東京大学の研究チームは、「V型クリスパーキャス12(CRISPR-Cas12)」酵素のうち最小の大きさの「Cas12f(AsCas12f)」の立体構造を決定することに成功した。さらに、京都府立医科大学、自治医科大学と共同で、ゲノム編集活性を高めた改変型AsCas12fを作製した。
東京大学の研究チームは、「V型クリスパーキャス12(CRISPR-Cas12)」酵素のうち最小の大きさの「Cas12f(AsCas12f)」の立体構造を決定することに成功した。さらに、京都府立医科大学、自治医科大学と共同で、ゲノム編集活性を高めた改変型AsCas12fを作製した。 現在、広く利用されている遺伝子編集技術「クリスパーキャス9(CRISPR-Cas9)」は、Cas9の分子サイズが大きいため、細胞への導入効率が悪いという問題点がある。V型CRISPR-Cas酵素として近年発見されたCas12fは分子サイズが小さく、Cas9の3分の1以下のアミノ酸残基で機能することから、細胞への導入効率の高い新規のゲノム編集ツールとして期待されている。ただし、Cas9に比べるとゲノム編集活性が低いという課題があった。 研究チームは今回、液体窒素(-196℃)冷却下でタンパク質などの分子に対して電子線を照射して試料を観察する「クライオ電子顕微鏡」を用いて、AsCas12f-ガイドRNA-標的二本鎖DNA複合体の立体構造を決定することに成功。ガイドRNAが塩基配列からは予測できない複雑な立体構造をとっており、1分子のガイドRNA上で2分子のAsCas12fが二量体を形成していることを明らかにした。 さらに、「ディープ・ミューテーション・スキャニング(Deep mutational scanning:DMS)」と呼ばれるスクリーニング手法を、CRISPR-Cas酵素に世界で初めて適用。DMSによる変異体スクリーニングと構造情報に基づいてガイドRNAを改変し、Cas9に匹敵する高いゲノム編集活性を有する2種類のAsCas12f改変体(AsCas12f-YHAM、AsCas12f-HKRA)を開発した。 今回開発された2種類のAsCas12f改変体は、搭載可能な遺伝子の大きさに制限のあるウイルスベクターに余裕をもって搭載可能であるため、遺伝子治療のための革新的なゲノム編集ツールとなることが期待されるという。研究論文は、学術誌セル(Cell)に2023年9月29日付けで掲載された。(中條)