丸の内LOVEWalker総編集長の玉置泰紀が、丸の内エリアのキーパーソンに丸の内という地への思い、今そこで実現しようとしていること、それらを通じて得た貴重なエピソードなどを聞いていく本連載。第11回は、千代田区の環境まちづくり部地域まちづくり課で、大丸有地区のまちづくりに奔走する松浦俊介氏に、その仕事の中身と、なぜ今ウォーカブルが推進されているのか、そして今後、丸の内で実現してみたいことなどについて語ってもらった。
千代田区の地域まちづくり課とは
どんな仕事をしている?
――松浦さんのいる環境まちづくり部地域まちづくり課とは、どんな仕事を
松浦「ひとことで言うと、まちづくり全般になりますが、例えば地区計画などの都市計画や、その前段の行政計画の検討・策定ですね。今回お話しする大丸有地区のガイドラインも、それに当たります。また、大丸有地区にもあるようなエリアマネジメント活動について、区として地域の方々との調整や事業を推進していくのが主な仕事です」
――大きな都市計画やまちづくりのビジョンを作る
松浦「千代田区内にはいろいろなエリアがありますが、大きくは神田地域と麹町地域で担当の課長がおり、それぞれの下で係員がエリアに縛られずに案件を担当しています。私も大丸有で協議会や懇談会の方々と接する一方で、神田の協議会などにも出席して地域の議論にも加わっています」
大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区
都市再生整備計画のウォーカブル推進とは
――昨年策定されたばかりの「大手町・丸の内・有楽町地区 都市再生整備計画」とは
松浦「制度自体は国のものですけれど、地元区が計画を定めることで、まちづくりを推進するための制限の緩和と補助が可能になります。大丸有地区で定めたものは、民間事業者さんの社会実験(イベント)を位置付けたもので、国からの補助金も活用しながら、事業を実施いただいています。
区として、なぜこれを定めたかと言うと、千代田区は令和4年度(2022)に『千代田区ウォーカブルまちづくりデザイン』を策定するなど、ウォーカブルなまちづくりを推進しているんです」
――区全体をウォーカブルな街にしていこうと。令和5年度(2023)に策定された「ウォーカブル推進計画」とは何が違いますか?
松浦「そちらは、都市再生整備計画に紐付く形で民間事業者さんが定めたもので、千代田区が定めたものではないんですね。
区としても、ウォーカブルなまちづくりを推進していきたいということがあり、都市再生整備計画自体は、事業者さん側から提案があって、これは区の政策とも合致するので定めましょうと。
そういう流れで定め、具体的に位置付けているのは2023年に丸の内仲通りで開催された『丸の内ストリートパーク』、そして日本橋川沿いの大手町川端緑道で実施された『BATON PARK』です。川端緑道は全長約800mの歩行者専用道路で、2014年頃に整備された広幅員な川沿いの歩道ですが、あまり活用されていませんでした。だから、ここで何かを仕掛けていけば、よりよい有効活用ができるのではないかと」
――都市再生整備計画は、東京都全体で進められている?
松浦「今のところ、事業中なのは10地区程度だと思います。制度自体はそれほど新しいものでもないのですが、千代田区はこれが初で、昨年の8月に策定されました。ウォーカブルの推進を目標に、指標とそれを実現する事業を定めています。指標はイベントの実施回数や空間の満足度、歩行者数の変化などで、それを実現するためにはこういう取り組みが必要だという内容です」
――そういう実数計測ができると、行政としても後押ししやすくなる
松浦「目標像を地域に対して示せているのが、行政側のメリットですね。今回、社会実験としては2つの事業を位置付けましたけれども、これに限らず他の方が、ここでこういう事業をやりたいとなった時に、区の方向性と合致しているかが認識しやすいと思います。また、先ほどお話ししたような補助金を活用しながら、取り組みを促進できるというのもメリットです。
加えて、道路空間などでテーブルや椅子といった什器を置くには通常、道路占用許可が必要ですけれど、制度上は特例的な許可も可能になります」
――丸の内仲通りでは歩行路の活用を10年ぐらい前からしていますが、今後さらにやりやすくなる?
松浦「将来的に、そのような道もあり得ると思います。仲通りの将来像は、現在も地域の方と議論を重ねており、さまざまな制度の取捨選択の中で、自由度を高めていくことも想定しています。まずは、区で初めて制度を活用できたというのが大きな一歩です」
――東京都内の都市再生整備計画で、他の区でウォーカブルにフォーカスしているところはありますか
松浦「例えば、港区の新虎通りでしょうか。広幅員な都道で歩道も広いので、歩道部分に店舗を構えるなど道路空間の活用が積極的にされています」
――丸の内は仲通りだけじゃなく、最近ではアイススケートリンクを設置するなど、行幸通りもすごく活用されています。行幸通りが自由に使えているのも、ウォーカブルの一環ですか
松浦「実は、丸の内仲通りは千代田区道、行幸通りは東京都道。だから、スケートリンクを許可したのは東京都になります。でも昨今の国の流れや、区で定めている方針や行政計画が、そういうことにもつながっているのかもしれません」
――ウォーカブルは確かに魅力的だと感じますが、車がビュンビュン走っているような従来の街と比べて、その最大の意義は何だと考えますか
松浦「場づくりや、そこで行われる活動によって、地域に関わる方の充実度や満足度を向上させることだと思います。玉置さんが言われたような車がビュンビュン流れている車道も、実はそんなに車道幅が必要ない道路も存在します。
そういう使えるパブリックな空間をどんどん活用して、人中心の量から質へ転換したまちづくりを進めていくのが、ウォーカブルの流れだと考えています。使えるものは使っていこう、ですね」
――大丸有地区の都市再生整備計画の指定区域を見ると、皇居のお濠から東京駅東側までとなっていますが、丸の内仲通り以外にウォーカブルで活用される道路や緑道はありますか
松浦「先ほどお話しした大手町川端緑道と、現在建設中である高さ390mの『Torch Tower(トーチタワー)』周辺や、今後さまざまな開発が見込まれる有楽町などにも注目しています」
――都市再生整備計画の中で大目標になっている、ウォーカブルの概念は重要であると認識しました。他にも何かポイントがあれば
松浦「大丸有地区では、まちの将来像である『まちづくりガイドライン』を定めており、都市再生整備計画に書かれている概念も、このガイドラインと相互に関連しています」
大丸有地区「まちづくりガイドライン」とは
――「まちづくりガイドライン」とは、どんなもの?
松浦「大丸有地区のまちづくりを語る上で、非常に重要なものです。1998年から官民連携のまちづくりを掲げていたもので、現在の当地区の都市計画にも密接に関連していて、都心に相応しい魅力あるまちづくりを地元と行政が一丸となり進めていくことが語られています。
これは東京都、千代田区、JR東日本、地元の協議会からなる『大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり懇談会』が策定していて、最初のガイドラインから8回改訂されています。まちの将来像や、ルール、整備手法が多岐にわたって描かれています」
――今回、ウォーカブルの部分が計画に引き出されていますが、ガイドラインの中でご自身が気になるポイントを挙げていただけますか
松浦「ガイドラインでは9つの目標を掲げていまして、今回の都市再生整備計画では、その目標から3つを取り上げています。『多様性と文化を創ること』、『便利で快適に歩けること』、『地域、行政、来街者が協力してまちを育てること』です。
丸の内仲通りの『丸の内ストリートパーク』は、地域で主体的にやっていただいていますが、区も連携、協力して取り組んでいけたらいいなと考えています」
丸の内の力は官民連携による
国際競争力の強化と交流
――千代田区は、丸の内をどういう位置付けで見ていますか
松浦「丸の内だけというよりも、大丸有地区全体で語ることが多いのですが、国際競争力の強化や交流といったキーワードが挙げられると思います。このガイドラインにも、さまざまな機能の集積と、それらの交流による国際競争力の強化、発信といったことが書かれています。
今後も地区内にとどまらず、東京のまちづくりをリードしていくことが期待されている街でしょう」
――90年代末頃から皆でエリマネをしてきましたけど、それ以前の丸の内は金融街、週末はシャッターストリートで、誰もいないようなイメージでしたよね
松浦「すごく変わりましたよね。昔の仲通りは、現在と写真で見比べてみると、全然風景が違います。行政目線では、先ほどの国際競争力のような話がまず出てくると思うんですが、私個人としては、そういった華やかな都市像の一方で、今の丸の内仲通りを見ていると、親しみやすさを感じる場面もあります。
一般の来街者の方が仲通りを訪れて、にぎわいが生まれており、華やかさと親しみやすさが共存する空間になっているのがすごい場所だと感じています」
――銀座や表参道とも違います
松浦「大きな街路樹と高層ビルの基壇部のバランスが、景観的にも作り込まれていますね。また、点在するアートや道路と民地側の一体的な活用など、歩行者中心の空間として、他地区との差別化がされた素晴らしい空間だとも思います」
――丸の内は、歴史的に見ても官民連携の日本のエリアマネジメントの先駆けであることは間違いないし、他の都市にも影響を与えている。千代田区役所も従来の役所的なことを超えてやってきた
松浦「区もさまざまに取り組んできていますが、それ以上に地元企業の方々のまちづくりへの思いも、非常に強い場所だと思いますし、それに引っ張っていただいている感覚もあります。
行政としては、規制側の側面も持っているので、部署間での横断的な調整が必要になる場面があったりもしますが、懇談会などで地元の方とも継続的に会話ができており、将来像も共有できているので、さまざまな取り組みにチャレンジできているのだと思います」
――90年代末から今に至る流れの中で、区役所も二人三脚で並走してこられたのでは
松浦「官民連携で、まちづくりを推進できる座組を作ってきたことが大きいと考えています。私も東京都から来ている身なので、勉強をしに来ている部分もありますが、大丸有のまちづくりは非常に勉強になりますね」
――一体感がありますね。松浦さんは地元の方や民間の組織とのやり取りも多いと思いますが、役所としてどういった付き合い方を
松浦「最低限守らなければならない法律や考え方はありますが、大丸有のまちづくりは、いかに地域の方がやりやすい環境を作れるか、という視点も重要だと考えています。
先ほどもお話ししましたが、大丸有地区は地元企業の方々のまちづくりへの思いが、非常に強い場所です。そういった思いに区も共感できれば、共同で取り組んでいける部分もたくさんあると感じています。まさに、この都市再生整備計画の策定もそうだったので、今後も地元の方々と協力して、大丸有地区を考えていけたらいいですね」
区役所も変わっていく時代
積極的にビジョンを示すべき
――ご自身が東京都から出向されてもうすぐ1年。大変だったことは?
松浦「まちづくりにはプレイヤーが多いことだと思います。行政や民間、学識経験者など、立場によってそれぞれのスタンスがある中で、ひとつのことを決めるにも関係者が多く、いろいろなところに意見を聞いて調整するのが大変ですね」
――今後、丸の内で実現させてみたいこと
松浦「丸の内仲通りの、より具体的な将来像を描くことです。今も十分に取り組みが行われているとは思うのですけど、区としての具体的なビジョンと言いますか。10年後にはこうしていきたい、という将来像がより具体的に掲げられるといいなと。
例えば『丸の内ストリートパーク』のようなイベントは、地元で考えてやっていただいている部分が多いので、やっぱり私を含めて、区でこういう空間にしたいという思いがもっとあるべきだし、地域がそれを求めている場面もあるんじゃないか、と感じているんですよね」
――区役所の人が夢を語ったっていいでしょう。これからの区役所は、民間企業のように面白いことを考えたり、どんどん変わっていくべきですよ
松浦「おっしゃる通りで、外から見ると世間が想像する、役所的なスタンスがあったりするかもしれないですが、今は少し変わってきているとも思います。
皆で将来像が共有できれば、例えば丸の内に子どもの遊び場があったっていい。地区内のさまざまな場所でアーティストの活動が行われたり、見たこともないモビリティが日常的に走っていたりする風景があってもいいですよね。
冬恒例のイルミネーションも、仲通りだけではなくて、有楽町駅前や日比谷のミッドタウンなど、周辺まで広げてつなげられたらインパクトも大きくなるし、よりよい人の流れも生まれるんじゃないか、と考えています」
近年、国全体で推進されている、ウォーカブルなまちづくり。そのリーダーとなり得るのは、やはり常にエリアマネジメント事業で先陣を切ってきた千代田区・丸の内だろう。地域在住者やワーカー、来街者の満足度をアップするまちづくりは、自治体だけでも民間だけでも実現できないし、官民それぞれにしかできない役割もある。それらを全うしつつ、区役所の人だって夢を見たり、挑戦したっていい。今、まさにそんな時代が来ている。
松浦俊介(まつうら・しゅんすけ)●静岡県出身。千代田区環境まちづくり部地域まちづくり課 まちづくり担当係長。東京都に建築職として入都し、施設設計・工事管理、建築確認審査、市街地再開発事業の許認可を担当する。2023年4月より千代田区へ派遣となり、現在は、大丸有をはじめとした千代田区内のまちづくりを担当
聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。株式会社角川アスキー総合研究所・戦略推進室。丸の内LOVEWalker総編集長。国際大学GLOCOM客員研究員。一般社団法人メタ観光推進機構理事。京都市埋蔵文化財研究所理事。大阪府日本万国博覧会記念公園運営審議会会長代行。産経新聞〜福武書店〜角川4誌編集長
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