人々の行動、「人流のデジタルツイン」で分析
── こうした実証を進めつつ、データ分析をもとに自治体の様々な課題解決に役立てる「交通・防災・観光データ分析プラットフォーム」を2社とともに開発していると。グルーヴノーツさんとジオトラさんについて教えていただいてもいいですか?
グルーヴノーツ コンサルタント 田中孝氏(以下「田中」) グルーヴノーツは、量子アニーリングの商用サービス化を世界に先駆けて実現したテクノロジースタートアップです。また量子に限らず、AI、数理モデル、シミュレーション、クラウドコンピューティングなど、様々な先端テクノロジーを手軽に利用できるクラウドサービスとして「MAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)」を開発・提供しています。
田中 本社は豪雨に見舞われた福岡にあります。昨日は自宅周辺で避難指示が出た従業員もいました(※取材時、福岡に大雨被害が出ていた)。おかげさまで特に従業員には何事もありませんでしたが、社会課題として防災は重要な課題の一つであると考えています。様々なデータ、テクノロジーを活用して課題解決に取り組もうと、清水建設さんと連携させていただきました。まず豊洲エリアの活性化を目的とするデータ分析から始め、いまは具体的な防災と交通の課題解決に向けたアルゴリズムの開発、データ分析に取り組んでいます。
── 福岡の量子コンピューター企業であると。ジオトラさんは?
ジオトラ代表取締役社長 陣内寛大CEO(以下「陣内」) 三井物産とKDDIの合弁会社として昨年5月にできた会社です。人流データを始めとした位置情報データを提供していまして、人流データの大元は、KDDIがauユーザーさまから許諾を得ていただいているGPS位置情報を受領しています。
── 他にも人流データを扱っている企業はありますが。
陣内 誤解をおそれずに言うと、生データに近いデータを提供しています。人流データはプライバシー性が高いので、通常は何重にも集計を重ね、ある種モザイクをかけるような処理をしてから出します。しかし、そうなると分析する観点からすると扱いにくいデータになってしまいます。マーケティングなどには使えるものの、まちづくりには細かいデータが必要になってくるということで、清水建設さんには弊社のデータを使っていただいています。
── 具体的にはどういうデータを出しているんですか?
陣内 IDごとに属性がついていて、何時何分にどういう目的でどういう手段で移動して、どこからどういう経路を通ったかが、対象人口分、都道府県ごとにずらっと並んでいます。
── まったく圧縮されていないじゃないですか。
陣内 これでどうやってプライバシーを守っているのかというところですが、実測データ(au GPSビッグデータ)から人の移動パターンだけを抽出して、そのパターンから人工的にデータを作りなおしているんです。生成モデルのような形で、実測の世界からパターンだけを抽出して、同じような特徴量をもった人の動きを作り出す。統計的な特徴量が元データとなるべく一致するようなデータを作る。人流のデジタルツインのようなものですね。すると最終的に出てくるものはバーチャルなデータなので、個人情報にはあたらないと。
── へえーっ!面白いですね。
陣内 もともとは医療データで使われていた手法なんです。病歴分析などはプライバシー性が高いので、合成データとして作りなおして傾向分析をしています。こうしたアプローチは日本だとかなり珍しいですが、アメリカなどでは出はじめているんですよ。
── なるほどねえ。ここが今回、一番面白いところかもしれないですね。
大村 ジオトラさんに決めた理由は、人の移動と目的と手段に着目しているところです。いわゆるパーソントリップ調査でも移動と目的と手段は調べていますが、ジオトラさんはそこをAIでやっています。最大15分以上施設にいた場合には、会社なら通勤、商業施設なら買い物という形で分析してくれる。あとは移動速度で、車なのか鉄道なのか徒歩なのかということがわかるというのが面白いですね。
── 偽の人間に名前があるといいんですけどね。パーソンくんとか、ペルソナくんみたいな。それがリアルな人物を持ってきたわけじゃないのにデータとして本物と類似性が高いと。いや面白いですね。
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