自作PCの消費電力を探求する旅
その強力な相棒をゲットした
CPUやGPUの性能評価において、消費電力の大小は割と重要な情報である。特に電気料金が値上がりするという昨今においては、なるべく消費電力が少なく性能も良い、いわゆる“ワットパフォーマンスが良い”パーツが評価される。
PCの消費電力を計測するにはいくつかの方法があるが、広く知られているのが“ワットチェッカー”的な電力測定器を使う方法だ。ACコンセントと電源ユニットの間に挟むだけで良い手軽さはあるものの、システム全体の消費電力しか計測できない。また、Corsair製電源ユニット「HXi 2022」シリーズのように電力測定器が電源ユニットに吸収されたようなものもある。システム全体の消費電力をWindows上でチェックすることができる点では手軽だが、電源ユニットが限定されてしまうのが難点だ。

ACコンセントに装着するタイプの電力測定器は各社から様々な製品が出ている。液晶で消費電力が目視できる製品が多いが、筆者はラトックシステム「RS-WFWATTCH1」のようにWi-Fiでデータを飛ばすタイプの製品を使用していた

RS-WFWATTCH1の計測データをWindowsで見るためのツール(Android版やiOS版もあり)。情報の更新頻度が毎秒1回と遅いため、一瞬で消費電力が上下するような場合に計測結果が移動平均に埋もれやすくなるのが難点だ

Corsair「HX1500i 2022」は同社の統合ソフト「iCUE」上からのモニタリングに対応した電源ユニットだ。この電源ユニットと12VHPWRケーブルを使用したレビュー記事はここ(https://ascii.jp/elem/000/004/117/4117937/)を参照
こうしたソリューションを利用すれば、PCが消費する電力の傾向をおおよそ掴むことができる。普通の人が使うにはこれで十分有用だが、筆者のように“ベンチマークの沼”の底にいる者には足りない。あるPCのGPUだけ変えた場合、そのGPUが実際どの程度の電力を消費しているのか具体的に知ることができないといったことがある。
例えば「GeForce RTX 2060」から「GeForce RTX 4060」に変えた時の違いを検証するとしよう。こんなデータが出たとする。

RTX 4060レビュー記事(https://ascii.jp/elem/000/004/143/4143045/)からの引用。RTX 4060を使用した時のピーク消費電力は、RTX 2060のそれよりも35W程度低い
このグラフでは、RTX 4060を使ったシステムの消費電力は約225Wとなっているが、この時CPUもグラフィック処理のために電力を使っている。ここからGPUの実消費電力だけ切り出すことはできない。
CPUやGPUの消費電力を見たいなら「HWiNFO」のようなモニタリングツールで事足りる。CPUならば「CPU Package Power」、GeForce系GPUなら「GPU Power」、Radeon系GPUでは「Total Board Power」をチェックすれば良い。いずれもCPUやGPUの中にあるセンサーからの情報を元にした推測値ではあるが、十分有用な情報だ。
だが、WindowsのAPIから取得されるデータははあくまで推測値であって、実測値ではない。どこにセンサーがあり、どう読み取っているか知る由もないからだ。
CPUやGPUの消費電力の実態に迫るには外部ハードが必要だ。電源ユニットから出るケーブルすべてにテスターのプローブを当てるという力業もあるが、ビデオカードの8ピンケーブルやEPS12Vケーブルであれば、間に挟む専用のデバイスもある。ElmorLab「PMD」は主にCPU、NVIDIA「PCAT」はGPU専用の電力測定デバイスとなる。PCATについては以前の紹介記事(https://ascii.jp/elem/000/004/026/4026360/)をご一読いただきたい。

PMD(Power Measurement Device)は2系統のEPS12Vを流れる電力を直接計測するためのデバイスだ。GPU向けの8ピンケーブルにも対応しているが、PCI Express x16スロット経由の電力には対応していないため、ビデオカードの実消費電力は正確に把握できない

PCAT(Power Capture Analysis Tool)はNVIDIAが開発したビデオカード専用の消費電力測定デバイスだ。x16スロットの消費電力も計測できるライザーカードとペアになっているので正確に計測できる一方、一般には販売されない。最新版は12VHPWRに対応した「PCAT v2」となる
このようにPCの消費電力を測定する方法はどれも一長一短があった。では正確に総合的な電力の消費量を計るにはどうすればいいのか?これに対する回答となるのが、キプロスにあるCybenetics社の開発した「Powenetics v2」だ。CPU用のEPS12V、GPU用の8ピンや12VHPWR、x16スロットに加え、ATXメインパワーから供給される電力計測にも対応。CPU/GPU/マザーボードの電力計測すべてをカバーしている至高の電力測定デバイスである。SATAやペリフェラル4ピン系は非対応となるので完全ではないが、PCの実消費電力はほぼこれ1つで知ることができる。
価格は送料込みで約1000ユーロとお高め(カード決済時の為替レートで約15万8400円)。先代Poweneticsは流通量も販売ルートも限定されていたが、今回のv2はギリシャのPCパーツショップ「HWBusters(https://www.wsn.gr)」が販売している。値段も張るうえに保証はない(動作確認済みの個体のみ出荷、かつ着時破損のみ交換対応)というかなり極まったデバイスだが、筆者は今後消費電力のさらに大きなCPUやGPUが出ることを考え購入した。

Powenetics v2の販売ページ(https://www.wsn.gr/shop/powenetics-powenetics-v2-power-measurements-device/)。電力測定のためだけに約16万円の出費は勇気がいるが、正確かつ手軽に検証できるのだからこれでも十分安い
前フリがやたら長くなったが、今後のレビュー記事でPowenetics v2を使用するにあたり、読者の皆さんが“Powenetics v2って何だ?”という疑問を抱かなくてすむよう理解していただくのが本稿の目的だ。今回はPowenetics v2の紹介と、CPUとGPUの消費電力の差異にフォーカスした動作検証をしていきたい。

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