東京大学とリコーの共同研究チームは、転写因子で誘導されたヒトiPSC由来神経細胞(ヒトiPS細胞を分化させることで生体外で人工的に作製された神経細胞)を用いることで、ヒトの脳神経細胞の成熟過程を再現。高い効率での棘構造(樹状突起スパイン)の形成と、シナプス機能の成熟化に成功した。
東京大学とリコーの共同研究チームは、転写因子で誘導されたヒトiPSC由来神経細胞(ヒトiPS細胞を分化させることで生体外で人工的に作製された神経細胞)を用いることで、ヒトの脳神経細胞の成熟過程を再現。高い効率での棘構造(樹状突起スパイン)の形成と、シナプス機能の成熟化に成功した。 研究チームは今回、転写因子(ゲノムDNAの遺伝子情報から転写によるmRNAの発現を開始または制御するタンパク質)を使って、ヒトiPS細胞を脳の神経細胞に分化誘導したところ、従来の3分の1に相当する2~3カ月で神経細胞の樹状突起上に樹状突起スパインが無数に形成されることを確認。さらに、スパインに集積しているドレブリン(細胞の形を作っている骨格であるアクチン線維を安定化させるタンパク質)がグルタミン酸刺激により樹状突起内に移動する現象(ドレブリンエクソダス)を観察した。記憶メカニズムにかかわるドレブリンエクソダスの現象をiPSC由来神経細胞で観察したのは世界で初めてだという。 これまで用いられていた分化誘導法ではスパイン形成が非常に遅いか少ないために、今回のようにスパイン形成までの時間経過を解析することができなかった。転写因子誘導されたヒトiPSC由来神経細胞では、スパイン形成までの期間が短縮されたことで、大幅な実験コスト削減が実現するという。今回の研究成果はヒトの神経シナプス機能の研究を加速し、中枢神経系疾患の病態解明や認知機能障害などを標的とした治療薬開発への活用が期待される。研究論文はアイサイエンス(iScience)に2023年2月27日付で掲載された。(中條)