弘前大学と日本原子力研究開発機構の研究グループは、肺がん(非小細胞がん)の放射線治療の効果を予測するモデルを開発した。
弘前大学と日本原子力研究開発機構の研究グループは、肺がん(非小細胞がん)の放射線治療の効果を予測するモデルを開発した。 研究グループは、腫瘍が不均質な細胞集団であることに着目。特に、放射線に強く抵抗するがん幹細胞の存在を考慮したモデルを開発することで、細胞実験データから臨床の治療効果を再現できると考えたという。 今回の研究では、放射線照射後に誘発するDNA損傷とその修復過程に基づくレート方程式を解くことで、放射線の線量と細胞殺傷効果の関係を予測できる「integrated microdosimetric-kinetic(IMK)」モデルに基づく予測モデルを構築した。IMKモデルでは、放射線感受性が高い子孫細胞と、放射線に抵抗する幹細胞の2種類の細胞集団を考慮している。このIMKモデルを拡張し、臨床における治療成績を反映させた指標である腫瘍制御率(Tumor Control Probability:TCP)の予測を可能にした。 検証では、開発したモデルを細胞実験から得た細胞殺傷率データに合わせて、モデル・パラメーターを決定。このモデル・パラメーターを使用してTCPを予測して、弘前大学の2003年以降の肺がん患者のTCPと比較した結果、USCモデルと同様に幅広い線量範囲における細胞殺傷効果の実測値の再現に成功したという。 さらに、開発したモデルとUSCモデルを使い、臨床における治療効果を示すTCPの推定を試みた。その結果、今回の研究で開発したモデルだけが臨床の肺がんデータの再現に成功した。以上の結果から、がん幹細胞を考慮して開発した予測モデルによって、細胞実験で測定できる肺がん細胞の細胞殺傷効果だけでなく、臨床における肺がん治療効果も再現できることが分かった。 研究成果は2月15日、ラジオセラピー・アンド・オンコロジー(Radiotherapy and Oncology)誌に掲載された。今後は、今回の研究で開発した予測モデルを肺がんに限らず、他のがん組織に対しても適用していくとしている。(笹田)