名古屋大学と英オックスフォード大学などの共同研究チームは、新型コロナウイルス感染(COVID-19)によるクラスターの発生確率の計算に世界ではじめて成功した。この方法により、感染者ごとに異なるウイルス量の時間変化を分析し、抗原検査や抗ウイルス薬剤による治療の個別介入をすることで、クラスターの発生確率に及ぼす影響を評価することが可能になるとしている。
名古屋大学と英オックスフォード大学などの共同研究チームは、新型コロナウイルス感染(COVID-19)によるクラスターの発生確率の計算に世界ではじめて成功した。この方法により、感染者ごとに異なるウイルス量の時間変化を分析し、抗原検査や抗ウイルス薬剤による治療の個別介入をすることで、クラスターの発生確率に及ぼす影響を評価することが可能になるとしている。 研究チームは今回、「分岐過程」と呼ばれる数学理論を拡張することで、感染者ごとに異なるウイルス量の時間変化を考慮したうえで、クラスターの発生確率を計算する公式を導き出した。分岐過程とは、互いに他の個体とは独立に、消滅および増殖をしていく個体集団の個体数の時間的変化をモデル化した、確率過程の一種である。 同チームの導出した公式に基づいて、クラスター発生確率を計算したところ、感染者スクリーニングによって、クラスターの発生確率を大幅に軽減できることが明らかになった。さらに、抗原検査の導入は、学校や職場など、発症前の感染者が主な感染源である場合や、無症候感染者が増えた場合に、特に効果的であることが示唆された。 しかし一方で、感染者スクリーニングのみでは、クラスターの発生確率を0%にできないこともわかった。抗原検査による感染者スクリーニングは、クラスターの発生確率を大幅に低減する効果があるが、オミクロン株のような感染力の強い変異株によるクラスターを完全に防ぐことは難しいという。 クラスター発生のリスクを最小限に抑える必要がある状況下で、今回の研究成果は、数理モデルに基づく効果的な感染症対策の確立に向けた重要な一歩となることが期待される。研究論文は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に2023年10月3日付けで掲載された。(中條)