理化学研究所や奈良女子大学、大阪大学などの国際共同研究チームは、π(パイ)中間子が原子核に束縛された「π中間子原子」の精密測定を実施することで、真空が空っぽの空間ではなく、見えない構造を隠し持つことを示す実験結果を得ることに成功した。
理化学研究所や奈良女子大学、大阪大学などの国際共同研究チームは、π(パイ)中間子が原子核に束縛された「π中間子原子」の精密測定を実施することで、真空が空っぽの空間ではなく、見えない構造を隠し持つことを示す実験結果を得ることに成功した。 現代物理学の理論によると真空は、約138億年前のビッグバン直後の高温・高密度状態から広がり冷えていく過程で、クォーク(原子核を構成する素粒子)と反クォーク(クォークの反粒子)の対が空間に凝縮した状態(「クォーク凝縮」と呼ぶ)で満たされるようになったとされている。この理論は物質の質量の起源に関する基礎的理論となっているが、クォーク凝縮は直接観測できないので、実験的な実証が課題となっている。 研究チームは今回、超高密度の環境である原子核内部におけるクォーク凝縮の情報を得るために、電子の代わりに電子の約300倍の質量を持つπ中間子を原子核に束縛させたπ中間子原子に着目した。理研の超伝導リングサイクロトロン加速器(SRC)で光速の約60%まで加速した重陽子ビームをスズ標的に照射してπ中間子原子を大量に生成。励起エネルギーを精密測定することで、原子核内部におけるクォーク凝縮が原子核外部の77±2%まで減少していることを突き止めた。 今回の成果は、非常に高温ないし高密度な環境を作り出せばクォーク凝縮の量が減少するという現代物理学の理論に基づく予測と合致し、真空の構造についての理解を深めるために重要な手がかりになるという。研究論文は、科学雑誌ネイチャー・フィジックス(Nature Physics)オンライン版に2023年3月23日付けで掲載された。(中條)