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本年度の採択者を10月13日まで募集中

若手AI研究者の新登竜門!「覚醒プロジェクト」の狙いを産総研に聞く

2023年09月29日 08時00分更新

文● 元田光一

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 ChatGPTなどの生成AI技術の登場によってAIの社会実装への期待が急速に高まる中、産業技術総合研究所(産総研)は2023年、若手AI研究者の育成を支援する覚醒プロジェクトを立ち上げた。35歳未満の若手研究者を対象に独創的な研究テーマを募集し、採択された研究者には研究資金や計算資源、プロジェクトマネージャー(PM)による助言などの支援を提供する。応募は10月13日まで、同プロジェクトのWebサイトで受付中だ。

 覚醒プロジェクトとは、どのようなプロジェクトで、何を目指しているのか。プロジェクトを総括する産総研企画本部 総括企画主幹の中島 礼氏に話を聞いた。

(角川アスキー総合研究所は覚醒プロジェクトの運営を産総研から受託し、実施機関として本事業を推進する)

今、なぜ覚醒プロジェクトなのか?

——今回、産総研が覚醒プロジェクトを立ち上げた背景と狙いについて教えてください。

中島 産総研は1882年に設立された農商務省地質調査所にルーツを持つ、長い歴史のある研究機関です。これまで資源開発や産業に関わるさまざまなテーマで研究開発を進めてきましたが、現在の大きな目的は日本や地球規模での社会課題の解決に向けた研究開発を実施することにあります。産総研では、エネルギー・環境問題、少子高齢化、防災、感染症対策の大きく4つのテーマを社会課題として捉えていますが、そうした社会課題の解決を担う研究開発を私たちは「ディープテック」と呼んでいます。

 ディープテックは事業化できれば社会的インパクトが大きく、また産総研を所管する経済産業省でも最近はスタートアップの育成に注力する方針があります。そこで、産総研が保有する研究技術をもとにディープテック研究人材を育てるプロジェクトを立ち上げ、「覚醒プロジェクト」と名付けました。今年度は特にAI/バイオインフォマティクス分野を対象として若手研究者による独創的な研究テーマを募集し、研究開発を支援していきます。

——今年度のテーマとして、なぜAI/バイオインフォマティクス分野が選ばれたのでしょうか。

中島 特にAI分野に関しては、最近ではChatGPTが話題になっているように、技術開発の動きが活発です。そこで、まずはディープテックの中でも情報系分野、特にAIを中心とする研究領域からスタートしたいと考えました。産総研にも人工知能研究センターがあり、そこでも多くの研究者が在籍して研究開発や人材育成に取り組んでいます。そういった現職の産総研の研究者と、いろいろなアイデアを持つ若い研究者との間でもコラボレーションができるのではないかと考えています。また、今回のプロジェクトでは産総研だけでなく、大学や企業に所属する優れた研究者の方にプロジェクトマネージャー(PM)として参画いただいています。そうした外部のPMとも一緒になって、若手研究者を伸ばしていきたいと考えています。

覚醒プロジェクトは公式サイトにて10月13日まで採択者を募集中だ(画像は産総研のサイトより)

「300万円支援」だけではない魅力的な支援内容

——覚醒プロジェクトの具体的な概要について教えていただけますか。

中島 本年度の募集は2023年10⽉13⽇まで、公式サイトで受け付けています。募集テーマは「空間の移動」「生産性」「健康・医療・介護」「安心・安全」「その他の社会課題解決に資するテーマ」の5つで、募集対象は高等専門学校専攻生、大学院生(学部生は対象外)、ポスドクなど、高専、大学、研究機関、企業に所属する35歳未満の個人もしくはグループです。

 プロジェクトに採択された研究者は、「プロジェクトマネージャー(PM)の伴走・アドバイス」「1プロジェクトあたり300万円の支援」「ABCI(AI橋渡しクラウド)などの産総研の共用施設の無償利用」といった支援を受けながら、2023年11月から2024年7月まで9カ月間、プロジェクトを進めていただきます。その期間中に、参加者たちによる中間報告会や成果報告会、そのほかに交流イベントを開催していくという流れです。

——それぞれの支援の具体的な内容を教えてください。

中島 まず、PMについてはまさに第一線で活躍されている超優秀な研究者の方々に参画いただくことができました。採択者との年齢が比較的近く、この事業の趣旨を理解し、共感してくださった方々です。PMとの出会いによって採択者が「覚醒」し、新たな化学反応が起きることを期待しています。

研究を支援するプロジェクトマネージャー(PM)

 2つ目の研究費については、プロジェクトの実施機関である角川アスキー総合研究所から約300万円を事業費として支給します。

 3つ目のABCIの無償利用は、今回のプロジェクトのユニークな特徴だと考えています。ABCIは産総研が保有するAI処理専用のスーパーコンピューターで、クラウド経由で日本中どこからでも利用できます。通常は利用料金がかかりますが、プロジェクトの採択者は期間中無償で利用でき(もちろん限度はあります!)、利用方法についてもサポートする予定です。学生の方など、研究者の中でも大規模な計算機資源を使ったことがない、あるいは使えない方もいらっしゃると思います。そのきっかけとしても、覚醒を利用してもらえるとうれしいですね。
 

産総研が保有するAI向けスーパーコンピューターであるABCIも利用できる(画像はABCIポータルサイトより)

国際学会で通用する人材を育成、将来のコミュニティ化も視野に

——採択者には9カ月のプロジェクトを通して、どのような成長を期待していますか。

中島 プロジェクト終了後には、国際学会・会議で通用するような力を身につけてほしいと考えています。将来的には日本代表として、著名な国際会議で発表できるような人材に育ってもらうことを期待しています。

 その一方で、研究成果を論文だけでなく社会実装につなげていくことも必要だと考えています。まずは目に見える目標として国際学会・会議を目指し、その先にはスタートアップなどを通じて新技術を社会実装していけるとよいと考えています。

——プロジェクト終了後、成果報告会が終わった後にも、何らかの支援はあるのでしょうか。

中島 研究費の支給などの本年度のプロジェクトとしてはいったん2024年7月で終了しますが、その後もカジュアルな関係を続けられるような、覚醒卒業生のネットワークを構築したいと考えています。

 また、本年度はAI/バイオインフォマティクス分野での募集ですが、来年度以降はディープテックの別テーマでの募集も検討しています。実施を重ねて卒業生やPMが増えていくことで、同じ研究分野はもちろんそうですが、それ以外の分野の研究者とも情報交換ができるようなコミュニティづくりを目指していきたいですね。

産総研企画本部 総括企画主幹の中島礼氏(本インタビューはオンラインで実施した)

日本全国から応募可能、「覚醒」を利用して研究の発展を

——今年度の覚醒プロジェクトに応募しようと考えている方へ、メッセージをお願いします。

中島 覚醒プロジェクトは、自分が今取り組んでいる研究について、もう一歩背中を押してほしいと思っている方に手を挙げていただきたいと考えています。PMからアドバイスを受けたり、ABCIを使ったりすることで、すでに取り組んでいる研究が大きく発展する可能性もあるでしょう。そういった点に魅力を感じて応募してもらえると非常にうれしいです。

 もう1つのポイントは、覚醒プロジェクトがオンラインでPMやABCIとつながることです。つまり日本全国から応募できますし、国内であればどこにいても研究ができます。ご自身の研究スタイルをそのまま継続してプロジェクトに参加できます。

 また、今回の覚醒プロジェクトでは大学院生や社会人だけでなく、高等専門学校の専攻生も応募対象です。ぜひ応募をお待ちしています。

覚醒プロジェクト概要

応募締切:2023 年 10 ⽉ 13⽇(金)23:59
募集内容:
以下の5つの分野に関する研究開発を提案してください。
・募集分野① 「空間の移動」
・募集分野② 「生産性」
・募集分野③ 「健康・医療・介護」
・募集分野④ 「安心・安全」
・募集分野⑤ 「その他の社会課題解決に資するテーマ」

募集対象:
高等専門学校専攻生、大学院生(学部生は対象外)、ポスドクなど、高専、大学、研究機関、企業等に所属する35歳未満の個人もしくはグループ(2023年4月1日時点)

応募⽅法:
公式サイトで応募を受け付けます。Webフォームに必要事項を記入のうえ、提案書や知的財産の確認書、所属組織の承諾書など、指定する必要書類をアップロードください。

研究開発支援:
採択された研究実施者には、以下の支援を行います。
・プロジェクトマネージャー(PM)の伴走・アドバイス
・1プロジェクトあたり300万円の事業費を支援
・ABCI(AI橋渡しクラウド)等の産業技術総合研究所の共用施設の無償利用

覚醒プロジェクト公式サイト

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