3D都市モデルをまちづくりにいかに生かすか、全国15自治体がPLATEAU活用の知見とノウハウを共有
「PLATEAUサミット 2023」レポート
提供: PLATEAU/国土交通省
この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。
国土交通省は2023年10月4日から5日の2日間、3D都市モデルの活用などに関して自治体同士で情報交換を行うための交流イベント「PLATEAUサミット(自治体交流会)in 茅野」を長野県茅野市で開催した。ファシリテーターとして青山学院大学地域社会共生学部教授の古橋大地氏と株式会社アナザーブレインの久田智之氏が参加し、全国15自治体によるPLATEAUの事例紹介やロールプレイ形式のワークショップが実施された。
開会に際しては、主催者である国土交通省都市局都市政策課長の武藤祥郎氏と、開催地である茅野市副市長の柿澤圭一氏がそれぞれ挨拶を述べた。
武藤氏は、「PLATEAUのプロジェクトは4年目で実装フェーズに入っている。“実装”という言葉は仕組みを作るだけでなく、世の中を変えて市民の生活に生かされてこそ実装と言える。ビッグデータは持っているだけでは意味がなく、データをうまく分析して活用する能力が問われている。PLATEAUを通じてデータ活用の意識を自治体の行政の中に広げて、さらには民間企業にもどんどん使っていただければ」と語った。
柿澤氏は、茅野市での開催の謝意を述べるとともに、「コンパクトシティ・プラス・ネットワークのまちづくり」の取り組みを紹介。同市では、2020年からPLATEAUに参画し、2022年4月には革新的事業連携国家戦略特区に指定され、DX推進を図っている。同年夏からはAI乗合オンデマンド交通「のらざあ」の本格運行を開始し、市内の移動データが蓄積されつつあり、こうしたさまざまなデータと3D都市モデルを連携・活用し、まちづくりの方向性を可視化する取り組みを進めていく計画だ。
地方公共団体によるPLATEAU社会実装に向けてトータルな支援を提供
続いて、国土交通省総合政策局/都市局IT戦略企画調整官の内山裕弥氏が登壇し、「PLATEAUトピックス」と題して、PLATEAUの概要、自治体がPLATEAUを社会実装するための国の支援体制と、最近の自治体によるソリューションを紹介した。
PLATEAUは、国土交通省が進める都市のデジタルツインデータ「3D都市モデル」の整備・活用・オープンデータ化のプロジェクト。3D都市モデルは、全国約130都市で整備されており、2023年度中に約200都市に拡大する予定だ。PLATEAUの3D都市モデルは、建物や道路、植栽、目に見えない都市計画情報など、都市を構成するあらゆる情報をGISデータとして扱える。
PLATEAUを活用した都市デジタルツインの実現により、社会に新たな価値をもたらす、あるいは地域の課題を解決するのがプロジェクトの目標だ。
2023年度以降は実装フェーズとして、これまでの国土交通省を主体とする推進体制から、地方公共団体や企業、大学などの研究機関、地域コミュニティなどの主体がフラットに連携し、自律的に取組を進める「エコシステム」の構築を目指す。地方公共団体によるPLATEAU社会実装を推進するため、国土交通省では、企画立案、ステークホルダーなど関係者との調整、予算獲得、社会実装の各フェーズに対して各種支援を提供している。
企画立案については、国のプロジェクトとして実施した事例をベストプラクティスとしてウェブサイトで公開している。また、「支援事務局」を設置し、資料作成や補助金の申請方法などを相談できるそうだ。
ステークホルダーとのマッチング支援として「ニーズ・シーズマッチング支援イベント」を年に2、3回開催。財政支援としては、2022年度に「都市空間情報デジタル基盤構築支援事業」を創設し、2分の1あるいは上限1000万円までの定額補助が提供されている(2023年度現在)。
社会実装のフェーズでは、支援事務局から事業計画書の作成や進捗管理の支援、オープンデータ化の支援などが受けられる。
最近のトピックとしては、行政向けのPLATEAU活用事例をいくつかピックアップ。東京・渋谷区の道玄坂の道路を拡張した環境をウェブアプリ上でVRシミュレーションする「ウォーカブルな空間設計のためのスマートプランニング」、ウォーカブルなまちづくりへの市民参加を活性化するARアプリ&ウェブアプリの開発事例「XR技術を活用した市民参加型まちづくり」、VRと都市模型を連携させたシミュレーション「タンジブルインターフェースを活用した住民参加型まちづくり」、現実を舞台にしたメタバースサービス「歴史・文化・営みを継承するメタバース体験の構築」、下水道台帳から取り込んだデータをもとに利用可能な下水熱量を推定し、熱需要家に情報提供する「下水熱利用促進のためのマッチングシステム」などを紹介した。
また2023年度からは、地域版のPLATEAU開発イベントの開催支援として、地方公共団体や地域のエンジニアコミュニティが主催するハッカソンやアイデアソンなどの企画運営、PR、メンターの派遣などの支援を提供している。来年以降にPLATEAUイベントの開催を検討している自治体や地域コミュニティの担当者は問い合わせてみてはいかがだろうか。
自治体によるPLATEAU活用の取り組み
自治体によるPLATEAU活用事例紹介では、長野県茅野市、岐阜県岐阜市、香川県高松市、熊本県玉名市、茨城県つくば市、京都府京都市の6つの自治体が各地の取り組みを発表した。
茅野市「開発許可申請のDX」
茅野市では2018年から都市のデータを利活用する都市構造可視化に取り組み、2018年には、まちづくりの計画や効果を3D地図で見える化する情報基盤「i-都市再生」を使った農地転用状況や土砂災害・浸水想定区域など災害リスクの可視化、2019年にはVR・都市模型を使った市民参加型のまちづくりの検討会やワークショップを実施。2020年にはPLATEAUに参画し、3D都市モデルを整備している。
茅野市は2022年度を「茅野市DX元年」と位置付け、都市のオープンデータを活用したサービスを計画している。そのうち、3D都市モデルのユースケースとして、①IoTセンサーと3Dマップを活用した災害発生時の消防・自主防災組織の連携支援、②行政手続きをオンライン化する開発許可のDXの2例を紹介した。
①は、地震センサーから得られた震度データと車両の位置情報を3Dマップ上でリアルタイム表示することで、地震発生時の状況を迅速に把握・情報共有し、広域消防・消防団・自主防災組織間で連携した地域の消防・救助活動に役立てるものだ。
②は、今後、市職員の減少が予想される中で開発許可制度の適正で迅速な事務執行を継続するため、土地利用、都市計画、景観規制、災害リスクなどのデータを3D都市モデルに統合し、開発許可の申請に対して適地診断する「開発許可DXシステム」を開発。事業者は、地番や利用目的などを入力するだけで担当部署への事前相談の要否が確認できるほか、複数の担当部署から申請した資料に対してすぐに回答を得られ、オンラインでの問い合わせや申請手続きによる業務効率化が実現できる。申請を受理する行政側は、土地利用等に関する窓口や電話対応に要する時間の削減が期待される。また、申請が行われるたびに、紙の合議文書が関係部署間を回覧されており、審査を行う際には、申請時に提出される膨大な情報を整理したうえで、総合的な検討を行う必要がある。開発したシステムを用いることで、伝達ミス等の人為的ミスのリスク回避のみならず、各種情報を総合し、近隣の申請状況や相談履歴と照らし合わせた審査を可能にすることで、目指すべき都市の姿と整合した立地誘導施策等の推進への貢献を目指す。
2022年11月・12月の実証実験では、窓口訪問や電話問い合わせの件数が11月は27%、12月は37%減少したという。2023年度は前面道路幅員の自動判定などにも対応し、10月から12月にかけて実証を行う計画だ。
岐阜市「統合型GIS構築」
岐阜市では、2020年に市全域の3D都市モデルを整備し、LOD2(LOD:Level of Detail、詳細度)の範囲である中心市街地は毎年更新を行っている。これまでの3Dモデルの活用事例として、2022年度は、①災害リスクの可視化、②道路空間利活用の検討、2023年度は、③日照シミュレーションに基づく広場整備の検討、④交通事故リスクの可視化、⑤3D洪水ハザードマップの整備などを実施してきた。
3D都市モデルの整備・活用の課題として、庁内のネットワークやPCスペックが不十分で3D都市モデルの閲覧環境が限られていること、3D都市モデルの認知が不足し、活用が一部の部署に限られていることが挙げられる。また、庁内の各部署がそれぞれ異なるGISシステムを導入しており、扱うデータ形式が異なることから部署間のデータ連携が難しかった。
そこで、2023年度から3D都市モデルの整備、活用、オープンデータ化推進事業を始動し、イントラネット上に3D都市モデルの表示機能を実装したGIS統合プラットフォームを構築し、庁内に分散する既存システムおよびデータを統合する計画だ。
今後の取り組みとして、2024年度までに庁内の既存GISシステムを統合した統合型庁内GISを構築する予定。2025年度からは、統合型庁内GISから公開可能なデータを抽出した市民向けGISプラットフォームを構築して、市民への情報提供や民間のサービス開発へとつなげていく計画だ。
高松市「都市政策シミュレーション/エリアマネジメント事業」
高松市では、土地利用(コンパクト)と交通(ネットワーク)を最適化する都市構造の再構築モデル(コンパクト・プラス・ネットワーク)に取り組み、2022年からインフラ情報のデジタル化・オープンデータ化を推進する地理空間データ基盤の整備と3D都市モデルの構築・活用に着手している。
3D都市モデルの活用施策として、2022年度は「都市OSと連携した都市政策シミュレーション」を、2023年度は「3D都市モデルを活用したエリアマネジメント事業」を実施している。
「都市OSと連携した都市政策シミュレーション」は、政策の企画立案や合意形成ツールとしての活用を目的としたものだ。都市OSと3DWebGISを統合し、API、データの統合管理、シミュレーション、3次元での可視化の4つの機能を有する都市政策システムを構築。このシステムで、①土地利用・交通モデルによる都市政策シミュレーション、②河川水位予測・洪水浸水深シミュレーション、③熱環境シミュレーションの3つのモデルを構築し、市職員による試行活用を通じて有用性を検証した。現状と将来の3D都市モデルを視覚的に比較でき、相関関係にある土地利用と交通施策を同時に分析することで、より信頼性の高いシミュレーション結果が得られるのがメリットだ。
2023年度の「3D都市モデルを活用したエリアマネジメント事業」では、7月に開催されたG7香川・高松都市大臣会合に合わせて、「未来のサンポート高松」をテーマに「マインクラフトまちなみデザインコンテスト」を開催。3D都市モデルをマインクラフトに変換することで、現在の高松の街を再現し、子どもたちが自由にまちづくりをするという企画だ。G7で来日した各国の大臣にも先行体験してもらい、好評を得たとのこと。わかりやすく興味のわきやすい仮想空間を活用して、距離や時間、専門性といった参加のハードルを下げ、市民の参加を促す目的だ。
玉名市「災害リスク可視化」
玉名市は、市内を流れる一級河川「菊池川」を中心に都市が発展してきたという。その一方で、近年は水災害の頻発化・激甚化が懸念されている。そこで、防災意識の向上や事前の避難計画を検討するため、災害に関する情報を3D都市モデルに重ね合わせて時系列で可視化するシミュレーションを開発。2020年度は、PLATEAU VIEWをベースに玉名駅付近の菊池川堤防が破堤した場合の浸水シミュレーションを開発し、住民向けの防災講和で活用した。
2022年度は、街が浸水していく様子や歩行者を3Dアニメーションで再現したVRシミュレーションを作成。住民向けにVR体験会を開催した。2023年4月からは、VR機材を学校や民間団体に貸し出し、防災訓練や学習に活用しているという。
2023年度は、熊本県のDX実証事業を活用して、菊池川流域の防災・災害情報を確認できる「熊本県菊池川流域3D防災マップ」の実証を行っている。菊池川流域の洪水、土砂、高潮、津波に関する情報を3D地図上に配置し、PCやスマートフォンから閲覧できる。
つくば市「医療MaaS」
つくば市は、「つくばスーパーサイエンスシティ構想とPLATEAU 3D都市モデルを活用したデジタルツインの構築」と題し、スーパーシティ特区におけるPLATEAUを活用した医療MaaSの事例を紹介した。
医療MaaSは、病院に診療受付するとAIデマンドタクシーが配車され、院内では自動運転モビリティで診療科へ搬送されるというものだ。2022年度は、自動走行ロボットの環境地図としてLOD3の3D都市モデルを活用した自動走行の実証実験が実施された。
2023年度は、子育て世代への外出支援として、主要公園を自動走行する「3Dモデルを活用した子どもMaaS」のユースケース開発を実施。PLATEAUの地図データを自動走行ロボットの開発チームに提供し、事前走行によるマッピングなしでの自己位置推定を検証する予定だ。
今後は、防災・防犯・インフラ分野についても、デジタルツイン上でシミュレーションすることで維持管理の効率化・高度化に活用していく計画だ。
京都市「3D都市モデル構築と歴史まちづくり」
京都市は「京都市における3D都市モデル構築と歴史まちづくり」と題して、PLATEAUを活用したメタバースの取り組みを紹介した。
京都市では、京都らしい町並みを残していくため、歴史的建造物に指定された建物の修理・維持費用の一部を市が負担する助成制度を実施している。しかし、助成費用は年々増えており、全ての希望に応じられなくなっているという。
PLATEAUへの参画は、京都のまちをメタバース化して収益化し、町並み保全につなげるのが目的だ。2023年のユースケースとして、ANA NEO 株式会社、JP GAMES株式会社、株式会社トーセと連携し、バーチャルトラベルプラットフォーム「ANA GranWhale」でPLATEAUを活用した京都の観光体験コンテンツを開発。
対象エリアは町並み保全地域である祇園新橋地区と先斗町地区で、京都市が現地との調整役となり、2023年5月からLOD3データ整備のための測量を行い、9月にはメタバース構築を実施している。3D都市モデルを活用することで高品質かつ公式感のあるメタバースを効率的に構築でき、LOD3をベースにライティング効果を変えることで、夜の風景への切り替えも可能だそう。
メタバース空間での観光のほか、ショッピングモール「SKYモール」でリアルな買い物も楽しめる。PLATEAUの3D都市モデルによるリアルなメタバース空間を提供することで、海外市場の開拓や歴史的建造物維持へのクラウドファンディングなどによるマネタイズを期待している。「ANA GranWhale」は2023年11月下旬に国内サービスを開始する予定だ。
今後の取り組みとしては、歴史的町並みや伝統的な営みのデジタルアーカイブ化とデジタルアーカイブを活用した持続可能な町並み保全にもPLATEAUを活用していきたいそうだ。
このほか自治体によるライトニングトークでは、広島県、長野県、松本市、諏訪市、伊那市、山梨県、湖西市、袋井市、飯塚市が登壇し、各自治体の取り組みや課題を紹介した。
自治体に共通する課題として、庁内のネットワーク環境やPCスペックの不足により職員への普及が進まないことと、予算確保の難しさが挙げられた。予算については、「都市空間情報デジタル基盤構築支援事業」の補助金の利用や、同じ課題を抱える自治体や企業との共同開発で費用を抑える方法もある。
PLATEAUの活用が将来的なコスト削減や地域の発展につながることを示せれば予算も確保しやすい。地域イベントなどを開催して認知を高めるのも有効だろう。
架空の自治体職員になりきってPLATEAU活用を考える、ワークショップ「PLATEAU 1st STEP to RPRP」に挑戦
イベント2日目は、PLATEAU VIEWの使い方を学ぶハンズオンと、PLATEAUを活用したサービスを考えるワークショップが実施された。
PLATEAU CMSハンズオンでは、株式会社Eukarya代表取締役社⻑の田村賢哉氏が講師となり、PLATEAU VIEWに自治体独自のデータを追加する“我が街のPLATEAU VIEWづくり”を体験した。
国土交通省がウェブで公開しているPLATEAU VIEW2.0は、全国の3D都市モデルやユースケースデータなどを可視化するWebGISで、それらのデータの登録・管理・配信はコンテンツ管理システムである「PLATEAU CMS/Editor」を活用している。PLATEAU VIEW2.0は国土交通省が運用しているが、自治体が独自にPLATEAU CMS/Editorを活用することもできる。PLATEAU CMSハンズオンではでは、CMSへのデータ登録やEditorを用いた表示設定についての解説を受けながら、自治体ごとの独自のオープンデータや機能を加えたPLATEAU VIEW構築を体験した。
続くワークショップ「PLATEAU 1st STEP to RPRP(Regional Pride Role Play)」には、ファシリテーターとして、青山学院大学地球社会共生学部教授の古橋大地氏と株式会社アナザーブレイン代表取締役の久田智之氏が進行を行った。
ワークショップでは、自治体からの参加者が4人ずつ5チームに分かれて架空の基礎自治体をつくり、ボードゲームのようにカードを引いてロールプレイを進めた。
最初に、各チームが「地域ペルソナカード」を引き、自治体の地域特性や人口、面積、産業、首長の性格を設定する。次に、メンバーで「役割カード」を選び、首長、都市計画課課長、ルーキー職員、外部協力者のいずれかのキャラクターを演じるのがルールだ。
各チームで架空の自治体の名前を付け、Facebookグループのアンケートで事前に抽出した課題の中から解決したいテーマを選択。さらに、予算もカードからランダムに選ぶ。500万円、1000万円、3000万円、青天井の4種類で、予算の範囲で実現できそうなサービスを考えなくてはならない。
自治体の取り組みの流れに即して、PLATEAU 3Dモデルが整備済みかどうか、LOD1かLOD2もあるのか、といった状況を設定し、PLATEAUを使う目的とアイデアを整理する。PLATEAUの活用イメージが固まったら、関係者と利用できる既存データを洗い出し、サービス開発の準備を進めていった。
状況に合わせて臨機応変に対応するための学習として、「ハプニングカード」も用意。準備が進んだ段階でハプニングカードを引き、自然災害や首長変更といったハプニングへの対応策を議論し合った。
チームで議論した内容は、各自がグラフィックレコーディング(グラレコ)形式でまとめていく。グラレコは、イラストや概念図を用いてリアルタイムに記録する手法だ。参加者のほとんどがグラレコは未経験だったが、講師が提示した見本やネットの検索結果を参考にしながら、どんどんペンで書き込み、それぞれカラフルで大胆なグラレコが仕上げられていった。
最後に、各チームが取り組みを1枚のグラレコにまとめ、発表を行った。
製造業と物流が主力の山間地域で、災害時の道路の復旧計画と避難ルート選定に活用
チーム「イシオ市」は、山間部にある人口30万人、製造業と物流が主産業の郊外地域。事業予算は500万円で、前年度に市全域の道路をLOD3で整備済みだ。最近の出来事として、大規模な地震が起こり、産業の要である道路が大規模に破損したことから、物流において重要な道路を特定し、優先的に修繕することが課題だ。
その解決策として、PLATEAUのLOD3の道路データ、工場立地データ、土地利用のデータ、ハザードマップ、人流データを組み合わせることで、最適な物流ルートを算出。被災した道路の復旧計画に役立てるほか、勾配に配慮したCO2排出量削減ルートを策定して、環境に配慮した道路の維持管理や災害時の回避ルート選定に活用することを提案した。
富裕層向け眺望ラウンジのプロモーションとしてシミュレーションを開発
チーム「とかさぎ市」は、人口300万人、金融、IT、観光産業に強い大都市。財政難のためPLATEAUに使える予算は500万円と厳しいが、国際会議の招致が決定したのを機に、富裕層をターゲットにした官民連携の「ピンチをチャンスにプロジェクト」を提案した。
市の“ウリ”である祭り神輿や花火、眺めの良さなどを富裕層にアピールするために、プロモーションとしてPLATEAUを活用した「富裕層向けラウンジ眺望シミュレーション」を地元IT企業の協力で開発。国際会議の来場者が長く滞在してお金を落としてくれるように、金融業界にも働き掛けて商談の場としてラウンジを利用してもらう計画だ。
AIや空飛ぶクルマの導入で交通渋滞を解消
チーム「だいと市」は人口500万人で、商業やエンターテインメントが盛んな大都市。予算は3000万円。課題である交通渋滞を解消し、まちの活性化を図るのが目的だ。最近、大手企業の工場が撤退したことから、工場跡地を活用した統合型リゾートの誘致を計画している。
渋滞解消に向けて、PLATEAUの3D都市モデルを活用して現在の人流と将来の人流のシミュレーションを実施し、AI分析による交通量に応じた信号制御や、地上を走らない空飛ぶクルマなど新都市交通の実証へつなげることを提案した。
自然環境の保護と防災を両立した山間部の宅地開発計画に活用
チーム「長海(ながみ)市」は、人口1万2千人の中山間地域。海に接しており、産業は漁業と手工業が中心。市街地は山と海に挟まれており、洪水、土砂崩れなどが起こりやすく、防災強化が急務だ。近年、人口が増加傾向にあるが、平野部が狭いことから山間部の宅地開発が進められている。
予算の制限がないため、ドローンを用いて地形データのLOD3を整備し、現場測量に近い精密なデータを収集。ハザードマップと重ねた洪水や土砂災害のシミュレーションで危険性を可視化し、住民からの意見を集めて宅地開発に生かす計画だ。また豊かな自然を観光資源として残すためのデジタルツインの活用やVRによる観光促進を提案した。
再開発の検討に3D都市モデルで将来のまちをシミュレーション
チーム「おおと市」は、人口400万人の大都市で、不動産、メディア、IT産業を中心に発展している。オフィスビルが乱立する雑多な街から、緑豊かな居心地の良いまちへの再開発を目指している。予算は補助金1000万円を活用し、LOD1をベースにシミュレーションして、地元企業との官民連携によるデジタルツインを活用した再開発計画の実現を提案した。
発表後の講評として、古橋氏は「与えられた条件のなかで、皆さん苦しみながら試行錯誤され、グラレコでは色を使い分けるなど表現に工夫されていた。この体験から何か得るものがあればうれしいです」と述べた。
久田氏は「初めて会った人同士での取り組みの中、すばらしいものが仕上がった。PLATEAU以外にも、今回学んだグラレコなどの手法を普段の業務の中でも活用していただければと思います。この交流会をきっかけに、自治体の垣根を越えて気軽に相談し合ってほしい」とコメントした。
内山氏は「今日の第一の目的はネットワーキング。このネットワークを活用して、気軽に議論をしていけたらと思います。また、今回のワークショップで行ったことを庁舎でやってみていただくのもいいでしょう。ひとりで考えると広がりに欠けるので、ぜひ持ち帰って活用し、我々の補助事業にもよい提案を出していただけることを楽しみにしています」と締めくくった。