ディープテックスタートアップが日本発である合理性。キーワードは量産と品質保証
エレファンテック清水 信哉氏 × インスタリム徳島 奏氏、海外展開スタートアップ1万字対談
提供: XTC JAPAN
日本のスタートアップは、一定の国内市場があるため、設立当初から海外を見据えた事業展開をしている企業はまだ少ない。この展開の遅れが、成長を阻む一因になっていないだろうか。だが、グローバル課題に技術で取り組む起業家のための世界最大のスタートアップ・コンテスト「エクストリーム・テック・チャレンジ(XTC)」に参加した起業家の場合、この意識は過去のものになっている。
XTC JAPAN受賞企業の中でもエレファンテック株式会社とインスタリム株式会社は、創業当初から海外を主軸に事業展開し、マーケットを拡大している。エレファンテック株式会社 代表取締役社長の清水 信哉氏とインスタリム株式会社 代表取締役CEOの徳島 奏氏、さらにXTC JAPAN幹事の春日 伸弥氏を交え、創業当初から海外進出した経緯、日本発で世界に挑戦する理由について伺った(以下、本文敬称略)。
ディープテックは本来ボーダーレス。海外がメインになるのは自然なこと
――まず、エレファンテックとインスタリムの事業内容についてご紹介ください。
清水:エレファンテックは、金属を印刷するテクノロジーにより、電子回路基板を超低環境負荷かつ低コストで製造する技術を世界で初めて量産化した会社です。パソコンやスマートフォンなど、あらゆるものに使われている電子回路基板は、エッチングという、基板の表面全体に銅を貼って、回路を焼き付けて、それ以外の部分を溶かして捨てる、引き算の方法で作られています。
ですがこの方法は環境負荷が非常に高いうえ、材料のムダも多く、コストも高い、という問題がありました。現在我々は、これとはまったく逆の発想で、金属を必要な部分にだけ印刷する足し算の方法で、非常に低コスト、かつ省資源を実現しています。
このアイデア自体は50年くらい前からあったのですが、量産化が非常に難しくて、誰も挑戦していなかったのです。我々は、日本の大学や企業の技術を活用し、世界で初めて量産化に成功しました。現在は、自社投資で国内に量産工場を設立し、製造販売しています。
徳島:インスタリムは、3Dプリンティング・3D-CAD・AIの技術を用いた3Dプリント義足事業を展開しています。これまでの義足はすべて手づくりで製造されていたので、非常に高価で、経済的な理由で買うことができない人が世界には数多くいました。
僕らは、こうした義足の設計製造自体をDXして、デジタルでつくれるようにしました。3Dプリンター・3D-CADによる義足のカスタム量産体制が構築されたことで、設備費、納期、販売価格のすべてが従来の10分の1以下で、高品質の義足を安く早く提供できるようになっています。そのため、これまで義足を手に入れることができなかった方、特に開発途上国の方々にも届けることができています。
――インスタリムはXTC JAPAN 2020で優勝。エレファンテックはXTC JAPAN 2023で準優勝企業に選ばれています。実際、現時点での海外展開の状況を教えていただけますか。
清水:現在、売上パイプラインの95%が海外のお客様です。もともと電子回路はボーダーがない領域なので、自ずと海外が多くなっています。10年後ぐらいにはパソコンやスマホを含め、ほとんどの電子回路が、我々の製法で作られている世界を目指しています。
徳島:現在は、フィリピンとインドで製造販売しています。フィリピンは 2019年に販売を開始し、2022年に単月黒字化を達成しています。インドでは2022年から営業をスタートし、まだ1年ちょっとなので黒字化までは至っておりませんが、急速に売上が伸びています。
これまでは基本的に自社で義足を製造販売してきましたが、2023年度からは私たちの義足DXソリューションを地域の義肢装具製作業者さんに使っていただく、BtoBのライセンスビジネスも開始し、インドの大手企業での採用事例が出てきている状況です。2024年度にはウクライナの復興支援にも積極的に協力させていただく予定です。