2023年11月2日22時、「Ryzen 7000シリーズモバイルプロセッサー」の新モデルとして「Ryzen 5 7545U」を発表した。AMDは今年5月、「Ryzen 7040Uシリーズ」を発表し、その中にはRyzen 5 7540Uというモデルが含まれていた。
今回のRyzen 5 7545Uはこの7540Uを置き換えるモデルとなる。Ryzen 5 7540Uのスペックは6コア12スレッド、最大4.9GHzで内蔵GPUに「Radeon 740M」を搭載するなど、数字的なスペックは既存のRyzen 5 7540Uと何ら変わっていない。
ではAMDがなぜ、このようなマイナーチェンジにしか見えないCPUを発表したのか? その理由はアーキテクチャーだ。Ryzen 5 7540Uを含めた既存のRyzen 7040Uシリーズは全てZen 4アーキテクチャーをベースにしているが、Ryzen 5 7545Uは「Zen 4c」を採用している。
しかし、Zen 4cは「ROG Ally」に使われている「Ryzen Zシリーズ」で既に採用済み。ここまでの話であれば特に面白みはないように思える。けれども、このRyzen 5 7545Uでは「Zen 4ベースのコアを2基」+「Zen 4cベースのコアを4基」搭載した、同一IPによるハイブリッドデザインを採用している。
インテルのCPUはPコアとEコアのIPが異なるハイブリッドだが、Ryzen 5 7545Uは少しだけ物理設計を変えた同じRyzen IPのハイブリッドなのである。
まずZen 4cとは今年6月に発表された「EPYC 8004シリーズ」で初採用されたアーキテクチャーであり、Zen 4と完全な互換性を保ちつつ、同じ規模の回路をより小さなダイ面積に収まるよう物理設計を見直ししたアーキテクチャーのこと。
Zen 4cに関する詳細な解説については、大原氏の記事が全て語ってくれているのでご一読いただきたい。
ただEPYCのZen 4cではZen 4よりもL3キャッシュの容量が減っている(コアあたりのL3が4MBから2MBへ半減)のに対し、Ryzen 7040UシリーズのZen 4cは全く何も変わっていない。
だがZen 4cではZen 4よりも35%も少ないダイで全く同じ機能を実装できる。Ryzen 5 7545UはZen 4の“大きいコア”とZen 4cの“小さいコア”の混在というわけだ。
ではなぜZen 4とZen 4cを混合したCPUを作るのか? まず製品展開の側面では、今後より多くのコア数を持ったRyzenを提供する可能性を拓くためである。
モバイルノート向けの低TDPなRyzenではパッケージ自体を小さくする必要があるため、ダイも小さくなくてはならない。そこにZen 4cを投入することで、将来的にコア数を盛る道筋を付けた、ということだ。
性能面ではZen 4+Zen 4cの構成は低いTDP設定でのマルチスレッド性能において、Zen 4のみの構成よりも高いマルチスレッド性能を発揮するとしている。
TDP 20W設定より上で動作させる場合、Zen 4だけの方がパフォーマンスに優れる一方で、TDP 15Wより下の領域ではZen 4+Zen 4c構成の方がより効率良くパワーを使えるとAMDは謳っている。
ではRyzen 5 7545Uでは、どのようにして大きなZen 4コアと小さなZen 4cコアを使い分けるのか? 現在のRyzenには“Preferred Core”、即ちクロックが高く設定できる優秀なコアを識別し、負荷の高い作業はこれを優先して使うという仕組みがある。
Ryzen 5 7545Uでは単純にZen 4のコアをPreferred Coreとして運用しているだけだ。クロックを上げて仕事をさせたい処理はZen 4コアに割り当て、そうでないものをZen 4cに割り当てる、という塩梅になる。これまであった仕組みを上手く利用するのがAMD製品の面白いところだ。
Ryzen 5 7545Uは同一IPで大小ハイブリッドという新しい境地をモバイル向けCPUにもたらした。ただ低TDPにフォーカスした製品が出てこない限り、Ryzen 5 7540Uとの性能差を感じることはできない(前掲の画像参照)だろう。だがRyzen 5 7545Uは、将来のRyzenの進化に帯する期待を盛り上げてくれる。今後の製品展開に期待したい。