松屋の券売機のUIにまつわる諸問題
アスキーグルメのモーダル小嶋です。以前、編集部の人に「『吉野家』と『松屋』の違いを聞かれたら、どう答える?」と聞かれたのをきっかけに、自分の考えを書いたことがありました。
「吉野家と松屋の違い」については筆者なりに書いた記事はこちら
「吉野家と松屋の違いを(海外の人に)聞かれたら、どう答える?」という問いに対して、両社の歴史や、牛丼と牛めしの違いなどについて注目しながら説明した記事です。
その際、「吉野家は店員に注文し、レジによる支払いです(一部店舗では自動券売機を導入)。対して松屋は、店員に直接注文せず、自動券売機で食券を購入するようになっています」と説明しました。
今回の記事は、それに関する話題です。
松屋の券売機は、UIがわかりにくいと言われています。正直、わかりやすい/わかりにくいという点は、個人の主観によるところも大きい。筆者は松屋を始めとするチェーン店に足繁く通うタイプなので、初めての人がどこで戸惑うか、はっきりと断言できないところもあります。
それでも、松屋の券売機における操作の難しさとして、一度に表示されるメニューが少ない点、サイドメニューやトッピングの追加(「生野菜生玉子セット」の追加や、みそ汁の「豚汁変更」など)のやり方がわかりにくい点が挙げられましょう。
また、「牛めし」タブから選んでいるときに、やっぱりカレーにしようかな……などと思った際は、上部の各カテゴリーを示すボタンをタッチして移動するのですが、このあたりもわかりにくいかもしれません。商品をキャンセルすると、最初からやり直しになる(店内かテイクアウトか選ぶ画面に戻る)ことがあるのも、いささか面倒でした。
縦長の券売機も、改善すべき点はあるように思う
松屋の券売機の仕様は店舗によって異なり、画面上で牛めしなどを選択すると「ご一緒にいかがですか?」とオススメのセットが表示される、縦長の画面の券売機も増えてきています(これも、余計な配慮だと感じる人はいるでしょうが)。
ただ、画面が縦長なため、情報量が多すぎるという問題(ディスプレーが大きくて全体を見渡せない)はあるかもしれません。
そもそも、まずカテゴリーをタッチして、そこからメニューを選んで……というUIは、卓上などでじっくり操作できる注文方法にこそ向いているはず。たとえば、すき家は卓上にタッチパネルを配置しているので、席についてからゆっくりメニューを選べます。
しかし、入口に置いてあって後ろに人が並ぶタイプの券売機となると、1つの画面ですべてのメニューが見えるようなUIのほうが、注文に時間がかからないかもしれません。操作の手順が細かくなればなるほど、手順も増えるわけですから。
また、「戻る」が画面の“左下”に、「初めからやり直す」が“左上”にあるのは、逆のほうが良いのではないかとも感じました。スマートフォンの「戻る」ボタンのような感覚で配置したのかもしれませんが、画面が大きすぎて、視線を落とさないと目に入らないことが気になります。
ただ、券売機そのものではなく、「松屋モバイルオーダー」の広告に描かれているシチュエーションの話もしたいのです。
「券売機が悪いんじゃないか」と思わせるイラスト
松屋にはスマートフォンから注文する「松屋モバイルオーダー」があります。ネット経由で持ち帰り弁当の事前予約が可能な「松弁ネット」とは異なり、店内飲食・持ち帰りの両方に対応しているものです。
10月26日現在、松屋の店内では、そのモバイルオーダーの広告がテーブルに貼ってあります。しかし、筆者はその内容にどうも納得できません。冒頭に貼った写真ですが、もう一度掲載します。
「松屋でこんな経験ありませんか?」というキャッチコピーの下に、「お昼時の渋滞にイライラ」「席が取れるかヒヤヒヤ」「操作に迷ってドキドキ」と、注文がうまくできずに困ってしまうシチュエーションが書いてある。そして、松屋モバイルオーダーならスマートフォンで簡単注文できるから、そんな問題はないよ……とアピールするものです。
何に納得できないのか。この3つのイラストのすべてに、「券売機のUIが良くないのではないか?」というツッコミが成立してしまうことです。もっと言えば、自社のサービス(モバイルオーダー)を持ち上げるために、自社のシステム(券売機)を下げているように見える。
実のところ、席からオーダーできるシステムは松屋の専売特許でもありません。たとえばマクドナルドのモバイルオーダーは、「店内テーブルからでも! ドライブスルーでも!」と、スマートフォンから気軽に注文できることをうたっています。
しかし、松屋のモバイルオーダーをアピールする広告は、3つのイラストのすべてで、「券売機の前で人が詰まっている」のです。座席から追加注文するのが便利だとか、座席から券売機に行くのが面倒だとか、そういったシチュエーションを描いていない。
どのシチュエーションを見ても、「これって、券売機が悪いんじゃないか(時間がかかるから、人が並ぶのではないか)」と思わせてしまう内容になっている。そもそも券売機でスムーズに注文できれば、渋滞もできないし、席も取りやすいし、操作に迷うこともないのでは……と感じるのですね。
「後ろの人にらんでる」は余計なメッセージ
3つのイラストの中でも、とりわけ良くないと思うシチュエーションは、「操作に迷ってドキドキ」です。券売機で操作に迷っている人が「どうしよ、あっ 後ろの人にらんでる」と言うもの。
まるで、ウチの券売機に慣れないと操作に迷うこともありますよね……と松屋側が卑下しているようです。個人的には、「“注文に迷って”ドキドキ」ならわかるんですよ。「牛めしにしようかな、カレーにしようかな。うわ、迷っているうちに人が並んじゃった」なら、本人のせいといえなくもない。
しかし、広告では“操作に迷って”になっています。だったら操作を簡単にすればいいだろう、という指摘が出そうなものでしょう。
さらに、サラッと書いてある「後ろの人にらんでる」も、正直どうかなと。「ウチの券売機の操作に時間がかかると、並んでいる人からにらまれることもありますよ」と、飲食チェーン店が自ら言ってくるのは、印象があまりよろしくない。
他の2つのシチュエーション、「お昼時の渋滞にイライラ」「席が取れるかヒヤヒヤ」は、店内が混んでいる状況ならば他の飲食店でもありえそうなものです。しかし、「操作に迷って」「後ろの人にらんでる」に関しては、「店側がそんな表現を使うのはまずいのでは」と思ってしまう。
券売機で、後ろの人がにらんでいる。このイラストを見る限り、理由としては「券売機の操作に時間がかかり過ぎている」もしくは「後ろの人のガラが悪い(前の人をすぐにらんでくる)」のいずれかだと受け取る人が多いはずです。どちらの状況を想定して描かれたのだとしても、松屋そのものの印象(システムに対して、客層に対して)が悪くなるだけじゃないですか?
券売機も便利、モバイルオーダーも便利。そうあってほしい
松屋の券売機のUIが最悪である……とまでは言いません。券売機自体がリニューアルされた店舗も増えてきました。まだブラッシュアップするポイントはあるとしても、改善しようとする意志は見えます。
だからこそ、モバイルオーダーへの誘導施策に「券売機で人が並んでしまう」というシチュエーションのイラストしか使わなかったのは、あまり誠実には見えない。「ウチの券売機ではよく人が詰まってすいません。モバイルオーダーを利用すれば大丈夫ですけど」と卑下しているように思えるのです。
「券売機も使いやすいですし、モバイルオーダーも便利です」。飲食チェーン店には、そのようにスッキリと訴えてほしいですね。
モーダル小嶋
1986年生まれ。「アスキーグルメ」担当だが、それ以外も担当することがそれなりにある。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。よろしくお願いします。