冷却とゴミ除去に使用するのは
引火性危険物の水素ガス
次に光学系。DUVステッパーであるASMLのTWINSCAN NXT:1470のArF光源を占める部分は、下の画像の赤く示した部分である。ArF光源だとミラーで方向を変え、レンズを使って光を収束できるので、見かけは綺麗に収まることになる。ところがEUVの場合、波長が短すぎるためにレンズにあたるものが現状製造できない(*2)。
そこで基本ミラーを利用した反射光学系で構築することになる。これはマスクも同じで、DUVまでで使っていた透過型マスク(パターンを残したいところをマスクし、それ以外を透過させる)は、レンズと同じ理由(透過させる材質がない)で使えない。そのため反射型マスク(パターンを残したくない部分をミラーとして構成する)を利用することになる。
この光学系でもう1つ問題だったのが、高エネルギーのEUVがあたることによるミラーやマスクの欠損である。要するに連続利用していると、ミラーやマスクに欠陥が生じ、そうなると正しくパターンの露光が不可能になる。
ついでに言えば、EUVではミラーやマスクに高エネルギーのEUVが当たるわけで、それを100%反射することはできないのでミラーやマスクがEUVを吸収、温度が上がることになり、これに起因する問題(歪や熱での破壊など)も発生しうる。
欠損や熱の問題を防ぐとともに、欠損などが生じた場合のゴミの除去のために、気体を吹き込んでやる必要がある。従来EUV露光装置の内部は真空、という説明が良くあったが、実際に上の画像を見ると黄色で囲った部分、あきらかに吸気/換気をするための仕組みが用意されているのがわかる。
この気体であるが、なんと水素ガスを使っているとのことである。なぜ水素か? というと屈折率と吸収率の問題である。水素では屈折率は1.028と空気に近いうえ、空気そのものだとEUVをかなり吸収してしまうのに、水素なら吸収率が低いためである。
ただ理屈はわかるが、水素ガスであるから取り扱いは要注意であるのは言うまでもない。酸素と結合したりするとあっという間に大爆発を起こしかねないからだ。
試しにTSMCのFab 15BをGoogle Mapで確認してみると、確かにあちこちに液体水素タンクと思しきものがあるのがわかる。これだけのシステムを構築するのに時間が掛かるのも致し方ないところだろう。
Google Mapより抜粋。赤く囲った部分が、水素タンクと思しきもの
(*2) これはEUVではレンズを透過できないことに起因する。将来、EUVを通すような材質を使ったレンズや、純物理的には重力レンズのような方法もあるのだろうが、現実的ではない。
EUVの問題点は開口値が低く
解像度が足りないこと
ところでそのEUV露光機、現在はNXE:3400CとNXE:3600Dの2つがラインナップされている(実際にはNXE:3400も3400/3400A/3400B/3400Cとバージョンアップされてきているし、これは3600の方も同じ)が、スペックを見ると以下のようになっている。
| EUV露光機のラインナップとスペック | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 機種 | 光源 | 開口値 | 解像度 | スループット | ||
| NXE:3400C | 13.5nm | 0.33 | 13nm | 160枚/時以上 | ||
| NXE:3600D | 13.5nm | 0.33 | 13nm | 170枚/時以上 | ||
ちなみに液浸を使ったTWINSCAN NXT:2050iの場合、スループットは295枚/時以上なので、半分を超えてはいるがまだ十分な速度とは言えない。スループットを向上するにはさらに光源出力をあげることになるが、これはさらなる問題(消費電力の増加とミラーやマスクの欠損頻度の上昇)につながるので、TSMCなどは台数を増やしてスループットを確保する方向である。
それはともかく問題になるのは、解像度がそれでも13nm程度でしかないことだ。主な理由は開口値が低いことである。ArFなどと違い、レンズも使えなければ液浸であげることもできなない。ASMLは次世代のEUV露光機では開口値を0.55まで引き上げるとしており、この初号機をインテルが導入すると2020年に発表したが、これはまだ先の話である。
その一方で、すでにTSMCはN5の量産をとっくに開始し、N3も量産に入っているが、このN3では13nmでも解像度が足りないし、この先GAAを利用したN2になると13nmのままでは対応ができない。ということでこの先は次回に続く。

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