国産建設用3Dプリンターの旗手が語る現在地
建設用3Dプリンターメーカーの株式会社Polyuse(ポリウス)は2023年2月15日、新規投資家でユニバーサルマテリアルズインキュベーター、SBIインベストメント、Emellience Partners、既存投資家でCoral Capital、池森ベンチャーサポート、吉村建設工業を引受先とした7.1億円の第三者割当増資の実施を発表した。今回の資金調達を通じ、建設用3Dプリンターのさらなる研究開発および生産、供給体制の拡充を図る。
建設業界では就業者の高齢化に伴う慢性的な人材不足に加え、老朽化が進む社会インフラ、工期の長期化、資材高騰によるコスト高、環境への配慮など課題は多い。こうした問題に対処すべく、Polyuseでは建設用3Dプリンターの研究開発を行っている。国内唯一の建設用3Dプリンターメーカーとして、2022年1月に国内で初めて国土交通省公共工事での技術採択を皮切りに、2022年度は全国で30件の3Dプリンター施工を実施した。
近年、建設分野で3Dプリンターの活用が注目されているが、多くのケースでは海外の機器を輸入して研究開発や施工を行っているという。Polyuse代表取締役の大岡航氏は「国内のメーカーとして、建設用3Dプリンターをゼロベースで開発しているのは、私たちPolyuseのみ。さらに自ら施工もするほか、施工サポートや施工データの集約など、設計や計画、サービス設計まで行っている」と自信を持って語る。
大手ゼネコンでも建設用3Dプリンターの研究開発を進めている企業はあるが、自社の施工現場における業務効率化や生産性向上を前提としており、建設用3Dプリンター自体の販売やサービスは現状ではまだ出ていない。建設用3Dプリンターを活用している施工会社でも、機器自体は海外企業やPolyuseのものを購入して使用しているケースがほとんどだという。
こうした動きの中、大岡氏は「新しいものづくりのあり方が広がっていくのは私たちとしてもありがたい。しかし今後、建設用3Dプリンターをさらに普及させていくためには、関連する法律やガイドラインの整備が求められる」と指摘する。例えば、国内と海外では建築や安全の基準に違いがあることから、海外の建設用3Dプリンターでは日本の安全や品質の基準を全面的に網羅することは難しい。そのため、このままでは建設用3Dプリンターの利用範囲が限定されてしまったり、品質保証の観点から不利になってしまったりすることも考えられるという。
Polyuseでは国内の基準をほぼ満たしている状態にあるが、大岡氏は「道のりはとても大変だった。基礎研究や実証実験に3年ほどの時間を費やしてクリアできた。それが現在の実績にもつながっている」と言う。それでも大岡氏は「まだまだ課題がある」とする。「国によって建築のルールが異なるだけでなく、国内でも地域によって建築の“文化や技術”に違いがある。例えば、豪雪地域と他の地域では、屋根の形やつくり方は別であり、文化が異なれば使われてきた技術や施工プロセスも違ってくる。3Dプリンターで一様に制作できるという単純なものではないし、海外の機器では日本の建築基準法を満たしていないケースもある。しっかりとした議論が必要だ」と語る。
こうした状況を踏まえ、2022年から国土交通省とPolyuseや清水建設、大成建設などが入り、官民共同での協議の場が設けられ、日本のガイドラインをつくろうとする取り組みが行われている。内閣府規制改革推進会議のワーキンググループで議論が行われ、議事録などがWebサイトで公開されている。今回の資金調達でも、これまでの実績や技術に加え、このような取り組みも評価されているようだ。
今後について大岡氏は、3Dプリンティング技術を通じて建設業界が直面する諸問題の解決を図っていく中でも、特にインフラに焦点を当てていきたいという。「道路やダムなど街の基盤となるインフラのほか、建築物であれば病院や教育機関、防災トイレなど公共性の高い建物に優先して技術を活用していきたい」と語った。
また、Polyuseでは今回調達した資金をもとに、現在パートナー企業を中心に順次納品している建設用3Dプリンターの精度や品質の向上など、さらなる研究開発を進めるとともに、蓄積してきた施工データを施工管理や計画段階でも活用できるプラットフォームなど、新たな領域にもプロダクトを発展させていくとしている。