「声」は保護の対象とされていない
企業でも、実在の人物を前面に出したAI合成音声を使ったビジネスを始めているところはあります。たとえば4月から、ソニー・ミュージックエンタテインメントはAI音声による朗読付き電子書籍「YOMIBITO Plus(ヨミビト・プラス)」を試験的に展開しています。「Dr.スランプ」の則巻センベエ役で有名だった故・内海賢二さんが『吾輩は猫である』の冒頭部分を読み上げており、懐かしい声の新しく作られた音声を聞くことができます。もちろん、一方で、有名声優が亡くなっても、なお有力な声として市場に残り続けるとも言えるために、複雑な課題も生み出すことになります。
「声」に著作権があるかどうかは、実はやっかいな問題です。
曲については、明確に作詞家や作曲家は著作権で保護されています。演奏についても著作隣接権で保護されています。ところが声については、日本の著作権法では、そもそも保護の対象とはされていません。
RVCデータを作成するためには、元のオリジナルの声データが必要ですが、そのデータをAIに学習させるという情報解析に使う場合には、著作権法三十条の四の例外規定に当たり、問題がない可能性が高いのが実情です。ただし、特定の個人名を出している場合、不正競争防止法違反といった別の法律に該当する可能性は十分あります。
ただ、「収入がAIに減らされる ハリウッドで悲鳴」でも紹介しましたが、協同組合日本俳優連合は、生成系AI技術に対する提言のなかで、「『声の肖像権』の設立を目指す。これまでは声と表現が切り離されて使われることが想定されていなかったため、外見だけではない『声の肖像権』の新設を急ぐ」ということを述べています(日俳連「生成系AI技術の活用に関する提言」)。逆に言うならば、現状は「声」を巡る権利は、確立された立場がなく弱い状況にあるとも言えます。
今後の判例の積み重ねや、国からのガイドラインの発表を通じて明らかになっていくのかもしれませんが、「声」のオリジナルの持ち主が、今後どのようなアクションをしていくのかが短期的には大きな影響をもたらしそうな気がします。まだ、「声」の生成AIがどのように社会に受け入れられるのかは、見通せない部分があります。

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