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LINEヤフー「生成AIを日本で一番活用している会社」宣言 年間収益約1100億円増を狙う

2024年02月29日 13時10分更新

文● 田口和裕

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LINEヤフー上級執行役員生成AI統括本部長の宮澤弦氏

 LINEヤフーは2月28日、報道関係者に向けた「生成AI活用に関する説明会」を開催。生成AIに関するLINEヤフーのこれまでの取り組みや、今後の展望について、LINEヤフー上級執行役員生成AI統括本部長の宮澤弦氏がプレゼンテーションをした。

国力低下を救う「武器」としてのAI

 生成AIに社をあげて注力するLINEヤフー。その大きな理由のひとつは生産年齢人口減少による労働力低下だ。2020年におよそ7500万人だった日本の生産年齢人口だが、2040年には6000万人まで減少すると予測されている。

 2040年というとまだまだ遠く感じるかもしれないが、16年後ということはiPhoneが発売されてから今に至るまでとほぼ同じくらいの年数だ。

 この状況で国力を維持し成長を続けるためには、一人一人の生産性を強力な武器で補っていく必要がある。LINEヤフーにとってその「武器」こそが生成AIだ。

生成AI活用におけるLINEヤフーの強み

 生成AIを活用していく上でのLINEヤフーの強みとして宮澤氏は3つの要素を提示する。

 まずは国内海外あわせて1億人を超える巨大なユーザー基盤、次にこれまでの研究開発も含めたデータ活用サイクルの存在。そして働き方やサービス実装も含めた”超実践的”な環境だ。 

 

 そもそもLINEヤフーは2022年11月の「ChatGPT」リリースよりも1年半以上前になる2021年6月には「AI倫理に関する有識者会議」を開催し、翌7月にはグループ全体で「AI倫理基本方針」を策定するなど先行して準備を進めており、ChatGPTがブームになる2023年7月にはOpenAIと利用契約を締結し独自AIアシスタントサービスを社内展開。その後も今日に至るまで社内外で積極的に最新動向を踏まえた生成AIの活用・実装を推進している。

生成AI活用推進サイクルとは

 続いて宮澤氏はLINEヤフーの「生成AI活用推進サイクル」について解説を進める。

 サイクルのスタートとなるのが「活用基盤(利用環境)」だ。「まずはAIを活用するために組織を整えガバナンスポリシールールを決め、社員教育を徹底するところから入りました」と宮澤氏。積極的な活用を始める前に予期せぬ事故などを防ぐために「ここまではだいじょうぶ」という範囲を示したポリシーを策定することが先決だと強調する。

 ポリシー策定の次に行われるのが開発環境の整備、さらに日々の業務で社員自信がAIを活用し、最終的にサービスに実装していくというまさに「超実践的」な流れだ。

活用基盤(利用環境)

 利用環境の整備は「組織」「ガバナンス」「社員教育」の3本柱で実施された。

生成AI統括本部を設置

 まずは全社から100名近くを招集して「生成AI統括本部」を組成。AIに関する戦略策定や技術動向のリサーチ、案件の推薦・支援などを専任で担当する形を取った。

 これはインターネットが出てきたときにソフトバンクが取った、スマートフォンが出てきたときにヤフーが取った取り組みに近いという。

 これまで同様「新しく大きなうねりが出てきた時は、それを専門的に担当するグループを全社横断的に集め、そこが集中的にリサーチして方針を決めていく(宮澤氏)」という手法だ。

 さらに、ソフトバンクグループ全体でも人材やノウハウなど社外とのアセット連携も展開され、グループ全体で生成AI時代に備えていこうと取り組んでいる。

AI倫理基本方針

 ガバナンスに関しては、2022年に多様性を意識したAI活用によるイノベーションを目指した8項目からなる「LINEヤフーAI倫理基本方針」を策定。

 本方針は外部の有識者も交えて策定されたが、「AI関連はとにかく動きが早い。日本はキャッチアップが早い方だと思うが、それでも方針は時と共に変わっていくので、我々も常にアップデートをして見ていく必要性がある」と宮澤氏は定期的な見直しの重要性も強調した。

全従業員に生成AI利用研修を実施

 インターネットに関してはプロフェッショナルなLINEヤフー社員だが、新しい概念である生成AIに関してはそうではない。

 LINEヤフーでは全従業員に生成AI利用研修(eラーニング)を実施し、テストに合格しなければそもそもその社員はAI製品を使えないというルールを策定した。

 研修では特に情報漏洩、権利侵害、不正な出力といったAIによる主要なリスクおよびプロンプトエンジニアリングなどに重点が置かれているという。

活用基盤(開発環境)

 利用環境が整ったところで開発環境の整備になる。

 LINEヤフー自らもLLMの研究を続けているが、自家製にこだわって世界の潮流に乗り遅れないよう、まずは現状世界最先端を走るOpenAI、グーグル製のLLMを使いながら開発している。また、AWSやマイクロソフトの製品も契約を進めており、近いうちに利用可能になるという。

業務活用

現在業務に活用中のプロダクト

 LINEヤフーでは現在チャットAI「LY ChatAI」およびコーディング支援AI「GitHub Copilot」を業務に導入済みだ。LY ChatAIはOpenAIのChatGPTをベースにカスタマイズしたLINEヤフー専用のアプリケーションだ。先程紹介した生成AI利用研修のテストに合格した全員が利用できるよういなっている。

 社外秘情報を入力する可能性があるためセキュリティは重視されており、入力内容がAI学習に使われないのはもちろん、会話履歴のモニタリングもされている。

 GitHub Copilotに関しても全エンジニアが開発の際利用できる状態を整備中とのことだ。

 さらに、マイクロソフトの「MS365 Copilot」およびCS部門でのSalesforce導入も検証フェーズに入っている。

AIツール利用による生産性の向上

 現在2万人の社員が利用しているLY ChatAIだが、アンケート調査によるとおよそ7%の生産性向上が見られた。「私も毎日このチャットで壁打ちなどをやっていますが、だんだん慣れてきておりアイディア出しの一つの手法として利用しています」と宮澤氏。

 さらに、エンジニア約7000名を対象に導入されているGitHub Copilotも10〜30%の生産性向上が見られた。「今後、プロダクト自身の改良も予想されるため、さらなる生産性向上につながるのではないかと期待しています(宮澤氏)」。

RAGツールの構築

 さらに、AIのハルシネーションリスク軽減を目的にRAGツールの開発に着手している。

 RAGとは「Retrieval-Augmented Generation」の略で、検索(Retrieve)と生成(Generate)を組み合わせることにより回答の正解率を高めることを目的にしたモデルだ。「将来的には社内でノウハウ化することによって生成AIが我々の右腕になって仕事を助けてくれるという状態になる」と宮澤氏も期待する。

サービス活用

LINEヤフーの生成AI活用状況

 利用環境・開発環境の整備、そして社内での業務活用が進めば、いよいよサービス活用(実装)のフェーズだ。2月28日現在LINEヤフーでは個人向けサービスを中心に16件で生成AIを活用している。

 

Yahoo!検索

 「Yahoo!検索」では2023年10月より段階的に生成AIによる回答の掲出テストを実施している。当初は「コーヒーの淹れ方」のようなハウツーに属した質問に対して実験をはじめており、今後はいわゆる対話形式の質問も予定されている。

Yahoo!フリマ

 「Yahoo!フリマ」では、出品時の商品説明文を自動生成する機能を実装済み。ユーザー満足度も90%を越えている。なお本機能リリースまでの開発にかかった時間は3ヵ月だという。

Yahoo!知恵袋

 「Yahoo!知恵袋」では、2023年11月より「歴史」と「相談」カテゴリー(11カテゴリー)において生成AIによる回答の試験導入開始、2月時点で対象カテゴリーは457(全体の2/3)に拡大している。

 生成AIによる回答のベストアンサー率は60%を越えていたそうで「最初からトップレベルの回答者と同水準のベストアンサー率を弾き出したうえ、ユーザーも受け入れてくださっています」と宮澤氏も驚きを見せる。

 また、倫理的に問題が出そうなカテゴリーや、金融・医療など専門家でないと本来回答できないような質問に対してはAIで回答しないというフィルタープロンプトを実装しており、98.9%のAIに適さない質問を除去している。

 さらに、ユーザーに最適な回答を提供するための細かいプロンプトエンジニアリングも続けており、ユーザーにとって心地よく納得感のある回答がきちんと届くよう努力しているという状況だ。

LINEオープンチャット

 趣味や好きな芸能人といった共通の話題で盛り上がる「LINEオープンチャット」では、2023年11月、入会時にこれまでそのグループでどんな会話がされていたのか分かる「メッセージ要約機能」が実装されている。

 累計PVが180万人、広告も成長しており「比較的ユーザー様の満足度の高い仕上がりになっていると思っています」と宮澤氏も胸を張る。

 2月21には本丸のLINEチャット機能にも「LINE AIアシスタント」としてとうとう生成AIが実装された。レシピの検索、画像の翻訳・要約・解析、PDFファイルの翻訳・要約といった機能が用意されている。

 ただし、現状API使用料などのコストがかなり高いため、無料プランでは1日に質問5回までという制限をかけているが、将来的には無料で開放したいという考えだ。

今後の展望

 宮澤氏は今後の展望として「これからも本日紹介させていただいた生成AI活用推進サイクルをしっかり回して、生成AIを我々のサービスに実装し、ユーザーの日々の生活を豊かにしていくというのが使命」と語る。

生成AI活用、中長期的な見込み

 生成AI活用の中長期的な見込みとしてLINEヤフーは年間の売上収益の約1100億円増、生産性改善額約100億円を見込んでいる。

 現状、生成AIの利用コストも高額になっているが、技術の発展とともに劇的に下がっていくのではないかというのが根拠の一つだ。

 「この目標をできるだけ前倒ししたいと思っていますが、やはり生成AI全体で世界的にコストがかかる構造はしばらく続くので、それとのにらめっこは続くのかなと思っている」と、意気込みを語った。

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