中国の2023年の春節は、移動制限が解除されたこともあり、出稼ぎや進学で地元を離れていた中国人の多くが帰郷をした。その大半がコロナ禍以前の2019年以来となったはずだ。春節の時期は家族・親族で集ってご飯を食べ、(地域差はあるが)「春晩」と呼ばれるテレビ番組を見て、家族親族でまったり過ごすのが通例である。
中国のネット企業もこの期間は基本お休みモードとなるのだが、久々に人が移動する春節を狙ってサービスを仕掛けた企業もあった。沿岸部の都市で稼いでいた人も、村にとどまった老人も、老若男女、懐具合もネットリテラシーもネット依存具合も異なる人々が一斉に同じ場所に集まるのであり、これは企業にとってはサービスやテクノロジーを認知させるのにまたとないチャンスなのである。ではどんなサービスを仕掛けたのか、日本のビジネスアイデアになるかもしれないので紹介したい。
物流の拠点に老人向きの健康コーナーを設置
春節の前の時期に多くの中国人がコロナウイルスに一斉に感染した。もっともこれは大都市の話であり、小都市や農村部は春節で人々が大移動した後に感染が広がると言われていた。この農村での感染対策としてアリババが動いた。
アリババ傘下のECサイトの淘宝(Taobao)や物流の菜鳥(Cainiao)などが、健康機器メーカーと連携し、菜鳥の物流拠点に「健康コーナー」を展開し、血圧計や血中酸素濃度を測定するパルスオキシメーターを無料で使えるようにした。その拠点数は中西部と東北地方の563の県(小都市)の1330ヵ所と数は多いが、広い中国から見ればまだまだ。それでもこれを利用してもらうことで、菜鳥も健康機器メーカーも認知してもらえるわけだ。
中国も高齢化社会が進み人口が減少し始める一方、65歳以上の人が約2億人いる。また調査によれば、中国で1人暮らしの独居の高齢者は1億人以上いるという。同居人がいないと、いざ体調に異常があったときには大変なもので、春節に都市部から人が押し寄せてくるとなれば高齢者の健康対策には一層気をつけなければならない。健康コーナーを展開した中西部と東北地方というのは特に出稼ぎで出て行く人が多く、独居の高齢者の割合が高い地域であるそうだ。
中国政府は高齢化社会や健康に関する五ヵ年計画を発表し、健康領域の産業振興を後押ししている。また、中国のヘルステック業界に目を向ければ、アリババやテンセントなどのネット大手や保険などさまざまな企業が競争している状態だ。
健康コーナーは高齢化社会に目を向け、高齢化社会の問題を解決する小さな試みではある。ただ単なる慈善事業にとどまらず、今後健康コーナーとなった各地域の菜鳥の拠点に継続的に高齢者サービスを提供することで、農村部の高齢者、ひいては都市で暮らすその家族もアリババの健康サービスを使わせるための種まきとなるはずだ。
電子書籍のオーディオブック機能で
自分や知人の声で読み上げてくれる機能を追加
家族が集まったタイミングを見計らってローンチされたサービスもある。ファーウェイは米国から制限を受けるなか、HarmonyOSとそれ用のアプリケーションをリリースしており、その1つとして「華為閲読(Huawei Reading)」という電子書籍サービスがある。電子書籍は中国でも億単位のユーザーが利用する普及しているサービスだ。また、中国でもバリアフリーを目指しており(そうはいっても不便な点も数あるが)、音声で朗読するオーディオブックのコンテンツは充実している。ここにカスタマイズ音声朗読機能が追加されて利用できるようになった。
華為閲読のオーディオブック機能でも、老若男女のさまざまな気持ちをこめた声で読み上げる。今回の新サービスでは録音した声を元にAIが音声をつくりだし、自分自身や知り合いの声で読み上げるという機能を追加した。
発表のときには、春節で家族親族が集まるときに、家族親族と戯れるのが好きな子供が親族の声を録音し、AIが作り出した声で有名な本や詩の一説を読み上げてそれを家族親族がいる中で聞かせるという映像を公開した。遊び盛りの子供でもいいし、テクノロジー好きな親族の誰かが「こんなサービスがある」と使ってもいい。そうすることでファーウェイの華為閲読のサービスとAIのテクノロジーを知ることができる。人が集まる前のタイミングだからこそリリースする意味があるというわけだ。
またこのタイミングで電子ブックの版権を所有する閲文集団とファーウェイは提携し、一時的に閲文の所有する人気小説を華為閲読で無料で読めるキャンペーンを実施。これもまた実家での時間の消費に使ってみてほしいという意図がありそうだ。

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