過去から未来まで、すべてを学べる場所に
── 旧渋沢邸と資料館は併設されているんですね。
鳥越 人財育成の観点で、教育にもあてたいと思っているんですよ。研修施設に来て、資料館で過去の歴史から手掛けた作品などを見られる。(過去の人々が)何を見てどう思ってきたのかを一箇所で学べる。そこまで知ることで「清水とはなんぞや」ということをそれぞれが考えて吸収できる場所にしていきたいと。自分の会社がどういう成り立ちをたどってきたのかというのは、実はよく知らない社員も多いですからね。
── まさに「温故」のための施設になると。
鳥越 「創新」(新しいものを作ること)ばかりを考えていると一番大事な根幹が見えなくなってしまうときがある。新しい建物を建築するときも同じ感覚なんですけれど、新しいトライをするとき、原理原則だったり原点をくずしてはいけない。それを忘れないようにするためにも、すぐ横に(旧渋沢邸が)あるというのは意味があることではないかと。振り返れば常にそこに原点がある、というのはいい環境なのではないかと思うんです。
── 一般的なイノベーション施設との違いはそこですか。
鳥越 もうひとつ言うと、清水建設ではイノベーションを変換して「チャレンジ精神」ととらえているんですが、社員自身のチャレンジ精神を向上させるための場所がNOVAREでもあるんです。たとえば会社のなかでは「組織の壁」も大きな課題なんですが、NOVAREはその壁をとっぱらうのもテーマのひとつ。NOVAREの5つの棟はそれぞれ所管する部署が違うんですが、2階ではひとつのフロアになっています。組織間の壁をとっぱらい、新しいものを一緒に作っていきましょうということをあらわしているわけです。
── すべてがひとつの場所にあることに意味がある。
鳥越 もとはそれぞれ別の場所にあったんですよね。研修所は木場で、技術研究所は越中島。拠点がバラバラになっていて、その場所に行くとそれで終わってしまう。包括的に全体を見られるというのが珍しい。イノベーション施設と一般的には言ってしまいますけれども、それだけではくくれない何かがこのなかにあるんじゃないかと。
── そうした思いの中心にあるのが旧渋沢邸なんですね。
鳥越 渋沢栄一は当時のイノベーターで、二代清水喜助も建築業界のなかのイノベーターだったわけです。すべてがイノベーションであり、それが時代によって違うだけ。そうしたイノベーターとしての原点として旧渋沢邸がある。(旧渋沢邸を含めて)「新しいことにチャレンジする」という思いから、この施設全体が成り立っているんですよ。
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