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第14回 and SORACOM

水族館の悩みのタネ、漏水をIoTでいち早く検知

神戸の劇場型アクアリウム「átoa」を支えるIoT ソラカメで動物の生態研究も

大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ソラコム

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初のエンドユーザー向けビジネス、SORACOMでなければ難しかった

 こうした改善はすべて現場からの試行錯誤から生まれたもの。「átoaさんからのフィードバックを元に、われわれもこまめに改良を繰り返すことで、誤検知を少なくできた」と中西氏は振り返る。苦労話について質問したところ、石原氏は「実は思ったほど苦労せず、いいモノを作っていただいたという印象です」と振り返る。

 実際、今回のソリューションは現場での設置や改良をしやすいというのも特徴。設置場所に合わせてセンサーの長さも自由に変えられるので、現場での調整もしやすい。中西氏は、「最初に設置したあと、1ヶ月経たないうちにátoaさんの方で、すでに改良されていました。センサーも簡単に交換できるし、設置場所も変えられます。だから、現場でいろいろ試行錯誤してもらっています」と語る。

設置場所に合わせてセンサーの長さも自由に変えられる

 SORACOMのメリットは、スモールスタートできる点だ。帝国通信工業の部品を販売する立場でもある中西氏は、「今まで部品を製造し、発注元に納めていたメーカーの帝国通信工業さんにとってみれば、エンドユーザーに直接製品を販売するのは初めての経験。ほぼ新規事業に近いんです。でも、SORACOMさんは通信はもちろん、SORACOM LTE-M Button Plusのようなハードウェアもあるし、可視化が可能なSORACOM Lagoonのようなサービスも用意されています。だから、提案してから僅か2ヶ月間でビジネスにまでこぎつけられました。SORACOMがなければ、難しかったと思います」と語る。

 今回、átoaで導入された漏水対策ソリューションは、水族館以外でもすでに利用されており、とある食品の加工現場では洗浄液の漏水検知に用いられているとのこと。「電源を入れれば、すぐに利用できる。後付け(設置)できるという点が評価されています。また、コンクリート造が多い水族館ではWi-Fiなしで通信できるという点も大きい」と中西氏は語る。中島氏は、「全館Wi-Fiが入るという水族館は少ないと思います。その点、ケータイの電波が入るところならどこでも使えるというのが大きいですね」と語る。

 átoaには、現時点で5箇所に設置されているのみだが、十分実用的なレベルに達しているとのこと。「本番運用に向けて、最低あと3箇所は追加したい。理想を言えば、水槽1つに対して1つずつ付けたい。バルブを閉めるとか、遠隔操作ができたら、さらにうれしい」と中島氏は語る。

ソラカメならAIのインプットにもってこい 今後は研究開発にも

 átoaでは、ソラコムのクラウド型カメラ「ソラカメ」も試験的に導入している。もとより、防犯用のカメラは館内各所に設置されているが、夜間の様子も気になる動物をどこからでも監視できるようにということで、急遽導入されたという経緯がある。提案した中西氏は、「タイムラプス撮影ができるネットワークカメラは高価で、安価なウェブカメラはセキュリティの観点からも不安な製品も多かった。でも、ソラカメなら大丈夫だろうということで、ようやくご提案できました」と語る。

館内に設置されたソラカメ

 安価で設置も容易にできるということで、現在ソラカメはカピバラやカワウソ、ペンギン、ワラビーなどの飼育舎に設置されている。中島氏は、「飼育員の方々もスマホを使って担当の動物をチェックしています。録画もできるので、朝来て動物の調子悪かったら、巻き戻して原因を探れます」と語る。

カピバラの飼育舎の上に設置されたソラカメ

上空からカピバラを見守る

 中西氏はソラカメについて「付ける場所を選ばないのは、とてもメリットです。暗いところでもノーマルモードでも明るく撮影できることも嬉しいです。夜間で消灯していても、ナイトビジョンで撮影できています」と指摘する。また、安価なカメラでありながら、APIが用意されている点もシステム開発会社としては大きなメリットだという。「ぶっちゃけ、1台目のカメラを差し上げてしまっても、簡単に利用できるのでお客さまで使い方を考えてくれます。課題に対して、われわれはAPIを使ったソリューションを提案できる。とても画期的です」と中西氏は語る。

 当初は動物たちの見守りにとどまっていたが、神戸デジタル・ラボで今試しているのは、AIによる動物たちの個体識別と移動経路の検出だ。「ソラカメであれば、画像自体が良質なので、十分にインプットに使えます」と神戸デジタル・ラボで、AI活用を研究開発する佐伯佳則氏は語る。そして、このAIによる分析は、お客さまも巻き込んで進めていく。具体的にはカメラの画像をユーザーによってアノテーションしてもらい、AIに向けた良質な学習データを提供していこうとしている。

神戸デジタル・ラボ デジタルビジネス本部 DataIntelligenceチーム 佐伯佳則氏

 本来、水族館は飼育している魚や動物の研究機関としての役割も持っているが、日々のオペレーションに手がかかりすぎて、研究にまで手が回らないという課題があるという。もちろん、研究開発のための原資を得るという点で、コストをかけず、できればビジネスにつながる仕組みが必要。そこで期待されるのがAIだ。「人手をかけずに動物たちの行動を記録し、水族館として分析し、研究開発につなげていきたい。アピールしていきたい。お客さまと楽しみながら精度を上げられたら、さらにいい。教育施設としての質も上げられる」と石原氏は今後の抱負を語る。

(提供:ソラコム)
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