「不確実な時代」に求められるビジネスレジリエンス強化、Oracle CloudWorld Tourレポート
チケット販売の基幹DBをOCIでクラウド移行したぴあ、IT戦略を語る
2023年05月10日 07時00分更新
「不確実な時代」「VUCA」といったキーワードで表現される現在。多くの企業が予測のできない将来に備えて「ビジネスレジリエンス」の実現をテーマに、新たなIT戦略の構築に取り組んでいる。
チケット流通サービスを基幹ビジネスとするぴあでも、コロナ禍によるライブ・エンターテインメント市場の“一時的消失”という危機を経験し、「ビジネスレジリエンスを強化したIT基盤」をテーマとしたIT戦略に乗り出している。
2023年4月14日に東京で開催された「Oracle CloudWorld Tour」では、「ビジネスレジリエンスの実現:不確実な時代に成功するために」と題するセッションにぴあが登壇。同社が推進するIT戦略の変化、チケッティングシステムの基幹データベースに「Oracle Exadata Database Service」を採用しクラウド移行を行った背景、ミッションクリティカルシステムのクラウド移行におけるポイントなどを語った。
売上高が6割減、コロナ禍によるライブ・エンタメ業界への壊滅的打撃
「『感動のライフライン』の実現」を企業理念に掲げるぴあでは、イベントの主催やホール/劇場の運営、情報出版/メディア、興行主やホールなどへの業務支援など、ライブ・エンタメ業界を支える幅広いビジネスを展開している。最近では「バーチャルライブプラットフォーム NeoMe」「XR LIVE」といった、ライブ・エンタメのデジタル化にもチャレンジ中だ。
そうした中でも、同社の基幹事業はやはりチケッティングビジネスである。「チケットぴあ」のブランドで知られ、コンビニ、インターネットなど幅広いチャネル経由でチケット販売を行うこのビジネスは、年間およそ7500万枚のチケットを取り扱う規模だという。
だが、このチケッティングビジネスを直撃したのが、予想だにしなかったコロナ禍と、それに伴う各種ライブイベントの開催制限だった。ぴあ総研の推計データによると、コロナ禍に見舞われた2020年のライブ・エンタメ市場規模は前年比で「82.4%減」という壊滅的な打撃を受けた。「ぴあ自身も売上高が前年比40%まで落ち込み、過去最大の赤字を計上した」と山田氏は振り返る。
こうした危機的な経験が、ぴあのIT戦略にも影響を及ぼすことになる。
実は同社では、コロナ禍以前からIT戦略の見直しを進めていたという。デジタル/ITサービスの拡大に伴ってチケッティングシステムが巨大化、複雑化しており、外部サービスとの連携もスムーズではなかった。多くの企業と同様に、基幹システムの刷新で「新たなビジネスへの対応をよりスピーディなものにする」ことが大きな課題だった。
しかし、コロナ禍に伴うビジネス環境の急変や経営への打撃を経験して、ここに「さらなるビジネスレジリエンスの強化」や「ビジネスニーズへの柔軟な対応」という課題も加わった。その実現のために、将来的なクラウドネイティブ化も前提とした、基幹システムのクラウド移行が進められることになった。
ITによる「ビジネスレジリエンスの強化」を図る
ビジネスレジリエンスを強化するための具体的な要件として、「チケット販売の繁忙期でも性能を担保しながらコストコントロールができること」「24×365の可用性を担保すること」「移行時のサービス停止時間を最小限にすること」などがあった。ミッションクリティカルな基幹システムであり、特に性能要件については高いハードルがあったと山田氏は語る。
「多くの場合、チケットの販売開始は土日の朝10時。そこにアクセスのピークが来るが、わずか5~10分ほどのピークのために最大限のリソースを用意しておかなければならない。フロントエンドはクラウド化でスケールアウトもできたが、データベース部分はそうもいかない。ピーク時には最大限のパワーを保持しつつ、ピークが過ぎればリソースを減らしてコストコントロールできるようにする、というのが大きなテーマだった」(山田氏)
前述したIT戦略の具体的な施策のひとつとして、「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」上で稼働するクラウドデータベースサービス、Exadata Database Serviceの活用も盛り込まれている。まさにこれが、性能とコストを両立させる切り札になったという。
実はぴあでは、コロナ禍以前の2018年に一度、チケッティングシステム全体のクラウド移行を検討したという。当時はまだ、フロントエンドからデータベースまですべてがオンプレミスで稼働しており、これらをクラウドに「リフト」することが目標だった。
「当時はまだOCI(の日本リージョン)がなく、他社のパブリッククラウドでデータベースを動かすことを検討していた。フロントエンドのシステムはクラウドに移行できたものの、結局データベースは性能要件を満たせず、オンプレミスを継続する結果になった」(山田氏)
その後OCIの日本リージョンができ、Exadata Database Serviceを利用すればオンプレミスと同等以上の性能を実現できることがわかったことから、基幹データベースのクラウド移行も進むこととなった。
OCIに基幹データベースを移行、AWS、Azureも含めたマルチクラウド構成
このチケッティングシステムでは、Web/フロントエンドAP層とバックエンドAP層がAWS、Azureで、データベース層がOCIで稼働するマルチクラウド構成をとっている。
「AWSとAzureを使っていたフロントのほうはそのままで、データベースの部分をOCIに移行した。ただしデータベースとの通信量が多く、ネットワークレイテンシの影響があるアプリケーションについては、全体のバランスを取るためOCIに移行している」(山田氏)
コアデータベースを構成するExadata Database Serviceでは、「Oracle RAC」やアクティブ/スタンバイデータベースへの「Active Data Guard」適用などにより、従来のオンプレミス環境と同等の可用性やデータ保護性を担保した。加えて、セキュリティ対策のために「Oracle Cloud Guard」も活用している。
オンプレミスからのデータベース移行においては、「サービスを1日止めるだけで数億円規模の売上がなくなる」(山田氏)ため、サービス停止時間を最小限にする必要があった。具体的には「OCI GoldenGate」を活用したほか、オラクルのコンサルティングサービスからサポートを受けたという。
「今回初めてOCIを利用したため、われわれにはOCIの知識がまったくなく、何かサポートが必要だろうとコンサルティングサービスを利用した。移行作業の途中には問題も発生したが、それをスケジュールどおりに進めるうえで、コンサルティングサービスによる支援が大きな力になった」(山田氏)
こうしてOCIのExadata Database Serviceを導入した結果、既存システムと同等以上の性能が実現したという。繁閑期のコストコントロールについては、今後提供予定のオートスケール機能を活用して実現していく計画だという。
「ミッションクリティカルなシステムをクラウドで動かす時代が来た」
山田氏は、今回データベースをOCIに移行したことで、基幹システムのクラウドリフトという“Step 1”が完了したと語る。次の“Step 2”は「クラウドネイティブへのシフト」だ。
「現状はまだリフトしただけ。ここからクラウドネイティブへシフトしていかなければならない。クラウドネイティブ化によって、これからデジタル化が進むと予想されるエンタメのサービスをスピード速く提供できるようになる。それによりエンタメ業界全体を盛り上げていけるような、ぴあとしての立場を築いていきたいと思っている」(山田氏)
最後に、これからOCIやクラウドの活用を考えている聴講者に向けてのメッセージを求められた山田氏は、「ミッションクリティカルなシステムをクラウドで動かす時代が来た、これが一番重要なメッセージかなと思います」と答えた。
「また、大事なことは『自社の成長』や『事業継続』であり、無理にクラウド化するのではなく、きちんと要件や信頼性を確認しながらクラウドを選んでいただきたい。そういう意味で今回、OCIに移行して非常に良い結果が残せたので、そこはとても満足している」(山田氏)