ソラコムのIoTで飲食店の現場DXやってみた!
ラーメンWalkerキッチン×IoTの激闘を披露 知見・しくじりまで生々しく
来店状況、属性分析、行動把握、HACCP対応などの施策と結果
続いて吉川さんは数多くのラーメン屋を迎え入れてきたラーメンWalkerキッチンが考える現場DXについて4つのポイントで説明した。
1つ目は時間帯別の来店状況の把握。「長期であれば、材料を仕込んでいろいろできるのだが、出店期間が6日しかないと、お店の方もギリギリの在庫で管理する必要がある」とのことで、まずは廃棄食材をなくすこと。また、スタッフのシフトや情報発信のタイミングを把握するためにも、何時にどんなお客さまが来社するのかを知りたいという。
2つ目はお客さまの属性把握。「たとえば家系だったら男性が多いとか、子ども連れが多いなら、濃い味付けにしない方がいいかなとか、お客さまに合わせたメニュー設計や仕込みをやりたい」と吉川さんは説明。もちろん、そういったメニューを作るための店舗資材の最適化も重要だ。
3つ目はスタッフの行動把握。ラーメンWalkerキッチンでは、出店者ではなく、角川アスキー総合研究所のスタッフが接客を行なっているが、最適な提供を実現するためにスタッフの行動を分析したいというニーズがある。また、食材や調理器具、店舗資材をどこに置いたらよいかも最適化したいという。
4つ目はHACCP対応の効率化。HACCP(ハサップ)は厚生労働省が定めた衛生管理の手法で、これを実現するには冷蔵庫や冷凍庫の温度を定期的に記録しなければならない。今まで人手で行なった記録の作業を、自動化したいというのが、このHACCP対応の内容だ。
こうした要望をソラコムの2人に説明したのが、SORACOM Discovery 2023の約1ヶ月前。これに対してソラコムは優先度×実現性のマトリクスで実証実験の領域を選定。ラーメンWalkerキッチンに機材を設置して、検証を行なった。ソラコムの高見さんと井出さんは、実証実験の内容に加え、結果についても説明した。
属性分析はソラカメとボタンデバイスの2つを試した。「飲食店で投資可能な月額1万円」を目指し、ソラカメは券売機の前に設置。顧客の画像を取得し、AIで顧客属性を分析。結論としては、券売機上のソラカメでの検出率は17.5%で期待した水準には至らなかった。また、ボタンデバイスは店員がボタンを押すことで人数カウントと属性分析を行なう方法だが、こちらは正確で運用も実用的だったという。
続いて時間帯別の来店状況は、店内にソラカメを設置し、Amazon RekognitionやRekognition Videoを用いて、人数データを把握することにした。こちらも混雑時間帯と閑散時間帯の傾向は把握できた。ただ、小さく映ったり、画角からはみ出るため、正確な人数カウントには適さなかったという。
HACCP対応に関しては冷蔵庫内に温湿度センサーを設置。簡単に冷蔵庫・冷凍庫の温度をモニタリングできるようになったという。「冷蔵庫内にBLEセンサーを設置し、当初は届かないかもと思っていたが、きちんと通ってよかったなと」と井出さんは語る。
ソラカメの属性分析を阻む、現場ならではのいくつかの理由
ここまででおおむねセッションは半分の20分を経過し、残りは振り返りのフリートークになる。
まず検出率17.5%という結果に終わったソラコムの属性分析について。高見さんは、「当初はソラカメのモーション検知機能を使い、人が入った瞬間のイベントを切り出して、解析すれば一発クリアだろうと考えていた」と語る。
しかし、この予想は甘かった。というのも、エントランスがガラス張りでスケスケだったので、食券を買う人だけではなく、後ろの通行人まで検知してしまったからだ。このまま全数解析処理にかけてしまうと、クラウド側のコストが1800~2300ドル(月25~30万円)という膨大なコストがかかってしまうことがわかった。「飲食店のDXに月30万円くださいは非現実的なので、実装を見直した」と高見さん。
そこでこの属性分析に前処理を入れることにした。イベント検知時に顔を検出して、切り出して、さらに重複排除をかけた上で、Amazon Rekognitionに送り、静止画を解析する。これにより、2300ドルから85ドルまで下げられた。これなら月1万円弱なので、現実的な数字だ。
意気揚々と試してみたところ、またもや壁が立ちはだかった。顔がうまく検出できなかった。帽子やマスクで見えないのもあるが、なにしろ顔が見切れてしまうのだ。「前処理をちゃんとやった結果、かなり対象外になるという厳しい結果になった」と高見さんは振り返る。
この苦い結果の背景には、実はカメラの設置位置がある。当初、ソラコムがカメラの置き場所として提案したのは、顧客の胸くらいまで映る食券機の正面。しかし、30分後には食券機の背後に後退した。これはやはり食券機の正面にカメラを設置したときの、お客さまの心象に配慮したからにほかならない。クレジットカード決済も可能なので、番号が撮影されるのではという抵抗感も予想できた。
「そもそもAIでお客さまを検知するために飲食店を経営しているわけではない。やはりお客さまありきなので、心象に配慮すると、食券機の後ろになってしまった。これは現場に行かなければわからなかったこと」と高見さんは指摘する。一方で、スモールかつクイックに導入したからこそ、短期間でここまでの気づきを得たと言える。
吉川さんは、「当初の位置だと、カメラに撮られに来たのではないかくらい正面だった。コンビニのセルフレジだとカメラが正面にあるのは一般的ですが、ラーメン屋でこの位置はちょっと難しかった」と語る。さらに高見さんは、「背が低い女性でテストしなかったのも落ち度だった」と反省する。
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