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ProVisionの「アスリート採用」

現役選手が入社する「アスリート社員」が生み出すメリットとは

2023年11月15日 11時00分更新

文● 中田ボンベ@dcp 編集● ASCII STARTUP

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 近年、アスリートのキャリア形成に関する取り組みを行なう企業が増えている。総合ネットサービス事業を展開するProVisionは2020年に「アスリート採用」をスタートさせ、現在は7名のアスリート社員を擁する。アスリート採用はアスリート側、会社側にどのようなメリットをもたらすのだろうか。

ProVisionのアスリート採用とは

 ProVisionが2020年から行なっている「アスリート採用」は、実業団チームに所属する選手のように、「競技だけ」するのではなく、会社の一員として働きながら、優先的に競技に取り組むことができる制度だ。

 同社の第1号アスリート社員は、ラクロス日本代表である髙野ひかり選手(広報業務を担当)。また、最近では「オンラインサロンで得た収益で経営する」という異色のサッカークラブ「Edo All United」の黒柳雅路選手が入社して話題になっている。

 また、アスリート採用した社員が現役を引退した後も、そのまま会社に残り、アスリート時代の経験や知見を基に働き続けるといった、引退後のサポートも行っている。例えば、ProVisionのアスリート社員だったビーチサッカーの原口翔太郎氏は、2023年3月に現役を引退したが、現在も社に残り、営業業務を担当している。

厳しい状況でも競技を続けたいアスリートを支えたい

 アスリート採用を始めたきっかけについて、同事業を統括する中新井肇氏は「アスリートの活動もしたいけど、同時に生活も支えないといけないという人たちのために、何か新しい取り組みができないかと始めた」と話す。

 スポーツの収入だけで生活できているアスリートは、実はほんの一握りしかいない。特にマイナースポーツではほとんどの選手が厳しい状況の中でプレーを続けている。

 髙野選手によると、「ラクロスも競技から得られるお金はなく、ラクロス選手はみんな働いてお金を稼いでいる状況。しかし、競技と仕事を両立させることは簡単ではないため、仕方なく仕事を辞める選手が多い。待遇面重視で仕事を探し、転職するケースをよく目にする。これはマイナースポーツの課題」だという。

 中新井氏は、こうしたアスリートの現状を知り、「社員としてアスリートを採用することで、個人単位ではあるが選手の役に立てるのではと考えた」とのこと。

アスリート側、企業側のメリット

 では、アスリート採用されることで、「アスリート側」にはどんなメリットがあるのだろうか。

 髙野選手は「やはり金銭面、時間面で支援が得られること」と話す。アルバイトなど時間の都合がつく働き方をしつつ競技に取り組む例はあるものの、そのケースでは安定して満足な収入を確保することは難しい。しかし、「社員」として業務に取り組むことで、安定した収入が得られているという。

 また、マイナースポーツでは遠征費も自費であることがほとんどだが、ProVisionでは、練習場に通う交通費や、場合によっては遠征で必要になる費用、競技活動に必要な費用も会社が負担している。これもアスリート側にとっては非常に助かる制度だ。他にも、「競技優先」という形で採用しているため、通常の企業では難しい時間調整について、相談しやすくなっているのも、アスリート側のメリットだといえる。

 一方、アスリートを採用する会社側のメリットについては、まず「対外的にブランディングの一環になること」が挙げられるという。アスリート採用で、「アスリートを支える会社」であることと、多くのスポーツ関係者や選手に会社の名前を知ってもらうことができる。また、アスリートなどいろんな人が活躍できる「多様性のある会社」だとアピールできるのも大きなメリットだという。

 さらに「社内のエンゲージメント(愛着)を高める効果も期待できる」とのこと。例えば、みんなでアスリート社員の応援に行ったり、アスリート社員がいることで新しい取り組みが生まれたり、社内向けのブランディングにつながる。

 実際に、アスリート採用を知った選手から問い合わせを受けるケースが増えたり、他企業と共同でイベントを実施するなど、他社と連携も増えているという。

アスリート採用が生み出す価値

 2020年にスタートしたProVisionのアスリート採用。中新井氏に現在の課題を聞いたところ、「アスリート社員といっても、競技や環境によって働き方へのアプローチは異なるため、待遇や働き方などの『平等性の担保』が課題になってくる。アスリート採用がスタートして3年がたち、ようやく規定や評価制度が形になってきたが、競技、仕事の両面でよい結果を出してもらえるよう、働く環境をより良い形にしないといけない」と話す。そのためにも「柔軟性をもって整備していきたいと考えている」という。

 また、髙野選手は「10年前と比べると、アスリートをサポートする企業は増えた。アスリート採用に取り組む企業が少しずつ増えていることで、選手側が比較検討できるようになったことは大きい。しかし、現状で十分かというとそうではない」と話すように、まだまだアスリートをサポートする仕組みは足りていない状況だ。日本のスポーツ界を盛り上げるためには、ProVisionと同じようにアスリート採用を行なう企業が増え、それぞれが協力し、連携することが必要だといえる。

 スポーツ庁がマイナースポーツのアスリートを支援するためのさまざまな施策を打ち出しており、今後はアスリート採用を行なう企業も増えていくとされている。ProVisionのアスリート採用は、そのロールモデルとしても大きな期待が寄せられている。ProVisionが今後どのような新しい価値、サービスを生み出すのか注目したい。

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