丸の内LOVEWalker総編集長・玉置泰紀の「丸の内びとに会ってみた」 第5回
アニメ映画「BLUE GIANT」大ヒットでジャズ人気再燃! ミュージシャンも憧れる「コットンクラブ」マネージャーの坂井さんに会ってみた
丸の内LOVEWalker総編集長の玉置泰紀が、丸の内エリアのキーパーソンに丸の内という地への思い、今そこで実現しようとしていること、それらを通じて得た貴重なエピソードなどを聞いていく本連載。第5回は、今年大ヒットしたアニメ映画「BLUE GIANT」でも話題になった、ライブレストラン「コットンクラブ」マネージャーの坂井陽介氏。2005年の東京ビル TOKIA開業時から多彩な音楽シーンを提供し、共に歩みながら体感してきた、この地の発展とエンターテインメントへの思い。そして、これからの目標も語ってもらった。
丸の内のミュージシャンの聖地は色気にあふれた大人の遊び場
――アニメ映画「BLUE GIANT」で、コットンクラブは「Cottons/コットンズ」として劇中に登場。「So Blue/ソーブルー」のモデル店・ブルーノート東京と共に、物語の重要な舞台になっていましたが、その反響は?
坂井「誰が観てもコットンクラブと分かるような描写なので、特に若いお客様から『観ましたよ!』『映画で来ました』といった声が、公開されてから本当に多く寄せられました。ジャズに対する熱量が伝わる映画でしたし、映画をきっかけにジャズやコットンクラブへ興味を持っていただけて、嬉しく思っています」
――聖地巡礼ですね
坂井「エントランスや、当店の内装の象徴であるシャンデリアも撮られる方が増えましたね。上映期間中は映画のポスターも掲示していました」
――内装はニューヨークにあるコットンクラブのイメージでしょうか?
坂井「もともとは1920年代、禁酒法時代のニューヨークにあった、代表的なナイトクラブ『コットンクラブ』の再現を目指して誕生したのですが、内装は現地の店とは違っています。実は最近、初めてニューヨークのコットンクラブに行く機会があり、折悪しく中には入れなかったのですが、この場所が原点なのだと感慨深かったです」
――よく比較されると思いますが、系列店のブルーノート東京との違いとは?
坂井「まず内装、インテリアですね。コットンクラブは赤を基調とした、きらびやかなインテリアで大人の色気、色っぽさというものを大事にしています。大人が集う店、大人の遊び場が好きな方々が、ちょっと着飾って来るような場所ですね。1920〜30年代のニューヨーク・ファッションのイメージで、蝶ネクタイや帽子をお召しになる方もおられますので、ぜひお洒落も楽しんでお越しいただきたいです」
――レンガ造りの東京駅から来ると、タイムスリップした感もあります
坂井「まさにエントランスからレッドカーペットを歩いてくると、異空間に入っていく感覚になりますね。(インテリアデザイナーの)森田恭通さんが手掛けた劇場風の造りになっていて、映画館にいるような空間です。どの席からもステージがよく見えるので、ミュージシャンが近くに感じられますし、客席の間もゆったりとして温かみもあります。さまざまなお客様のニーズに適ったシートが用意されています」
――アコースティックも聴きやすいし、音響がいい
坂井「そうなんです。アコースティックを聴くなら、ぜひコットンクラブへ! と言えるぐらい、アコースティック編成での音響の良さも強みです」
――海外のミュージシャンでもコットンクラブを好きな方が多いですね
坂井「音響を気に入って下さるのも嬉しいことです。自分たちのしていることを、そういった形で評価していただけるなんて」
――ここはライブハウスですが、料理も美味しい
坂井「よくお褒めいただきます。ライブハウスには(料理が物足りない)イメージがあるかもしれないですが、我々はブルーノート・ジャパンのグループとして、ライブはもちろんのこと、お料理やお飲み物も同じように高いクオリティを掲げています。カクテルもバーテンダーが妥協しないものを提供しますし、従業員一同、同じ思いでやっています」
――現在のメニューの特長は?
坂井「(開店以来)ずっとフレンチをベースにしてきましたが一昨年、ニューヨークスタイルのアメリカンダイナーをテーマにシフトチェンジしました。ステーキやハンバーガー、クラシックなシーザーサラダなど親しみやすいメニューになって、かなり手応えを感じています。クラブの雰囲気にマッチしたお料理、お皿など、そういったところまでしっかり融合できるように演出も工夫しました。
ブルーノート東京では洗練されたフレンチ、コットンクラブではニューヨークをイメージしたアメリカン、と系列のライブレストランでも、異なるスタイルの料理をお楽しみいただけるのも魅力かな、と思います。お食事目的でご利用いただくのも、とても嬉しいですね」
マルノウチ=ハイブランドが定着東京屈指の観光名所にも
――コットンクラブは、2005年のTOKIA開業時にオープンして、まさに丸の内の変遷と共に歩んできました。この丸の内という土地柄については、どのように感じられていますか
坂井「ここは“マルノウチ”というブランドだと捉えています。私はTOKIA開業時から、コットンクラブに携わっているのですが、当時はまだ丸ビルぐらいしかなくて、東京駅の駅舎も改装前。今みたいに、若い方が大勢歩いている感じではなかったし、年配のサラリーマンの方々が集まる街というイメージでしたね。
その頃、若い方向けには年末年始に『東京ミレナリオ』というイルミネーションイベントが開催された程度でしたけれど、その後どんどん開発が進んで丸の内仲通りも洗練され、新丸ビルやKITTEなど注目度の高い商業ビルも増えて、気付いたら立派な観光地になっていました。そのあたりから“マルノウチ”という言葉が、ハイブランドを意味するようになったと思います」
――丸の内の変化から受けた影響は?
坂井「丸の内の発展は、本当にありがたいことです。女性や感度の高い方たちも普通に遊びに来るようになって、コットンクラブができた頃より、ずっと賑やかになりました。今ではお客様も、多様なところからいらして下さっています。
コットンクラブはどうしても敷居が高く、価格帯もかなり高いというイメージを持たれていましたけども、そこはいろいろな公演を行うごとに変わっていきました」
――今の若い人には、敷居なんてないも同然ですよね。「SPY×FAMILY」や「キングダム」を上演しているから帝国劇場に行くし、「BLUE GIANT」を観たからコットンクラブに行くとか
坂井「そういうお客様も来ていただけるようになって、そんなに肩肘張らなくても行ける場所だということが、認知されてきたのかなと思います」
ライブハウスは新たな音楽の発信地
――街にライブハウスがあること、その存在こそが街にとって大切だという論文もありましたが、丸の内にライブハウスがある意義については?
坂井「丸の内は、今では多様な文化を発信する拠点になりました。ライブハウスは、世代によって生まれる新しい音楽を発信する場所。CDでは味わえない感動、フィーリングみたいなものを感じ取ってインプットしていただける場所として、街の魅力の一部を担っている思いで、開業以来続けてきました」
――渋谷、池袋へと移ってしまったけど、10年ほど東京国際フォーラムを中心に開催されていた「東京JAZZ」のような地域イベントも大事だったはず
坂井「重要ですよね。渋谷へ移ってしまった時は残念でした。国際フォーラムで行われていた時は、会場が近かったので同時にライブイベントを開催したり、一緒にジャズを盛り上げていくことができたので、またそのような地域イベントと連動して、丸の内を盛り上げていけたらいいなと思います」
――これからは集客イベントも復活していくでしょう
坂井「そういった復興運動や、ジャズを応援するイベントに関しては、積極的に携わっていきたいと思います」
――コロナ禍の当時は、ライブハウスが槍玉に挙げられて大変だったのでは
坂井「それはもう大変でした。海外アーティストの来日公演も次々とキャンセルに。換気やソーシャルディスタンス対策を徹底して、なんとかライブを開催していましたが、コール&レスポンスもなく、お客様も声が出せなかったですね。アーティストと協議して、ライブは実施して無観客ライブを配信したりもしました。その時は、会社はもちろん自分たちの生活もどうなるのか、と不安でいっぱいでした」
――そういう逆境でも、店の灯を消さずにきたのには頭が下がります
坂井「お客様の声が大きかったですね。ライブハウスが軒並み閉めていく中で、『ブルーノートとコットンクラブだけはなくさないで』とおっしゃっていただいたり、系列店共通のギフトカードをたくさん購入して応援して下さった方も。いつ使えるのか分からないのに、です。
そういう形で支援して下さった方々、今まで培ってきたお客様の声と支援は忘れられないですね」
エンターテインメントの殿堂として憧れの場所であり続けるために
――「BLUE GIANT」の影響もあり、ジャズ人気が上向いたところでコロナも5類に格下げ。音楽シーンも賑わいを取り戻してきましたが、これからの目標は?
坂井「コロナ禍は悪影響が大きかった一方で、日本のエンタメ関係者と出会う機会がすごく増えたんです。ジャズに限らず多彩なジャンルの音楽をやってきた中で、何かに縛られず、とにかくエンターテインメントと呼ばれるものを、多方面に発信していきたい思いも湧いてきました。音楽だけじゃなくて、舞台や演劇、コントなど娯楽性の高いものもやっていこうと。
先ほど、ブルーノート東京とコットンクラブの違いについてお話ししましたが、公演の内容も異なるんですね。ブルーノート東京では今まで通り、世界のスターミュージシャンの公演をしっかり行ないつつ、コットンクラブとしては、毛色の違ったジャンルだったり、まだ知名度は高くはないけれども、今後間違いなく活躍するであろう新人アーティストの公演も積極的に行っています。僕らもチャレンジしていきたいですし、ミュージシャンにとっても挑戦できる場になればいいなと思っています」
――コットンクラブは、いつでもミュージシャンにとって登竜門であり、憧れの場所
坂井「本当に『憧れの場所です』というMCをして下さるミュージシャンも、結構いらっしゃるんですよ。
そうなると僕らも、憧れの場所であり続けなきゃいけないと改めて感じます。日本各地でミュージシャンを目指している方々にとって、我々ブルーノート・ジャパン・グループが提供しているものは、そういう位置付けなんだということをもっと自覚した上で、ますます店を磨いていかなければと思っています」
2005年の開業から丸の内エリアの変遷に並走し、コロナ禍にも屈せず素晴らしいミュージック・シーンを届け続けてきたコットンクラブ。今年は大ヒット映画「BLUE GIANT」の追い風もあり、若者の間でもジャズ熱が盛り上がる中、クラブの目指すところは、ジャンルに縛られないエンターテイメントの殿堂。クオリティの高い文化発信地としての丸の内で、これからもアグレッシブに、新たなエンターテインメントのスタイルを追求していくだろう。
坂井陽介(さかい・ようすけ)●1980年生まれ、香川県出身。2005年、(株)コットンクラブ・ジャパンに入社。現在は、コットンクラブのマネージャー兼(株)ブルーノート・ジャパン取締役。「これまで18年いる中で一番鳥肌が立ったのは、2012年と2013年のウィル・リー・ファミリーフィーチャリング・スティーヴ・ガッド&チャック・ローブ公演」とのこと。趣味は「都会の喧騒や仕事から離れてリフレッシュできる」というキャンプと登山。
聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。株式会社角川アスキー総合研究所・戦略推進室。エリアLOVEWalker総編集長。国際大学GLOCOM客員研究員。一般社団法人メタ観光推進機構理事。京都市埋蔵文化財研究所理事。大阪府日本万国博覧会記念公園運営審議会会長代行。産経新聞〜福武書店〜角川4誌編集長。
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