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パナソニック インドに継いだ“松下魂” 第1回

パナソニックがインドに力を入れるワケ

2023年06月23日 07時00分更新

文● 盛田 諒(RyoMorita) 編集● ASCII

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パナソニック エレクトリックワークス大瀧 清社長。メディア懇談会で

 電材などを扱うパナソニック エレクトリックワークス社の大瀧 清社長は6月20日、市場環境や今後の事業戦略などをメディア向けに説明しました。

 特に注目すべきは成長事業にあたる海外電材事業。エレクトリックワークス社は現在インド、トルコ、ベトナムの3ヵ国への進出を進めています。

 なぜエレクトリックワークスが海外に力を入れる必要があるのか。背景には国内市場とグローバル市場に起きている、ある“異変”がありました。

成熟を迎えつつある国内市場

 エレクトリックワークス社は照明や配線器具、分電盤など電材をメインに扱うパナソニックのグループ企業。2022年度のEBITDAは前年度比94億円増の749億円。計画以上の原価高騰などマイナス要因は合理化や価格改定で堪え、「将来への種まき」(大瀧社長)として成長投資も続けています。

 エレクトリックワークス社は利益の半分以上を生んでいる国内電材事業を「安定事業」、海外電材事業とエネルギーソリューション事業を「成長事業」とみなしています。このうち特に成長領域として業績において大きな比重を占めるのが海外電材事業。電材事業においては2030年に海外販売比率40%、分社EBITDA額の50%以上という高い目標を掲げています。

 海外に力を入れる理由のひとつは、少子高齢化に伴う国内市場の成熟です。

 エレクトリックワークス社は建設業界で稼ぐ電気工事領域の事業者。建設業界の動向をうらなう新設・新築着工件数、件名動向はここ10年ほど横ばいでしたが、2025年度以降は下落傾向に入るという予測があります。そこで安定事業で稼いできたキャッシュを成長領域である海外電材やエネルギーソリューションに振り向け、新たな事業の軸を育てようというわけです。

 ただし大瀧社長は、国内では観光やエネルギーなど地方経済の活性につながる兆しがあるとも指摘。「人口も減って、市場もシュリンクするというマイナスで考えてるとちょっとダメで、次のブライトスポットは出てくる」(大瀧社長)と語り、エネルギーソリューション事業などでそこを担おうという狙いも見せました。

“人口世界一”のインド市場に注力

 海外事業の中で、特に力を入れているのがインド、トルコ、ベトナムの3ヵ国。中でも積極的に投資を進めているのが成長期と見られるインドです。2022年度、インドのGDP成長率は7.2%で、GDP総額は過去最高となりました。

 「インドは世界一の人口であり、これから住宅がどんどん建つというフェーズに入ってきています。中間層もこれからどんどん増えてくるということですので、ここは我々は非常に堅く見ています」(大瀧社長)

 2007年にはインド大手電材メーカーのアンカー社を約500億円で買収。ダマン工場、カッチ工場、ハリドア工場と複数の生産拠点を抱えて、2022年には南部のスリシティに最新鋭の配線器具工場を稼働させています。

 特に力を入れているのが生産の自動化。かつて「サリーを着ている女性が手組みでやっていた」(大瀧社長)工場で現地に合わせた自動化を進め、1つの成果として本格的な自動化ラインを備えるスリシティ工場を完成させました。

 このスリシティ工場などで培った自動化技術を試金石として世界各国に自動化された工場を作り、電材の“地産地消”を進めていくのが基本方針です。

 なお自動化の決め手になったのはアンカー社の買収によって入手した、現地のBOM(部品表)の詳細データだったと大瀧社長。「これにより、どういう形で自動化をすればもの作りを強化できるかを学びました」(同)

 エレクトリックワークス社はトヨタで言う「カンバン方式」、需要予測と生産計画を密に連動させる実需連動のものづくりを強みとしてきました。そのノウハウをインド工場にも持ち込み、現地での競争力としています。

 「電線事業での実需連動のものづくりは、パナソニックの中では一番先進的な事例だと思います。非常に地味で、プロが見ないとわからないとは思いますが、日本での良い事例を展開できています」(大瀧社長)

 もうひとつの強みとしているのは人材育成。エレクトリックワークス社で展開している社内品質改善活動、QC(Quality Control)サークルをインドでも立ち上げ、技能教育など人材育成にも力を入れています。「ある意味では日本よりもアグレッシブにやっている。そこから我々も学んでいて、反省すべき点は反省してやらなあかんなあと」(大瀧社長)

“世界の工場”から“地産地消”へ

 エレクトリックワークス社が世界各国で製品の地産地消を進める一方、思い浮かぶのは「世界の工場」と呼ばれた中国。現在、中国はグローバル経済における役割が変わりつつあります。大瀧社長は現在の中国市場について、「中国からグローバルを見る方針ではありません」と表現しました。

 米中の深刻なデカップル(切り離し)が起きていること、データセキュリティ法による規制範囲があいまいになったこと、いわゆる反スパイ法の対象範囲が拡大されたこと。これらのリスクがある中、「中国に閉じた形の中で事業を拡大していく」位置づけで考えていると大瀧社長は話します。

 ただし、技術的なイノベーションにおいては中国に見習うべきところもあると言い、「エンジニアリング領域において、一部では日本より進んでる部分があります。事業競争力強化というところでは、設備、電気設備領域でしっかりと学びながら進めていく」(大瀧社長)とも話していました。

 今後エレクトリックワークス社では、インド、南アジア、中東、アフリカのISAMEA地域を中心に、欧州、中国をからめた「ISAMEA+2」を狙って海外展開を進めていく方針だということです。

インド工場に行ってみたい

 何気なく使っている照明やスイッチなどを手がけるエレクトリックワークス社。もともとは松下電工(パナソニック電工)由来の企業ということもあり、収益の安定性は盤石というイメージがありました。しかし現在、特に建設業界においては、少子高齢化の影響もあり、底堅さはすでに過去のもの。国内市場が大きい日本企業にとって世界展開は先延ばしにされるイメージがありましたが、今はもうそんな状況ではないのかもしれないと、個人的には社長の話に衝撃を受けました。

 その状況を見越してインドやトルコに積極的に投資をしてきたエレクトリックワークス社の采配にも驚かされますが、最新鋭の設備を入れて無人化したというインドの工場がどのレベルで作られているのかも興味がわきました。以前スイッチなどを作っているエレクトリックワークス社 津工場の様子をレポートしましたが、もしインド工場が取材できたときにはぜひレポートできればと思っています。

   

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