東京大学の研究チームは、人工光合成で利用する光増感剤の役目をプラスとマイナスの分子にそれぞれ分担させる手法を新たに開発した。
東京大学の研究チームは、人工光合成で利用する光増感剤の役目をプラスとマイナスの分子にそれぞれ分担させる手法を新たに開発した。 研究チームは、物性制御しやすいイリジウム(Ir)錯体を光増感剤として利用し、プラスとマイナスの2種類のIr錯体をクーロン力で近づけてお互いの機能を補わせる手法を着想。正電荷を持つIr錯体(カチオン性Ir錯体)と負電荷を持つIr錯体(アニオン性Ir錯体)を選び出し、メタノール中で混ぜ合わせるだけでイオン対を容易に合成できたとしている。カチオン性Ir錯体は、可視光吸収能力には乏しいが、CO2還元反応の光増感剤として比較的安定に働く。アニオン性Ir錯体は、光増感剤として単独で利用すると耐久性が乏しい問題があるが、可視光吸収能力は格段に優れている。 合成したイオン対を核磁気共鳴分光法で測定したところ、2種類のIr錯体がクロロホルム中でお互いに近づいていることと、一定の向きを向いていることが明らかになった。さらに2種類の錯体が光を吸収すると発光する性質から、光を吸収して高エネルギー状態になったアニオン性Ir錯体からカチオン性Ir錯体に効率よくエネルギーが移動していることも明らかになった。この現象は、アニオン性Ir錯体が可視光を吸収して分解する前に、カチオン性Ir錯体を高エネルギー状態にすることができることを示している。 実際にこのイオン対をCO2還元反応の光増感剤として使った結果、カチオン性Ir錯体やアニオン性Ir錯体を単独で光増感剤として利用した場合よりも多くの一酸化炭素がCO2還元生成物として発生することを確認した。 研究成果は7月6日、米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)誌にオンライン掲載された。今回の研究ではIr錯体を利用したが、この手法ではプラスとマイナスの電荷を持つ分子があれば、Ir錯体に限らず多様な組み合わせを検討でき、今後さらに優れた光増感剤を探索する糸口になるという。(笹田)