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プラットフォーム指向と現場主導で進めるグループのDX

富士フイルムHDがDXの取り組みを公開 ― 新規半導体材料発見など成果も

2023年12月01日 11時30分更新

文● 大河原克行 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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「One-Data」によるグループ統合の経営情報分析

 DXの取り組みのひとつめは、2022年5月から稼働した経営情報分析システム「One-Data」だ。営業利益やCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)をはじめとした経営KPIの達成に向けて、グループ各社のERPデータを、クラウドで共有することができる。

 「M&Aなどにより、グループ全体で約90種類のシステムを保有しており、経営に必要なデータを適時取得することが課題であった。そこで、売上高やPSI情報を可視化する仕組みを活用して、施策の実行状況などのタイムリーな分析や、現場課題の把握のために、データ活用のための新たなシステムを構築。2023年6月時点で約80社のERPデータを収集できる」という。

 各種データ連携やマスターコード変換において、グローバルで定義した共通品目化や品目階層化を用いることで、異なるERPから収集したデータを共有し、共通言語化した連結経営情報として活用できるようにした。これにより業務生産性の大幅な向上が実現できたという。

 今後は生成AIの活用によるさらなる業務生産性の向上、共通データ活用基盤の拡大によるデータ活用の積極化・高度化を図っていく。

経営情報分析システム「One-Data」によるDX

チャットボットが経営支援する「経営コクピット」やアシスタントがセルフBIを支援する「AIデータコンシェルジュ」などAI活用の取り組み

「マテリアルズインフォマティクス(MI)」によるAIを活用した材料開発

 2つめは、大量のデータをAIなどで分析し、新材料の設計や性能予測を実行する「マテリアルズインフォマティクス(MI)」だ。

 「従来の材料開発は、研究者の経験や勘、試行錯誤に基づいて、材料候補を選び、試作や実験を繰り返し、物理性能を確認していた。MIでは、生成AIによる仮想合成や物理シミュレーションをデジタルプラットフォーム上で実行し、過去実験の良質なデータをもとに分析、材料構造を自動で生成できる」という。

 単純に大量の組み合わせを計算する仕組みではなく、同社が培った熟練値やノウハウを組み込んだ生成AIにより、有効な化合物や複合材料を仮想合成するなど、厳選した筋の良い候補材料を対象にする点が特徴だという。開発期間や開発コストの削減、実験回数の削減による環境負荷の低減のほか、研究者の知識や発想に限定しない未知の材料構造を発見できている。

 実際に材料開発現場の研究者とIT研究者が協働してMIを活用することで、従来の3倍の熱物性値を持つ新規半導体材料候補を発見したことも明らかにした。

マテリアルズインフォマティクス(MI)による材料開発のDX

MIによる新規半導体材料の発見

トラストプラットフォーム「DTPF」によるサプライヤー連携

 3つめのデジタルトラストプラットフォーム「DTPF」は、安心安全なエコシステムを形成する上で必須のインフラ技術と位置づけ、情報の担い手が本物であることや、情報が改ざんされていないことを保証する。ブロックチェーン技術によりデジタルトラストを確保した上で、デジタルツインを構築できるという。

 DTPFでは、グローバルサプライチェーンに参加する企業や個人の情報を、既存システムの枠を超えて共有し、連携することで、デジタル空間にマッピング。AIやシミュレーションよって、サプライチェーン全体の最適解を計算し、現実世界にフィードバックする。

 「データを相互に流通するのではなく、中心に信頼できるデータを置き、当事者同士がデータを見ながら、情報のやりとりを行うことができる。相互の信頼を担保できるプラットフォームなため、生産計画をサプライヤーに開示し、サプライヤー側は生産能力や素材調達状況を返すことで、確度の高い納期、在庫の最適化が期待できる」という。

 2023年7月から実運用を開始しており、2023年度中には、100社を対象に、3万品目の適用を目指している。国内に加えて、中国や香港、タイ、フィリピン、ベトナムにも展開しているほか、今後は、デジカメ用部品だけでなく、化成品原料への対象拡大を検討している。

デジタルトラストプラットフォームTPFによるサプライヤー連携DX

サプライヤー連携DXの進捗と今後の展開

 DTPFは、ヘルスケア分野での利用も可能だ。同分野は、国や地域の規制、システムの違い、プライバシーなどの課題により、データ流通が難しい状況だ。「DTPFは、他社のデジタルトラストプラットフォームとの相互連携により、個人のデータ主権を維持したまま利活用できる。グローバルでのデータ共有と流通により、医療課題の解決に貢献したい」という。

 同社では、健診センター「NURA」を展開しており、実際に個人の医療データを活用し、製薬会社やヘルスケア関連企業に提供している。

健診センターNURAで進められる個人の医療データ活用

 今後、DTPFは、他社のデータプラットフォームやIoT機器との連携を予定している。2025年度以降は、ブロックチェーンのスマートコントラクト機能により、契約や決済処理の自動化を検証し、2026年度には、DAO(分散型自立組織)を支えるオープンなデジタルトラストプラットフォームへと進化させる考えを示した。

「SYNAPSE Creative Space」による医療AI技術開発の民主化

 最後の「SYNAPSE Creative Space」は、医師を対象にしたサービスで、プログラミングなどの高度な工学的知識がなくても、画像診断支援AI技術開発に関する一連のプロセスが実行できる。

 医師が画像診断支援AIを活用する上では、高度な工学的知識、高価な高性能サーバー、アノテーションなどの作業負荷といった課題がある。SYNAPSE Creative Spaceは、これらの課題を解決できるオールインワンプラットフォームであり、ダッシュボードを活用したAI開発プロジェクト管理、マニュアル不要で利用できるアノテーションツール、学習エンジンを使用したAIモデルを作成できる学習プラットフォームを備え、生成AIを活用する環境が整備されている。

 現時点ではβ版として、30サイトで利用されており、2023年度中に製品化する予定だ。

SYNAPSE Creative Spaceによる医師のDX

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