第2世代「HomePod」が登場した。初代から他社のスマートスピーカー以上に「良質な音」に拘ったHomePodだけに、音質面では2代目も期待を裏切らない完成度だった。
新しいHomePodの新機能の数々ついては、「空間オーディオ再生充実! 第2世代「HomePod」速報レビュー」をご覧いただくとして、本稿では、音質や空間オーディオに焦点を当てて「スピーカー」としての実力に迫ってみたい。
音質評価においては、音楽制作者である筆者が録音とマスタリングを手がけたコンテンツを評価音源に用いて、少し意地悪とも思える比較も実施した。
初代からみちがえるほどに進化した音質
まず、驚いたのは初代HomePodからの音質向上だ。新しいHomePodを一聴しただけで「あっ、いい音」と思わずひとりごちてしまった。初代は、高域の伸びがなく、低域にいたってはしまりのない、だらしない音で、正直なところ音楽を聴く気が失せる代物だった。
初代の低域特性を敢えて擬音表現すると「ボワンボワン、ブカブカ」といった印象で、聴いていて「えーい、シャキッとせい!」と活を入れたくなったものだ。
これは余談だが、そんな初代HomePodですら当時、各社から一斉に発売されたスマートスピーカーの初期モデルと比較すると、相対的に音が良かったのだから、当時は各社ともにIoT端末としての性能に注力し、音質は二の次だったことがうかがい知れる。
新しいHomePodは、まず、高帯域の表現力が桁違いに良くなっている。スッとヌケるようなクリアな出音を実現し、「ボワンボワン」だった低域も、応答性に磨きをかけたのか、輪郭のはっきりしたしまった音に変貌している。脂肪でぶよぶよだったお腹が筋肉質の割れた腹筋を手に入れた、そんな印象だ。
低域の輪郭が明瞭になったことが、全帯域において聴覚上良い影響を与えているようで、初代のオブラートに包んだような、くぐもった音像から見事に脱却し「ヌケた」音を実現している。
業界標準のGENELECと対等に戦える実力
HomePodの利点は、単体使用でも広がりのある音像を演出している点だ。内蔵マイクで収集した音を解析することで、アレイ状に配置したマルチスピーカーを制御する仕組みのおかげで、通常のモノラルスピーカーでは味わえない、包み込まれるような音像を体感することができる。
とはいうものの、どうしても音源が1ヵ所なので、ステレオ再生を前提としてミックスされた音楽を聴いていると、楽器の定位はもちろん、音世界の構築や表現力には限界がある。その課題に対しアップルが用意した解答は、HomePodをもう1台追加して、ステレオペアにすることだ。
HomePodのステレオペアは、単体運用とは異なり、上下左右への広がり感、奥行き感が増し、彩り溢れた音世界が形成され、ステレオ本来の良質なリスニング体験が実現できる。前述のように、新しいHomePod自体の音質が向上しているので、1+1=2という枠を超えて、良質度が3にも4にも上昇する、そんな印象を持った。
試しに、筆者が録音とマスタリングを手がけたソロピアノアルバム「ピアソラ×ピアノ」(演奏:下山静香)をApple Musicで再生し、マスタリング時に使用したGENELEC 8020と比較してみた。
ピアソラはいえばタンゴだが、実は多くのクラック系楽曲も遺している。そんなピアソラのピアノ曲を集めたアルバム。ハイレゾロスレス(192KHz/24bit)で配信されている
この音源は、録音・編集・マスタリングの過程においてたぶん100回近くは聴いていると思うので、音質や音像はこうあって欲しいというイメージが脳に刻み込まれているし、GENELEC 8020での再生においては、そのイメージに最適化された音が出てくるわけだ。
この音源は、ピアノに近接したマイクに加え、クラシック専用ホールの透明感ある残響をキャプチャするために、2組のステレオマイクを中間と高所に配置し、それを十二分に活かしたミックスを心がけた。
HomePodにおけるピアノの実音は、GENELEC 8020と比較しても低域から高域まで過不足のない音質で再現されている。また、ピアノの低音弦から高音弦にかけての定位感もイメージ通りで、実に優秀だ。
その一方で、残響成分に耳を懲らすと、響きの透明感が弱い。それゆえに広がり感までが減衰してしまっている。また、残響が消え入る瞬間の空気の微動のような部分は表現しきれていない。
ただ、この評価は、制作者本人ゆえの重箱の隅をつついた感想だと受け止めていただければと思う。ステレオペアで9万円弱のスピーカーでここまで再現できれば文句はない。ちなみに、GENELEC 8020はステレオペアで13万円程度。