』ということで白羽が立ったというか、無理やり押し付けられまして。全然やりたくなかったんですけど、前任者などに囲まれて『次は岡山でやれ!』ということでしぶしぶ引き受けて、2023年の11月に向けて死にそうな1年間が始まったという感じです」(藤田氏)
藤田氏を死にそうにしたのは、地方で人を集めることの難しさだ。「岡山で500人って、東京だと5000人くらいの難度なんじゃないかと」(藤田氏)。それでもイベントを成功させた秘訣は「間口を広げる」、「仲間を集める」、「かかわりしろを残す」という3つだった。
「間口を広げる」、「仲間を集める」、「かかわりしろを残す」
2つのイベントに共通しているのは「間口を広げる」ことだ。
スタートアップイベントは「Deep Tech」や「AI」などジャンルごとに細分化する傾向があるが、地方で領域を絞ると来場者が極端に少なくなる。そこで広くスタートアップということでイベントを打っている。
「『そういう選択肢が世の中に存在します』ということをお届けするくらいの意味合い。知ってもらう入口という意味でも重要かなと」(香月氏)
そうしてイベントの大きな枠組みを作ったら、次にやるのは「仲間を集めること」。きれいなランディングページを作って待っているだけで、来場者や参加者は集まらない。ひたすら地道に知り合いに声をかけまくり、人のつながりで「人が人を呼ぶ」状況を作っていく。
「Facebookページを作り、何も告知しない状況で、知り合いに声をかけて『来てね』と言いまくって、200人くらいが集まってくれた。早割りチケットはそれで即売。そうして声をかけていったら、300人くらいから人が人を呼ぶようになっていきました」(藤田氏)
地方でスタートアップイベントに参加するのはハードルが高い。香月氏によれば、そこで大事なのは「『スタートアップイベントに参加したら意識高い系っぽく見られちゃうけど、声かけられたから来たんだよね』的な人を集めること」。参加者がイベントにかかわる余地、藤田氏の言葉を使えば「かかわりしろを残す」ことで仲間を増やしていった。
「キッチンカーを出したりとか、あと実証できるアイテムとかあったら使えるようにしたり。北九州市のスタートアップシーンを盛り上げたいという強い想いを持った地元の民間や行政の仲間たちみんなで集めました。みんなの初めての大規模イベントをみんなで盛り上げたいという、圧倒的な当事者意識です。スタートアップと全然関係ないんですけど、『俺すげーおいしいハンバーガー知ってるから出してもらうわ』とか言って、そうしてみんなでコンテンツを作って、みんなでかき集めた感じです」(香月氏)
ちなみにWORK AND ROLEは司会に坂口理子氏(サンミュージック所属:元HKT48 )を抜擢しているが、それはただ華になるからというだけでなく、地域の人々をスタートアップのエコシステムに巻き込むための工夫のひとつだったという。
「スタートアップに興味なく、純粋にアイドルを見に来ていた人もいた。でも、そこでたまたま知ったスタートアップがやってるようなことと自分の仕事が結びついたりするかもしれない。何かのきっかけで人が来てくれて、それを知ってもらう。知ってその先に何かやろうかとなる。どうやってそこまで持っていくかをすごく意識しています」(香月氏)
次なる「テンバガー」銘柄はすでに地方にいる
しかし、2つのイベントが始まりというわけではない。これまでも地方スタートアップの道は着実に舗装されてきた。
イベントモデレーターのASCII STARTUPガチ鈴木副編集長が話題にしたのは、10年前の起業促進イベント「全国Startup Day」だ。トーマツ ベンチャーサポート(当時)とサムライインキュベートが開催していたものでその名のとおり、北海道から、福岡まで全国8会場で当時としてはめずらしいスタートアップイベントを実施した。2022年から認定が始まったスタートアップ・エコシステム拠点都市の中心人物たちの多くが参加していた。そこには先輩起業家として、全国Startup Dayイベントにネット、アプリといったスタートアップ企業をインフラでサポートした、さくらインターネットの田中社長がいたことが印象的だった。京都で生まれ、大阪を拠点として成長した、さくらインターネットの株式は直近、GPU、AI、半導体といった時流に乗り、テンバガー銘柄となっている。まさにスタートアップが狙いたい展開、先輩起業家としてロールモデルは地方から生まれていたのだ。
奇しくもJID2024の最終セッション「次代のスター起業家はどのように生まれるか」でも、ここ10年のスタートアップの目指すべき先輩スター起業家として、さくらインターネットの田中社長の名前が挙げられていた。地域のスタートアップの熱、イベントの参加者数は当時の数十倍以上になっている。同じことが今後、繰り返されるとするなら、地方発でもユニコーン企業は生まれていくということになる。次の「テンバガー」銘柄を探すなら、都心だけに閉じこもらず、地方で盛り上がりを見せるスタートアップイベントに足を向ける必要があるだろう。