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“サステナブルなIT”実現に向けて何ができるのか? HPC&AI担当幹部に聞く

水冷サーバー技術「Neptune」で消費電力と性能の両立に挑むレノボ

2023年03月08日 08時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 今やあらゆる業界において気候変動対策の取り組みが求められている。中でもIT業界は、社会全体のデジタル化が進む一方で、その電力消費により生じるCO2排出量をいかに削減するかという重い課題を担っている。

 その課題解決を支援すべく、Lenovo(レノボ)が継続的に開発してきたのがサーバー水冷技術「Lenovo Neptune」だ。現時点では学術機関などHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)用途が中心だが、関心はあらゆる方面から寄せられているという。

 今回はLenovo ISG(インフラソリューションズグループ)でHPC&AI担当のEVPを務めるスコット・ティーズ氏に、Lenovoが取り組む気候変動対策の戦略を聞いた。

Lenovo ISG HPC&AI担当 エグゼクティブバイスプレジデントのスコット・ティーズ(Scott Tease)氏。背後にあるのはNeptune採用サーバーのモックアップ

――データセンターのCO2排出量などから、IT業界は気候変動で責任ある取り組みが求められています。Lenovoのアプローチについて教えてください。

ティーズ氏:最近ではどの国の顧客と話をしていても、サステナビリティについての関心の高まりを感じる。

 企業がITをもっとサステナブルにするためには、「何を、どのように購入するか」「購入後の運用をどうするか」「EOL(End of Life、製品の保守終了)後にどう対処するのか」と3つの段階で意思決定を下すことが重要だと考えている。

 サステナビリティの鍵となるのは消費電力だ。たとえばサーバーでは、製品のライフスパン全体で排出するCO2の約80%が「使用中の電力消費」に起因する。日本の電力は化石燃料が多くを占めており、1キロワット時(1kWh)の消費電力量あたり0.5キログラムのCO2を排出している。

 もちろん消費電力量はコストにもかかわる。少し前のデータになるが、キロワット時あたりのコストで日本は欧州と米国の中間だった。ただし日本の電気料金も上昇傾向になる。

 つまり、サーバーなどのIT機器が消費する電力を削減することで、サステナビリティとコスト、両方の観点でメリットがある。

――しかし、AIのディープラーニングに代表されるような、膨大な計算処理が必要なユースケースも増えています。

ティーズ氏:そのとおりだ。高度なワークロード処理を行うためCPU、GPUもパワフルになっており、そのままでは消費電力が増え、コストも増加する。

 Lenovoが目をつけたのは「空冷ファン」だ。機器をオーバーヒートさせないために必要とされる仕組みだが、計算処理という点ではそれ自体は何の価値も生まないパーツだ。しかし電力は消費する。

 CPU、GPU、メモリ、ネットワークアダプタなどが高度化、大容量化する中で、それらの発熱量も高まり、そのぶんサーバーのファンが消費する電力も増えている。現在ではサーバーが消費する電力の10~15%はファンに起因するものだ。

 ファンの電力消費を削減する取り組みとして、Lenovoでは「Lenovo Neptune」を開発した。空気よりも熱伝導率の高い液体(水)を使ってCPUやGPU、メモリといったパーツを冷却する技術で、冷却のパフォーマンスもエネルギー効率も良いため、総じてコストが下がる。もうひとつ、ファンを使わないので静音も実現する。

直接水冷方式「Lenovo Neptune Direct-Water-Cooling(DWC)」を採用したサーバー。ファンはなく、最大40%の省エネにつながるという。左はAMD、右はIntelベース

 Neptuneは空冷ファンなし(ファンレス)でサーバー内の排熱を除去できるが、データセンターの側に冷却水を供給する設備が必要となる。そこで、空冷サーバーの中に液体冷却の仕組みを付け加えたサーバーも設計している。ファンレスではないものの、サーバー内を液体が移動して排熱を除去するので、100%空冷式のサーバーよりもファンの速度が下げられ、音も静かになる。もちろん消費電力も減るので、顧客には好評だ。

空冷サーバーに液体冷却(クローズループ)の仕組み「Lenovo Neptune Liquid-to-Air Module」を組み込んだ「ThinkSystem SR 630」

――Lenovoのポートフォリオにおいて、Neptuneが利用できる製品の割合はどのくらいでしょうか。実際にどのような顧客が導入していて、それが一般的になるのはいつごろだと考えていますか。

ティーズ氏:Neptuneは従来、限られた製品だけで利用できる技術だったが、現在はポートフォリオの半分程度には何らかのかたちでNeptuneの技術が盛り込まれている。

 日本での導入事例はまだないが、海外市場では大学などの学術機関での採用が多い。最初の顧客は、ドイツ・ミュンヘンにあるライプニッツ研究センター(LRZ)だ。電気料金が高いという課題があり、Neptune技術を採用したLenovoのHPCシステムを利用することになった。

 この導入は10年前のことだが、消費電力の削減だけでなく、パフォーマンスも改善し、サステナビリティに対する取り組みとしても評価してもらっている。現在も良好な関係が続いている。

 この例のように、現状では大規模な処理を必要とするHPC分野での採用が多い。たとえば気象予測はHPCの代表例だが、8000台のサーバーを導入している韓国の気象庁のほか、カナダ、オーストラリアでも気象庁がNeptuneを採用している。

 ユニークな例としては、世界的に有名なアニメーション制作会社のDreamWorksがある。同社ではデータセンターの刷新にあたって水冷方式を導入し、パフォーマンスを20%向上させると同時に、コストを改善したと聞いている。この例のように、現在は空冷を利用している既存のデータセンターであっても、水冷方式に切り替えることは可能だ。

 さらに現在では、配管作業を必要としないサーバーも出てきており、意識することなくNeptune技術を使っている企業もある。初期投資が低く済むので、こうした形での導入が今後増えるものと予想している。普及は加速するだろう。

――Neptuneを含めて、Lenovoは企業のITサステナビリティを今後どのように支援していくのか、計画を教えてください。

ティーズ氏:カーボンニュートラルの先は「カーボンネガティブ」だ。風力、太陽光などの再生可能エネルギーを使い、Lenovoの「ThinkSystem SD650」のような水冷サーバーを採用して、温まった水は建物の暖房や温水供給システムに回す、あるいは温水プールに使う。IT機器の排熱を単に廃棄するのではなく、価値あるものに変えて利用するという将来像が考えられる。

 これは現時点のNeptuneでも技術的には可能だ。少しずつ、循環型のITに向かうことができる。

 そのほかのサステナビリティ支援として、梱包段階の廃棄物削減や汚染削減、スマートフォンからデータセンターまで全製品でオプション提供する「CO2オフセットサービス」、EOLを迎えた製品を買い取る@Asset Recovery Services」などの取り組みも進めている。

――ESG経営などにより、サーバーなどの機器選定にあたっての優先事項が変わってきたと感じますか。それにともなって、Lenovoでも顧客へのアプローチを変えていますか。

ティーズ氏:顧客の選定基準はここ数年で確実に変化している。顧客は機器を購入する際、製造から配送、運用、EOLまでのライフサイクル全体を見通したいと考えている。そしてLenovoはこれに応えることができる。たとえばサーバーを設定済みの状態で出荷することができるし、CO2排出量の大きい航空便ではなく船便で配送することもできる。顧客がサステナビリティに対する関心を深めることは、Lenovoにとってプラスに働くとみている。

 顧客とのやり取りでは、IT購買担当者だけでなく、幅広い人が意思決定に関与するようになっている。そこで我々も”グリーンセミナー”として、これまでとは違う層の人たちに、製品を紹介する機会を増やしている。ITと経営の両方から話ができるようにしている。

――日本市場では直接水冷のNeptune導入はまだとのことですが、市場をどのように見ていますか?

ティーズ氏:日本はクラウドの移行が米国より遅れているが、米国ではクラウドからオンプレミスに戻る動きも少なくない。クラウドとオンプレミスの最適なバランスはどこなのかを模索している状態だ。ここで、日本は先行事例に学ぶことでアドバンテージが得られるだろう。Lenovoは機器を自社のデータセンターに置きながら使用量に対して課金するサービス「TruScale」を提供しており、日本の顧客は安心して使うことができる。

 サステナビリティへの関心は日本でも高まっており、電力コストを懸念する企業も増えていると聞く。Neptuneはこの2つを同時に満たすことができる素晴らしい技術で、その魅力を伝え、支援していきたい。

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