ゲームのパフォーマンスは?
ではSteam Deck OLEDとSteam Deck LCDのパフォーマンス検証に入ろう。Steam DeckのOS(SteamOS)はLinuxをベースにProtonを利用してWindows用の実行ファイルを変換しながらゲームを動かすため、普段ビデオカードの検証で使用している手段が使えない。
一応SteamOS上でフレームレートを表示させる「パフォーマンスオーバーレイ」にはフレームレートを計測する機能(MangoHUDを使用)があるのだが、これも一筋縄で使えるような状況ではなかった。
そのため今回の検証は最低/ 平均フレームレートを計測して分析するのではなく、ゲームの特定のシーンを表示させた時にフレームレートやCPU/ GPU温度に違いが出るかをチェックすることにする。
さらにSteamOS 3.5の仕様(?)からパフォーマンスオーバーレイがスクリーンショットから除外されるようになったため、USB Type-C→HDMI変換アダプターを使い、外部のキャプチャーユニットに画面出力を引き出し、それをキャプチャーするという方法を採用した。
ただ検証設備の制約から、画面出力は1280×720ドットに制限されたうえ、Steam Deck OLEDの場合はゲームにより解像度設定に不具合も出たケースもあるため、あくまで発売前の状況での性能検証であることは強調しておきたい。しかしながら、Steam Deckの画面とHDMI経由で出力した画面出力で体感フレームレートはほぼ変わらない。
まずは「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」だ。解像度は前述の通り1280×720ドット、画質は“低”設定とした。ミッション「武装採掘艦護衛」を開始し、その場で約10分放置した時の状態をキャプチャーした。
続いては「BIOHAZARD RE:4」だ。画質は最低に設定。FSR 2は“バランス”設定とした。敵を排除した村での状態をキャプチャーした。
「Cyberpunk 2077」では画質“Steam Deck”とした。ZIG-ZIGストリート入り口付近に立った際の状態をキャプチャーしている。
続いて「F1 23」だが、OLED版だと画面のアスペクト比調整に不具合が出ていた。画質は“超低”とし、異方性フィルタリングはなし、アンチエイリアスはTAA&FidelityFX設定とした。サーキット(モナコ)上での状態をキャプチャーした。
「The Last of us Part 1」では画質を“最低”、FSR 2“バランス”とした。プロローグ終了後の都市部マップでの状態をキャプチャーした。
最後に試す「Hogwarts Legacy」では、画質は“低”、さらにFSR 2“バランス”設定とした。ホグワーツ城内における状態をキャプチャーした。
全体を通して、Steam Deck OLEDのパフォーマンスはLCD版と大差ないどころか、LCD版の方が若干フレームレートが高く出るシーンも見られた。Steam Deck OLEDはメモリーのデータレートが向上しているが、実際のフレームレートではメリットはほぼないと考えられる。
OLED版のパフォーマンスが伸び悩む理由は発売前のSteamOSやドライバーの熟成不足、もしくはバッテリー駆動時間を優先するあまりパワーを絞り気味にしている可能性が考えられる。
無論HDR設定が何らかの足を引っ張っている可能性も考えられる。このあたりは分析のしやすいWindows環境(後述)が整うか、MangoHUDがキッチリ動く環境を作ってからリベンジしてみたい。
ただ全てのゲームにおいて、Steam Deck OLEDのCPU/ GPU温度はLCD版よりも明らかに低い値を示しており、プロセスルールのシュリンクや冷却機構の改良がプラスに働いていると考えられる。ただパワー設定をやりすぎた結果の温度差である可能性もあるため、発売日直前の状況における観測ということでご勘弁いただきたい。
Windowsドライバーはしばしお預け
Steam Deck LCDはWindowsをインストールする手順やドライバーのDLリンクが公開(リンク:https://help.steampowered.com/ja/faqs/view/6121-ECCD-D643-BAA8)されている。Steam Deck OLEDに対するWindowsの導入手順(ブートローダー選択など)はLCD版と全く同じだが、Steam Deck OLED用のドライバーは発売日以降の公開となるため、現状ではWindows PCとして運用できないのだ。
ValveによるとAPUドライバーは発売後あまり日を置かずにリリースされるが、オーディオドライバーのリリースが遅れ、発売日から2~3週間かかる見込みだ。
失望もあったが、初代Steam Deckの完成形としては評価できる
以上で簡単ではあるが、Steam Deck OLEDの解説およびパフォーマンス検証は終了だ。先にも述べた通り、Ryzen Zシリーズのような最新かつ強力なアーキテクチャーを採用せず、パフォーマンスターゲットを据え置いたという点に関しては、ハードウェア好きとしては失望したことは確かだ。
だがその一方でSoCのプロセスルールをシュリンクし、OLEDを載せ、さまざまなパーツの設計を丁寧に見直して完成度を上げたことは評価しているし、何よりSteam Deck対応検証プロセスを煩雑化させない(そんなことはユーザーに関係ないのは承知だが)というビジョンをしっかり持ち、コストや納期のできる範囲で仕上げる、というValveの信念を再確認できた。
OLEDの画質は素晴らしいが、Steam Deck LCDユーザーが慌てて買い換えるほどの差異はない。だがこれからSteam Deckを買おうと考えているなら、ストレージが増量され、画質も向上したSteam Deck OLEDをまずチェックすべきだろう。
Valveによれば、本当の意味でパワーアップされたSteam Deck(Steam Deck 2みたいな製品)はまだ暫く出ないという。安易に後継機を出して型落ちモデルを出さないという点は消費者にも販売店にとってもプラスだが、筆者は後継モデルの発売に関して、Valveはもっと前のめりになるべきだと考える。
Steam DeckはSteamでリリースされているゲームを遊べる携帯ゲーム機ではあるが、無敵ではない。OS周り(主にProtonだが)の制限でWindows版と同じように遊べないゲームもあるし、何より直近の大作系ゲームでは「Starfield」のように“Steam Deckでは快適に遊べない”という判定が下ったゲームもある。
OS周りのトラブルはソフト的になんとかできても、重すぎて遊べないゲームがあるのはなんとも悔しい。その悔しさが定常化してしまう前に、なんとか次世代Steam Deckを出していただきたいものだ。