国立天文台の「すばる望遠鏡」の超広視野主焦点カメラ(HSC)による大規模撮像探査(HSC-SSP)の国際共同研究チームは、全探査の半分弱にあたる中間データを用いて、宇宙のダークマターの分布を精密に測定し、「宇宙の標準理論」を検証。その結果、標準理論において「宇宙の構造形成の進行度合いを表す物理量」の値が、ビッグバンから38万年後の宇宙を観測して得られた値と95パーセント以上の確率で一致しないことを確認した。
国立天文台の「すばる望遠鏡」の超広視野主焦点カメラ(HSC)による大規模撮像探査(HSC-SSP)の国際共同研究チームは、全探査の半分弱にあたる中間データを用いて、宇宙のダークマターの分布を精密に測定し、「宇宙の標準理論」を検証。その結果、標準理論において「宇宙の構造形成の進行度合いを表す物理量」の値が、ビッグバンから38万年後の宇宙を観測して得られた値と95パーセント以上の確率で一致しないことを確認した。 宇宙の標準理論によれば、宇宙は約138億年前のビッグバンという大爆発で始まり、その後、膨張を続けている。研究チームは、約3年間分、約420平方度(満月2000個分)の天域の観測データを用いて重力レンズの効果を測定し、ダークマターの分布を測定。宇宙の標準理論のパラメータの一つである、現在の「宇宙の構造形成の進行度合いを表す物理量(以後、S8)」を可能な限り正確に算出した。 その結果、S8の値は0.76となり、欧州宇宙機関(ESA)の「プランク(Planck)」衛星による宇宙マイクロ波背景放射の測定で得られた値(0.83)と一致しないことがわかった。研究チームによると、S8の不一致は、前提としていた宇宙の標準理論の綻びのせいかもしれず、標準理論には含まれていない宇宙の新しい物理が存在する可能性があるという。 今回の観測だけでなく、後期宇宙の他の観測データから得られたS8は、Planck衛星のS8の値より小さく、「S8不一致問題」として注目されていた。研究チームは今回、高精度の観測データに基づく慎重かつ客観性を担保した解析においても、S8不一致問題が存在することを確認した。研究論文は2023年4月3日に未査読論文投稿サイト「アーカイブ(arXiv)」に投稿された。(中條)