独自性の高い開発、こだわりの詰まったプロダクツ
新製品のWANDLAは、国内では2022年発売の「ERCO」の上位機種であり、ESS Technologyの「ES9038 PRO」を採用した高性能DAC製品だ。回路設計で特にキーとなるのは、I/V変換回路だ。ES9038 PROの8ch出力にも対応して設計しており、音質向上のキーとなるという。設計・シミュレーション・聴覚テストというサイクルを繰り返して音質を高めたという。モジュールを外注しない、自社開発にこだわっているという。
WANDLAの大きな技術的ポイントは、「SERCE」という自社開発のモジュールを搭載していることだ。これはARMアーキテクチャをベースとしたボードだ。USBレシーバーチップやMQAデコーダーなど5つのチップに分かれていた機能を1チップに統合し、信号伝達ロスを低減して、音質を高めるという目的がある。
もう一つ画期的なことは、このSERCEに音楽再生ソフトウェア「HQ Player」で知られるSignalystの高音質デジタルフィルターを搭載したということだ。理由は演算性能に制限のあるDAC内蔵のデジタルフィルターよりも、高性能なデジタルフィルタにできるからのようだ。
さらにHamerla氏の話を聞いた。SERCEモジュールにHQ Playerと同等のデジタルフィルターを組み込むことで、HDMI ARC入力時の高音質化など、PCでは実現しにくい部分の音質向上という恩恵を得られるのもメリットだそうだ。
WANDLAのデモはなかったが、タッチパネルの操作感が良好で反応も速いのがわかった。リビングに置いて誰が使用してもおそらく戸惑うことはないだろう。
Ferrum Audioはかなり先進的な考えをするメーカーだと思った。しかしながら、ネットワーク対応の製品はまだなく、保守的な面を見せているのが興味深い。これは自社開発にこだわっているためだ。ネットワーク機能を搭載すればいいということであれば、外販の部品を利用したり、外注すればいいという考え方もできる。過去に紹介したStream Unlimitedのようにオーディオメーカーの裏方として役割を果たすメーカーもあり、頼めば手間は最小限で済む。とはいえ、それでは音質を高めるサイクルを自社内で繰り返し、少しずつ改善していくことが難しくなるのだろう。
Ferrum Audioはしゃれたデザインの製品というだけではなく、新基軸の積極的な導入と頑固なまでの音へのこだわりも感じられる多面的なメーカーであると言えるだろう。それは欧州という土地のもたらす多様性ゆえかもしれない。
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